第19話 美人なお姉さんはすりすりしたい

「汗かいちゃったからお風呂入ってもいい?」


「……それ僕の家である必要ありますか?」


「直哉君と同じ匂いになれるという利点がある!」


「僕に利点ないじゃないですか」


「直哉君は私と同じ匂いになれるよ?」


「それは……まぁ」


 正直答えづらい。 

 でも別に朱里さんと同じ匂いになったところで嬉しいかと聞かれれば別に嬉しくないし、やっぱり朱里さんの利点しかなくないか?

 

 というか、朱里さんの利点が変態的すぎる。


「まぁとりあえず、お風呂入ってくるねー」


 結局朱里さんは俺の有無を利かずに風呂場入っていった。

 本当に自由奔放だ。


 しかし、これで俺は考える時間ができた。

 

 むろん、考えることといえば朱里さんの告白に関してのことだ。

 今日渚と話してみて、確かに俺は慎重すぎたのではないかと思った。


 自分の中ではしっかりとした方が交際も長続きするし、実りあるものとなると思っているのだが……女子の意見は貴重であり、むげにはできない。

 というか、俺の考えよりもきっと渚の方が一般的で正しいに決まっているのだから渚に従えばいいんだけど……どうも大胆になれない。


 どうやら俺の仲で朱里さんが自由奔放すぎる分、どこか反面教師として俺は慎重になっているらしい。


「まったく、どうしたものか……」

 

 自分勝手になれと言われても、自分が今どうしたいのかわからない。



 俺は朱里さんのことが好きなのか?



 俺は確かに、最近朱里さんを受け入れている節がある。

 それにキスされそうになった時だって……心の奥底では俺も……。


「いいやわからん。わからんぞぉ……」


 一度冷静になれ俺。

 恋愛経験がなさすぎるあまり、俺はまだ人を好きになるということに関して理解が浅いように思える。

 

 俺はまだ恋をしたことがない。

 それに友達から恋愛相談をされたこともない。というか、友達が今の今までいなかった。

 

 だから恋愛について詳しくないことは当然なんだけど、人を好きになるということがわからないまで自分が腐っているとは思ってもいなかった。

 でも、今はそれを聞ける友人がいる。


「明日にでも聞いてみるかな……」


 そう悩んでいると、お風呂場から声が聞こえた。


「直哉くぅーん! 助けてぇぇ‼ 緊急事態だよぉぉぉ‼」


 その声を聞いて俺は無意識のうちに立ち上がっていた。

  

 もしかしたら朱里さんの裸を見てしまう――


 今はそんなことどうでもよかった。

 朱里さんの身に何が……。


「朱里さんどうしたんですか‼」


 勢いよくお風呂のドアを開ける。

 するとそこには、にやりと小悪魔的な笑みを浮かべている全裸の朱里さんが浴槽に浸かっていた。


「一人はやっぱり寂しいよ直哉君っ‼」


「バタン‼」


 俺は高速でドアを閉めた。

 俺の心配を返せ。


「な、直哉君⁈ ちょ……直哉君‼ お願いごめんて許してぇ~‼ ねぇ返事してぇ‼ うぅ~‼」


 俺は忘れていた。

 朱里さんは独り身が寂しくて俺の家にいるんだった。


 ほんと、信用できなくなった。

 

「寂しいよ直哉くーん‼」


 それにしても、日に日に加速していく朱里さんの寂しい問題。

 

 ――俺がもし朱里さんと付き合うことになったら、一体どうなるんだろう。


 想像しなくて大変な状況になることだけはわかった。


「それにしても……」


 脳裏に焼き付いて離れない朱里さんの裸。


 やっぱり、朱里さんの外見は一流なんだよなぁ。


 さらに俺の心を揺らがせた。




    ***




「さっきはごめんね? ラッキースケベって男の子大好きかなって」


「全然ラッキーじゃないですよ」


「それはある意味傷つくなぁ」


 少し涙目になってうつむく朱里さん。


「今日、泊ってもいい?」


 しかしすぐに復帰して、いつも通りとんでもないご提案。

 いつもこんなことばっかり言っているけど、朱里さんは俺に何かされる心配とかはないのだろうか。


「朱里さんは僕の部屋で寝ても大丈夫なんですか?」


「大丈夫も何も、ご褒美としか思ってないけど」


「相変わらずですね」


「えへへ~」


 試して……みるか。


「今日は特別にいいですよ? デート楽しかったですし」


 俺がそういうと、一瞬固まった後、野生の肉食動物が草食動物を捕食するかのように俺に飛びついてきた。


「ひゃあさおそあどあおさおさだおあ‼」


「日本語! 朱里さん日本語をしゃべってください!」


「うへへへへへへ~」


 頬で俺の頬をすりすりしてくる。

 とんでもない反応だ。


「今夜は寝かせないぜ?」


「明日僕学校なんで」


「ふっ。愛の前に学校なんてないぜ」


 そういって、またすりすりしてきた。


 俺がどうしてお泊りを許したのか。

 

 それは俺の気持ちを俺が探るためである。

 

 朱里さんとのお泊り会。始まる。


 

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