第30話 決意を固める男は眩しいんだ

 玲央に呼び出されて俺はあの秘境の公園を訪れていた。

 人が誰もいない場所で話したいということなので、おそらくは俺の予想は当たっているだろう。


 玲央が淡い光を放っている夕日を眺めながら、決意を固めた主人公のようにコーヒー牛乳を飲んでいる。

 コーヒー牛乳ってところがまた、何気に恋愛に対して初心な玲央を表現しているようでいいなと思う。


 俺の存在に気付いたのか振り向くときに無駄に前髪を揺らして、ベンチに腰を下ろした。


「遅かったゾ」


「ちょっと用事があって学校にいたんだよ。そんで普通に歩いてきたらこんな時間になるだろ?」


「そこは走って来いよぉ‼ お前は青春というものを知らないのかッ! こういうのはな、大体走らせとけばいい感じに青春してる感出るんだよ‼」


「別に青春らしさ求めてないからな?」


「ふっ。お前はそこで立ち止まっているがいい……高校卒業後に笑ってるのは俺だッ‼」


「はいはい……」


 今日はやけにテンションが高い。それにいつになく前髪が決まっていて、キレもそこそこいい。

 ただ、連続で恋愛未経験の俺が恋愛相談を受けているので非常に疲れている。そのため、できればペースは上げてほしくないというのが本心だった。


 でも、こいつはいかにも「止まらねぇ……」といった顔をしている。

 きっと玲央も、勝負なのだ。


「まぁおふざけはこれくらいにしといて……直哉をここに呼び出したのには理由があるんだ……」


「まぁ、そうだろうな」


「その……聞いてくれるか?」


 どんだけピュアな男子なんだこいつは、と心の中でツッコみを入れておく。

 これ以上話が脱線してしまえば、辺りは暗くなってしまいそうだから。


 俺はただうなずいて、玲央の言葉を待つ。

 

 どんな内容なのかは薄々察している。ただ、俺から言うのはあまりに空気が読めていないというもの。

 だから玲央の言葉をじっと待った。


「……ぬぬぬ」


 どうやら恥ずかしいらしく、言えないでいる様子。

 表の変人ぷりっとは裏腹に、ギャップがあるなぁと思う。


 でも玲央も男。拳をぎゅっと握りしめて、決意を固めた。



「俺さ、渚に告白しようと思うんだ」



「……そうか」


 わかりきっていた言葉に即答するのもあれだよなぁと思って、一応ためた。

 ただ、玲央はどうやら気に食わない様子。


「お前返事淡白すぎるゾ?」


「いや、そうだろうなって」


「……そうか。まぁ好きだってことは伝えてたし、そうなるか。ほんとこういうとこは鋭くて自分の気持ちはわからないとか都合いいな」


「都合悪いんだよ。俺のことなんて今はいいから、玲央の告白のことだろ?」


「あぁそうだよな」


 俺たちが話していると大抵脱線してしまう。

 そのため、こうして俺が軌道修正をする必要があるのだ。

 さっき朱里さんから、「ご飯は直哉君と一緒に食べたいなぁ。ついでに直哉君もいただければ……」という変態すぎるメールをもらっており、一応早く帰らなければならない。


 ただ、本題で時間が大幅にかかるのは問題ないが。


「まぁ実は、それを言うためだけに呼んだんだゾ」


「……へ?」


「なんていうの? 他人に言って決意固めるみたいな? 俺ってこう見えても何気に弱気なところあるんだよなあはははは」


「そ、そうか。まぁお前の中で決意が固まるのなら、全然おっけいだ」


「……直哉って、優しいよな。特に俺に」


「自意識過剰だな……」


 でも実際そうなのかもしれない。

 というかそもそも交友関係の狭い俺にとっては普通だ。だか俺が優しいのかどうかは、玲央の意見だけではわからないけど。


 どうやら今日の玲央は潔いようで、男の目をしている。

 やはり告白とは一大イベントなのだ。


「その……もう完成してそうなお前に言うのもあれなんだが……カッコいい告白は思いついたのか?」


 玲央に会う前に渚にロマンチックな告白について相談されたので、どうしてもそこが気になってしまう。

 玲央と渚は通じてるところがあるから。


 しかし、玲央はキリっとした表情で言った。



「あたりめーだろ(イケボ)」



 全力でカッコつけていることを差し引いても「マジか」と思わず言葉が漏れた。

 ちなみにこの「マジか」は引いているのではなく、本当にすごいと思っている。


「お前、もう決意は固まってんだな」


「あぁ、直哉に言ってから……というかその前から、もうほとんど決意は固まってんだ」


 直哉はそういいながら立ち上がり、コーヒー牛乳を一気に飲み干した。


「直哉、ちゃんと見てろよ」


 俺にそう言い残して、「ふっ」と笑ってその場を去っていく。


 最後までカッコつける玲央は、自分を貫くかたい意志があるように思えて眩しかった。

 そんな玲央の姿を、後から追った。

 

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