第12話 美人なお姉さんのメールが可愛くてにやける
嫌な予感がするインターホンの音。
さすがに出ないわけにもいかないので、恐る恐るインターホンに応じた。
『直哉くぅーん‼ 来ちゃったぞ~』
……やっぱりな。
しかし、好都合なことに玲央はバ〇ェラーを「クソ! こいつ俺よりスペック高いゾ!」と文句を言いながら視聴中。
朱里さんの声に気づいていないっぽい。
俺はとりあえずインターホンを切って、扉を少しだけ開けた。
「直哉君お久! そろそろ私の顔、胸、お尻を見たい頃合いなんじゃないかなと思って来てあげたよ! うふふ~」
やけに上機嫌な朱里さん。
「僕そんなにがっついてないですから。そんなことよりも、今友達が来てるので……」
「なるほど……私を紹介したいってことだね? なむなむ」
「違いますよ! さすがに朱里さんが僕の家に来たら色々と誤解が……」
「誤解か……むしろウェルカムじゃない?」
「それは朱里さん基準ですよ!」
できれば玲央には朱里さんを見せたくない。
玲央のことだから、俺が朱里さんのような美人なお姉さんと関係があると罵詈雑言を浴びせてくる可能性がある。
あいつ、何気に俺のことを「女子に好かれない奴」として仲間だと思ってるからな。
俺からしたら、玲央には渚がいるじゃないかと思うのだが、それはノーカンらしい。
とにかく、ここを突破されてはならんのだ。
「早く入れてよー。もしかしてこれは焦らしプレイなの? 直哉君は私のことを焦らして楽しんでるの?」
「やめてください発言のすべてが卑猥にしか聞こえません」
「んもぅ。でも直哉君にどんな友達がいるか気になるよぅ」
「リンゴ丸かじりしている頭元気な奴です」
「……さらに興味が湧いてきたわ」
思い返せば、確かに見知らぬ人からしたらリンゴ丸かじりしている奴は気になる。
ただ、鉢合わせてはいけないのだ。
「直哉ー。何してんだよー。もうニセバ〇ェラー始まってんぞ~。さぁ、早く俺を本物にしてくれッ!」
「ちょっと待ってくれー」
玲央に聞こえるように、わざと大きな声でそう言う。
今度は玲央に聞こえないくらいの大きさで、朱里さんに言う。
「ということなので、今日はダメなんです」
「えぇー今日は割と男の子が好きそうな服装で来たのにぃ~」
ぷくーっと頬を膨らませて拗ねる朱里さん。
よくよく見れば、ジーンズのショートパンツに体のラインがもろに出ている白いTシャツ。だいぶラフな格好で、露出度が高い。
朱里さんはどうやら大人の魅力で俺のことを落としに来ているらしい。
正直、その路線は正解である。
「すみません。やはり先約が優先なので」
「むぅー。まぁでもそうだよね。困らせてごめんね」
「いえいえ。では」
「うん! また後でね!」
また後でね?
よく言葉の意味が分からなかったのだが、とりあえず扉を閉めた。
そしてテレビの中のバ〇ェラーに敵意を込めた視線を送り続ける玲央の隣に座った。
「ずいぶんと長かったな。宗教勧誘か?」
「違うよ。ちょっと近所のおばちゃんと世間話をだな」
誤魔化し方がよくわからなかったので、適当にそう濁しておく。
「お前って人と喋れたんだな」
「失礼だな」
「いやまぁ、マジバ〇ェラーと会話できている時点でお前はすごいんだゾ? さぁ、俺は崇めるんだッ!」
「お前って自分を褒める方向に話を持っていくのうまいよな。神業だよ」
「まぁなっ!」
本当にこういう時、俺はツッコむ活力があまりないので渚が欲しいなと思う。
渚がいれば、物理的に気持ちがいいツッコミをしてくれるので、なんだかんだ場が納まるのだ。
つまり、渚と玲央は本来セットなのだ。
玲央単体の場合は、ブレーキがないので大暴走。俺は適当にはいはいと頷くだけになる。
ただ、玲央が晴れやかな顔をしているので別にいいか。
「何ッ⁈ こいつきれいなお姉さん方とイチャイチャしてやがるぞ! 全く許せんなぁ!」
ちなみに玲央は年上好き。
だから渚と付き合わないのかななんて思ったりする。
ただ、好きと恋愛の好きはたぶん違うからな。
恋愛経験ゼロの俺が言うので説得力は皆無だが。
その後、ぼーっとテレビを見ていたら、珍しく俺の携帯が振動。
どうやらメールが来たようだ。
『直哉君っ! こんばんは!』
朱里さんからだった。
また後でね、というのは、こういうことか。
『どうしたんですか?』
『特に用もないけどメールしちゃうのって、なんだか彼女っぽいよね』
『……そうですね』
『明日直哉君の家に行ってもいい?』
明日。もちろん予定はない。
特に断る理由もないし、『いいですよ』と返す。
すると、一瞬で返信が返ってきた。
『うひゃおいささささだおDなおだおDなおあ』
嬉しいんだろうなということは伝わった。
それにしても、この喜び方は反則だ。こんなの可愛いに決まっている。
「おい直哉。何にやけてるんだ? 気持ち悪いぞ」
割と引き気味な顔で俺を凝視する玲央。
今にも「うわぁー……」と言いたげである。
「そ、そんなに俺気持ち悪いか?」
「あぁ。目つきの悪さと相まってさすがの俺でも勝てっこないわ」
自分でキモいことは自覚してたのかよ。
ただ、確かに想像してみれば、俺のにやけ姿は気持ち悪い。
朱里さんからのメールを閉じて、いつもの表情へ。
「あっ普通になった。けどキモいゾ」
「お前ひどいな」
日頃の悪口を返された気がした。
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