第7話 美人なお姉さんたちによって土曜は征服された

 朱里さんとはまた違ったタイプの美人なお姉さんが来た。


「あっ真澄ー!! おはよー!」


 金髪ロングの日本人離れした美しさを放つこの人は、朱里さんの親友。真澄さんというらしい。

 真澄さんの声を聞きつけた朱里さんがドタバタと玄関までやってきた。

 

「おはよーじゃないよ朱里! 昨日は急に飛び出して……え?」


 真澄さんは、朱里さんの爪先から脳天までじーっと見た後、驚いたように言う。


「あ、朱里同棲してたの?」


「いや違いますから!」


 すかさずカバー。

 万一朱里さんに先手を取られれば変な誤解に発展しかねないので、よくやった俺と自分を褒めておく。俺は褒められると伸びるタイプだと自負している。


「僕は朱里さんの隣人で。朱里さんが昨日酔っ払って僕の家の前にいて、鍵もないというので仕方なく泊めたんです」


「それで私たちは夜に一つ屋根の下で……」


「パーリナイしちゃったわけね」


「いや違いますから!」


 どこか真澄さんと朱里さんは似ている気がする。 

 実際こうして二人の関わりを見ていると、幼いころからの親友というのも分かる気がした。


「僕は本当に何もしてません。座禅組んでました」


「……変わった人ね。で、ほんとに隣人だけの関係なの? それにしては仲がよさそうに見えるんだけど」


 訝し気に俺と朱里さんを交互に見る。

 

 思えば今も狭い玄関のせいではあるが距離は近いし、明らかに少し大きめの男性サイズの服……つまり俺の服を着ている。

 そんなラフな格好でも朱里さんは普通にしているので、確かに隣人だけの関係とは思えないのかもしれない。


 それに……ついさっき隣人だけの関係じゃなくなったしな……。


「それについては私が紹介するわ! こちらは松波直哉君。こう見えて実はぴちぴちの高校二年生よ」


「こ、高校二年生?! それにぴちぴちの?!」


 ぴちぴちということについては放っておいて、まぁ大方反応は予想通りだ。


「こ、高校二年生の家で一夜過ごすとか……法律に触れない?」


「そこんとこは大丈夫! 彼氏候補だから! というか、もうほぼ決定だけどねぇ?」


 ニヤリと小悪魔的な笑みを浮かべて、わざとらしく俺の方を見てくる。


「別に決定じゃないですよ。可能性がゼロってわけじゃないだけで」


「何照れてんだよーまんざらでもないくせにぃ~」


「ちょっと朱里さん! つんつんしないでくださいよ!」


「すりすりは?」


「すりすりもダメです」


 俺と朱里さんの攻防戦を傍から見ていた真澄さんが急に一言。


「あ、朱里がイチャイチャしてる……」


 イチャイチャしているつもりはないし、ただ俺が自己防衛をしているだけなのだが、真澄さんからはそう見えるらしい。

 

 この言葉に朱里さんは火が付いたらしく、俺を後ろへ追いやって真澄さんにグッと近づいた。


「イケメンな彼氏できた人にそんなこと言われたくないなぁ?」


 ようやく怨念を思い出したらしい。

 朱里さんの瞳に、メラメラと燃える炎が宿る。


「それに関しては別にみんなで朱里を出し抜こうだなんて思ってたわけじゃないんだよ? ほんとに、私は朱里に合う人なら応援するつもりだよ?」


「……でも、私だけ独り身……」


 あからさまに落ち込んでいる様子の朱里さんの頭を、真澄さんが優しく撫でる。

 加えて優しい表情で、温かく言った。


「そんなことないよ。私だっているし、それに……そこの直哉君がいるじゃないか!」


「はっ!!」


 二人して一気に俺の方へと視線を向けた。

 そして朱里さんが、鬼気迫る感じで俺に近づいてきて、俺の手を取った。


「そうか……私には直哉君がいたんだね!」


「それ僕の了承なく勝手に決まってますよね? 勝手に僕を最終兵器みたいな扱いにしないでくださいよ」


「直哉君……これからも、真澄をよろしくね?」


「えっ、いや……まだそんなのは……」


「直哉君。私は君にすべてを預けるよ」


 うるんだ瞳で、上目遣いでそう言ってくる。


「いや、そんなことを言われても……」


「ありがとう! これから私のこと……好きにしていいからね?」


「全然話聞いてくれてない……」


「まあとりあえず長話もあれだし、中に入りなよ!」


 朱里さんはさもここが自分の家かのように、真澄さんを手招きする。

 真澄さんは朱里さんほど自由人ではないようで、戸惑った様子で俺のことを見ている。


「いいんですか?」


「……はぁ。別にいいですよ」


 ここで断ったら雰囲気悪くなるし、そもそも朱里さんが堂々と俺の部屋をうろついている時点で真澄さんが入ってもそう変わらないような気がした。


「では、お邪魔します」


 そう丁寧にお辞儀をしてから、靴を脱いで部屋に上がっていく真澄さんだったが、その前にもうすでに玄関に入っていたことは、きっと気づいていないんだろう。


 土曜日が完全につぶれた。

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