第11話 自称バ〇ェラー男、我が家に降臨
体育の授業。今日はサッカー。
はずれ者である俺と玲央は盛り上がっている試合を横目に、ぼーっと空を眺めていた。
「こういうのはパリピ集団の領地みたいなもんだよな。女子に黄色い声援をもらいながらかっこいい奴が目立って」
「なんだお前。もしかして……羨ましいのか?」
「いやそういうわけじゃないんだよ。ただ、あいつら青春してるなぁって」
「……俺たちも、こうやって体育サボって青春してんだろ? 男だらけの青春、悪くねーじゃん」
大人になって思い返せば確定で黒歴史になるであろうセリフを、「俺、今いいこと言ってる」と堂々と言えることが玲央のすごみ。
ただ、大衆には理解されないだろうけど。
「男だらけでもないけどな」
俺と玲央しかいないし。
「お前さ、愛する人、見つけたのか?」
「……は?」
あまりにも突拍子もないことを言う玲央。
相変わらずの澄ました顔は実に玲央にふさわしい。
ほんとこいつ自分におぼれてるなぁ。
「だってお前のその目。守りたい奴がいる男の目だろ?」
「……試合終わったしそろそろボールでも蹴ってるか」
「無視してんじゃねーゾッ!」
ツッコんでいる玲央をスルーして、ボールを持ってコートの中に入る。
玲央取り扱い書第一条。放置すべし。
後から俺を追ってきた玲央にボールを蹴る。
無駄にカッコつけながらも、ダイレクトで蹴り返してきた。
「そんな柔いもので俺を倒せると思うな‼」
キラーんと天を仰いでカッコつけている玲央に俺もダイレクトキック。
不意を突いたと思ったのだが、運動神経抜群のポテンシャルを発揮して華麗に胸トラップ。
いちいちモーションが騒がしいが、やはりやればできる男だな。
「そういえばさ、今日直哉の家行ってもいい? バ〇ェラーが見たくってさ」
「別にいいけど」
朱里さんが俺の家に来ないか心配になったけど、朱里さんもそこまで暇じゃないよなと思い承諾。
こんな感じで、いつも軽いノリで俺の家に来る。
そして割と結構な頻度で俺の家に泊まるので、最近は歯ブラシとか着替えの服とかを俺に家に置いていくので、玲央と同棲している気分になる。ぶっちゃけ気色悪い。
「いややっぱり神奈川のバ〇ェラーと言われてる俺がニセモノバ〇ェラーの姿を見ない理由はないよな。むしろ義務だ」
「お前の周り女子ほとんどいないだろ」
「……お前の目には見えてないだけだゾ☆」
まさかのオカルト。
「じゃあ放課後なー」
玲央はそう言って俺にパントキックを上げてきた。
もちろん、トラップしたら足が痛くなりそうなのでスルーした。
***
放課後。
いつも行っているコンビニに寄ってお菓子をいくつか購入。
玲央はリンゴをそのままかじることが好きなので、素のリンゴをいくつか購入した。どこのデ〇ノートの悪魔だよ。
「そういえば直哉のお隣さん、黒髪ロングの美人なお姉さんなんだっけ? 一度でいいから見てみたいなぁ。そして、駆け落ちしてぇなぁ」
「クックックッ」と中二病感を醸し出しながらリンゴをかじる。
歩きリンゴはやめた方がいい。危ないとかじゃなくて、視線が痛い。
「ま、まぁ確かに美人だよ」
美人だけど、それの副作用でとんでもない自由人だけどな。
そしてついでに言えば、フィーリングで俺にぞっこんだけどな。でも、恥ずかしいし自分から言うことでもないので言わない。
「話したこととかあんの?」
「まぁ一応な」
話したどころか抱き着かれたりもしたけどな。絶対言わないけど・
「それにしてもラブコメかよって感じ。お隣さんが超美人とかさ。この野郎! 全物語の主人公である俺を差し置いていい思いをしてんじゃねぇぞ!」
「はいはいすみませんね」
「この野郎!!」
「……お前それ言いたいだけだろ」
「…………」
言葉を返す代わりに、ニヤリと笑ってリンゴをかじった。
少しして家に到着した。
買ったお菓子やさっき入れたコーヒーをちゃぶ台において、テレビをつける。
「さぁ俺の偽物野郎を見てやろうではないか。……ダジャレじゃねーぞ?」
「わかってるって」
「そうか。やはりテレビのバ〇ェラーは偽物……つまり本物は俺……」
「そっちじゃねぇから」
どこの要素を取ったらこいつはバ〇ェラーなんだろうか。
スペックの高さは申し分ないけど、圧倒的に女性人気がない。俺が言えたことでもないけど。
「偽バ〇ェラー……召喚ッ!!」
変な掛け声で再生ボタンを押す。
「ピンポーン」
再生ボタンを押したと同時に、インターホンが鳴った。
嫌な予感しかしなかった。
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