第13話 美人なお姉さんは寂しがり屋

 翌日、お姉さんがウキウキしながら俺に家にやってきた。

 お酒は飲んでいないらしいが、テンションはマックスらしい。


「いやぁなんかようやく帰宅できたって感じだよ~」


「朱里さんの家はあくまでも隣ですからね?」


「……まぁまぁ」


 誤魔化すように「えへ」と笑った後、俺のベッドに寝転んだ。


「直哉君の匂いがするぅ~クンカクンカ」


「……犯罪ですよそれ」


「えぇっ?! そ、そんな……私の生き甲斐なのに‼」


「生き甲斐がだいぶしょうもないものになってますよ」


 どうやら朱里さんは一切をためらわなくなり、独り身の寂しさをとことん俺で癒すつもりらしい。

 俺は別にマスコットキャラでもないのだが、多少引くくらいで別に嫌な気はしない。


 俺が人の役に立っているってだけで、少し嬉しい気がするし。

 ただ、役の立ち方が変態的なのだけど。


「さてさて、今日は何をするかというと……ババ抜きです! パチパチ~」


 持参したトランプを顔の前に出して、ニコッと微笑む。


 今俺と朱里さんの二人しかいないというのに、絶対チョイスをミスっている。


「朱里さん」


「ん?」


「そんなに寂しいんですか?」


「ビクっ……!」


 明らかに図星を突かれたのか、誤魔化すように「あははー」と笑いながらシャッフルし始める。

 親友である真澄さんには彼氏ができたことだし、きっと寂しいんだろうな。


「寂しいんですか?」


「う、うぅ……」


 顔を真っ赤にして少し涙目になる。

 感情が豊かだな、と感心すると同時に、やっぱり寂しいんだなと思う。


「だ、だってみんな彼氏と遊びに行っちゃうんだもん! 人気のデートスポットを女子だけで行って妄想とかできないんだもん!」


「それはさすがに彼氏がいなくても行かないと思います……」


「えぇ~~~‼ なんだよぉ~。じゃあ直哉君が連れて行ってよ! デート!」


 トランプを配りながらそう言う。

 俺はトランプを一枚一枚とっては、揃ったら捨てていく。


「デート、ですか?」


「うん! ちなみに私まだデートしたことないから、私の初めて……あげるよ?」


 うるうるとした瞳で、さらに上目遣いで言うもんだから別に意味に聞こえてしまう。

 しかし、ここで屈しないのが俺。


「じゃあ、ババ抜きで僕に勝ったらいいですよ?」


 正直なことを言えば別に行ってもいいのだが、ちょうどババ抜きをするのでギャンブル要素をつけてみた。


 いや、本心を言えば、素直に了承するのが恥ずかしいのだ。


「ぐぬぬ……まぁいいけど? その代わり、デートは宿泊込みということで……」


「却下」


「……うわぁぁやだよぉぉ‼ 宿泊したいよぉ‼」


 子供か。


「あのですね、僕は段階を踏んでと言いましたよね?」


「……じゃあまずはキスから」


「そういうことじゃないです。そういうことは付き合ってもいない男女がすることではないでしょ?」


「ぬぬー……しょうがない。二週間くらい待つか」


 そんなに早く結論出せるわけないだろ、と心の内でツッコんでおく。

 

 ただ、確かにいつ返事をするか考えておかなければなと思う。

 先延ばしにしすぎるのもよくないし。


「正直なところ、朱里さんはいつまで待ってくれますか?」


 ちょうど2のペアが揃ったので捨てていく。


「そうだねぇ……まぁ、直哉君が返事できるときでいいよ。こうしてるだけでも、私は寂しくないからさ」


 朱里さんもちょうどそろったようで、次々とお互いの手札が少なくなっていく。


「そうですか。でも、やっぱりたくさんは待ちたくないですよね?」


 またそろう。なんだか調子がいい。


「そうだね。でも、直哉君に任せるよ」


「……そうですか。じゃあ、真剣に考えますね」


「うん。私待ってるね」


 話に夢中になっていたせいで気が付かなかったけど、俺の手札にはたった一枚のカードしかなかった。

 

 そのカードはまさに、俺の目の前でニヤッと笑っている小悪魔にふさわしいもので――


「あれ? 僕の負け?」


 俺の手札にはジョーカーのみ。

 しかし朱里さんの手には一枚もカードがなかった。



「私のか・ち♡」



 舌をちょこんと出して、今までで一番いい笑顔を浮かべた。


「き、汚い‼」


「これが大人のやり方なんですぅー」


「大人汚い!」


「大人のおかげで社会が成り立ってるんですぅー」


「話が壮大だな!」


 これはやられた。


 悔しそうに唇を噛む俺を見て、朱里さんはまたニヤッと笑った。


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