第28話 渚は決意を固める

「えっ?! 玲央に映画誘われたのか?」


「はい……そうなんですよ……」


 放課後。部活の前に少し話があると渚に呼ばれていつもの場所に来ていた。

 今回は玲央が帰宅したことを確認して、この会話が誰かに聞かれないように細心の注意を払っている。


 しかし、渚の言葉に思わず声を上げてしまった。


「それはマジなのか?」


「マジなんですよ……。玲央先輩の部屋で勉強してたんですけど、凄い唐突に誘ってきたんですよ」


「玲央の部屋で勉強してたんだ」


「私幼い妹二人もいるんで、勉強とか部屋で集中できないんですよ。だから雑誌読んでるだけの玲央先輩の部屋を提供してもらってるんです」


「そ、そうなんだ……」


 幼馴染だからやはり距離は近いようだ。というか、そんなに頻繁に一緒の部屋にいるなら早く付き合えよ、と思ってしまうのだが俺は人のことを言えないので黙っておく。


「ちなみにどんな風に誘われたんだ?」


 玲央と俺はひそかに同盟を組んでおり、大胆になろうと約束していたのだ。

 ただ、こんなにも早くに動き始めるとは、なんだか俺が置いて行かれている気がしてならない。

 だから参考程度にそう聞いてみた。


「それがですね、『お前この映画見たいって言ってたよな? しょうがないから俺も付き添ってやるぜ』ですよ? ほんと上からですよね!」


 ツンデレかよ。

 でも誘えただけでも俺たちの中では及第点だ。


「で、渚はどう答えたんだ?」


「まぁとりあえずムカついたんで一発殴って固め技をかけながら了承しました」


 こっちもツンデレかよ。

 ツンデレ同士の恋愛って結構めんどくさそうだななんて思っていたが、確かに何年も恋を引きずっているあたりもうすでにめんどくさい要素が詰まっていた。

 ただ、これもまた俺は人のことを言えた立場ではないけど。


「そうなんだ。でもこれってつまりデートだよな」


「そ、そうですよね‼ 玲央先輩急にどうしたんですかね。もしかして一人で映画行くの嫌なんですかね。あの人友達いないですし」


「うーん……どうだろうか」


 俺は玲央の意図を知っている。

 ただここで俺が玲央の気持ちを渚に言ってしまえば、玲央のカッコいい告白というやつも無駄になってしまうし、人の気持ちを勝手に誰かに言ってしまうのはよくない気がした。


 まるで俺が玲央と渚の仲介役をしているみたいになってしまう。

 二人の純粋な恋に、俺は手を出さない方がいい。


「でも、私これチャンスだと思うんです」


「チャンス?」


「はい。告白のチャンスです」


 まっすぐな眼差しで俺にそう言う。

 渚の真剣さがひしひしと伝わってくる。


「告白かぁ。まぁ何年も想ってるんだもんな」


「はい。そろそろかたをつけたいんです。いつまでも進まないままなのは、つまらないですから」


「……そうか。ってことは、そのデートで渚は告白するつもりなんだな」


「はい。もちろん玲央先輩と付き合えるなら付き合いたいですけど……あの人胸が大きい人が好きみたいだし。私は確かに大人の魅力に欠けてますけど……」


 そう悲し気に呟いて、自分の胸を見た。

 確かに、俺は普段からとんでもない人を見ているからか渚のは小さく見える。

 

 ただ、男はそこばかりに重点を置いているわけではないと信じてほしい。


 それにそもそも、あいつ渚のこと好きなんだよな。


「でも、結果がどうなろうと私は伝えようと思います。この気持ちを」


 渚の意志の固さが伝わってくる。

 告白をすれば百パーセント成功する。それを俺は知っているのだが、やはり言ってはいけない。

 

 渚が自ら、その答えを知ろうとしているのだから。


 だから、俺が渚にかける言葉はただ一つ。


「応援してる。頑張れよ」


 どこか他人事のように聞こえる言葉だけど、俺は気持ちを込めていった。

 

 頑張っている奴に頑張ってというのは失礼だ。確かにそうだけど、俺は本心から、渚の背中を押してやりたいと思った。俺ではわずかなエールだけど、俺にできる最大限を。


「はい! で、ここで相談なんですけど……」


「ん?」


「あのー……ロマンチックな告白の仕方ってどんなものだと思います?」


 幼馴染同士、心が通じ合っているんじゃないかと思う瞬間だった。

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