第9話 美人なお姉さんはピザが食べたい

 その後、昨日の夜に買っておいたお菓子をつまみながらネッ〇フリックでアニメや映画を見た。

 

 これはいつもの俺の休日の過ごし方なのだが、いつもと違うところと言えば左腕に美人なお姉さんがしがみついていること。

 

 俺はどうしてモデルと言われてもおかしくないほどに美人なお姉さんに好かれてしまったのだろうか。

 フィーリングとは、実に恐ろしい。


 なんだかんだ時間は過ぎていき、もう辺りはすっかり夜に溶け込んでいた。

 朱里さんのおなかが「ぐぅ~」となる。


 少し恥ずかしそうに頬を赤く染めた後、ばっと立ち上がった。


「ピザ! そうだ、ピザを頼もう!」


 自由の女神……いや、グリコ……。その二つの中間くらいのポーズを取った朱里さんが、「ピザ!」と元気よく連呼している。


「ピザ食べたいんですか?」


「そうね。でも一応直哉君の意見も聞くけど?」


「一応なんですね……というか、僕と夕ご飯を食べるのは決定なんですか?」


「そりゃ同じ家に住んでたら一緒に食べるでしょ?」


 「なにかおかしいこと言ってる?」と言わんばかりの顔で俺のことを見てくる。

 普通におかしいことを言っていると、俺は思う。


「なぜ同棲している設定?」


「設定じゃなくてマジよ。これから私はここで生活するね!」


「……それだけはマジで勘弁してください。一緒にご飯食べますから……」


 こんな爆弾みたいな存在を抱えて生活できない。

 たまに数少ない高校の友達が俺の家に来るのに、美人なお姉さんがいたら大変な騒ぎになる。俺の友達、結構変わってるし。


「うーん……しょうがないなぁ。じゃ、ピザ食べよっか!」


「は、はい」


 そんな感じで今日の夕ご飯は朱里さんとピザを頼むことになった。

 

 どうやら朱里さんはシェアして食べたいらしく、食べれる範囲で何種類ものピザが一枚になっているものを頼み、俺はそれに従った。


 数十分後、ピザが届いた。


「うはぁーおいしそう~」


 やはり女子はおいしいものが好きなのか、キラキラと輝くピザを目の前にして、朱里さんも同様に目を輝かせていた。

 

 夕ご飯を誰かと食べるなんていつぶりだろうか。

 今までコンビニ弁当かカップ麺だったから、こうして出前を取ったのも久しい。


「では、いただきまーす」


 朱里さんはチーズのピザを小さな口でぱくりと食べる。


「ん~おいひい~」


 朱里さんは実においしそうに食べるものだから、なんだか食欲をそそられて、俺もピザをいただいた。

 

 食に対して比較的興味のない俺だが、このピザはいつもよりおいしく感じる。


「はい、直哉君あーん」


 チーズのピザを一切れ取って、俺の口元に寄せてくる。

 一瞬ためらったのだが、朱里さんがあまりにもいい笑顔をしていたので、お言葉で甘えてあーんしてもらった。


「どう? おいしい?」


「はい……おいしいです」


「そう? よかったぁ」


 ピザを食べる俺を、温かい眼差しでじーっと見つめてくる。

 なんだかむずがゆくなって、視線を斜め下に落とした。


「そ、そんなに見ないでくださいよ……」


「やっぱり、直哉君は可愛いなぁって思ってた」


「か、可愛い……ですか?」


「うん」


 可愛いなんて生まれてから恐らく一度も言われたことがなかった。 

 なにせ俺は目つきが悪いし、なぜかガタイがいい。いつもいい印象はもたれない。


 なのに俺が可愛い?

 

 正直頭の中はクエスチョンマークでいっぱいだった。


「素直なところ、可愛いと思うよ?」


「……そんなことないですよ」


「可愛いって。私はそう思う」


「…………」


 なんだか余計に照れ臭くなってきた。

 それに思春期の男の子に、そう何度も「可愛い」というものではないだろう。


「そ、そんなに可愛い可愛い言わないでくださいよ……恥ずかしいので」


「そういうところ、すごく可愛い」


 頭から湯気が出てしまいそうなくらい顔が熱い。

 セリフでの性別が逆転してしまっているような気がするんだけど。


「さっ、早く食べて一緒にお風呂に入ろう!」


「入りませんよ! ご飯食べたら帰ってください」


「えぇー、じゃあ一緒に寝れないの?」


「あたりまえです」


「ちぇー」


 口を尖らせて、拗ね始めた。

 しかし、ここで屈してはいけない。だって一緒に寝るとか精神もたないし。


「とにかく、帰りましょう。家が朱里さんを待っています」


「生身の人間に待ってもらいたかったんだけどなぁ」


 そう愚痴をこぼす朱里さんだったが、結局ご飯を食べ終えた後自分の家に帰ってくれた。隣だけど。


 それにしても、家に帰ってもらうの大変だったな。


 そしてようやく、一人の時間がやってきた。


「寝よ」


 さすがに一日寝ていなかったので、ベッドに横になったらすぐに眠りについた。

 

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