隣の美人なお姉さんが寂しさを俺で紛らわそうとしている

本町かまくら

第1話 美人なお隣のお姉さんが俺に抱き着いてきた

 夜中十一時くらいに俺はコンビニへと出かけた。

 

 高校二年生である俺は本来この時間に出ると間違いなく補導されるのだが、俺は高校生らしい見た目をしていないようで普通に大人だと勘違いされる。

 普段はそれで困ることもあるのだが、こういう時には都合がいい。


 両親は海外で仕事をしているため、今は一人暮らし。この時間に外出することをとがめる人はいない。


 何故コンビニへ出かけたのかというと、夕ご飯を買うため。俺はひどくだらしない人間であるため、高校生ながら今の今まで夕ご飯を食べていなかった。


 だからコンビニでカップ麺とお菓子と飲み物を購入。

 そして、ネット〇リックスでアニメでも見るか、と思いながら帰宅していた。


「ん?」


 俺の住んでいるマンションの、俺の部屋付近に何やら人影があった。それもなぜかドアの前に座って。


「なんだあれ」


 正直不気味でしかなかったのだが、あそこに行かなければ俺は帰れないので恐る恐る向かう。

 ある程度近づいたところで、人影の正体が分かった。


「……お隣さん?」


 そう。なぜかお隣さんが俺の部屋のドアの前に座って、酒を飲んでいたのだ。それにだいぶ出来上がってらっしゃる。


 お隣さんは数回程度しか見たことがないのだが、近くの大学に通う大学生で、とにかく美人という印象があった。高校生にはない、大人の魅力を兼ね備えた。


 艶のある長い黒髪も、服が乱れてチラリと見える胸元も、どれも高校生である俺にとっては刺激が強い。さらに年齢=彼女いない歴の俺には効果てきめんである。

 

 そんな俺にとってはある種危険一子のお隣さんだが、俺の部屋の前にいる以上、関わらなければいけない。

 俺は意を決して声をかける。


「す、すみませんー。そこ俺の部屋なんですけど……」


「えぇ? ここは私の部屋だからぁー。えへへ~」


 ダメだ。この人完全に酔っ払ってる。


「そんなことよりぃ~少年! 倒れてる女性を見たらどんな対応をするのが基本なのぉ?」


「いやあなた倒れてないじゃないですか」


「倒れてるのぉ!! さぁ早く私を助けなさぁい!」


「え、えぇ……」


 助けなさいってどういうことだ?

 俺が質問をする前に、お隣さんは「ん!」と言って俺に力ない腕を伸ばしてきた。その腕はとても白く、女性らしく細い。

 

 女の人の腕なんて触ったことないから、正直触ったら犯罪になるんじゃないかという思う気持ちがある。しかし隣人は「手を取れ」と急かすので、致し方なく手を取って体を起こした。


「むぎゅー」


 お隣さんは変な言葉を発しながら、そのまま俺に抱き着いてきた。


「うはっ! ちょ、ちょっとお隣さん。急にどうしたんですか?」


 酒をたくさん飲んでいるから酒臭いのかなとか思ったけど全然そんなことはなくて、嗅いだことのないような、めちゃくちゃいい匂いがした。

 

 さらに何か柔らかいものが俺の体に密着していて、女の人に耐性のない俺は理性を保つことに必死。

 じりじりと、HPが削られる。


「さっき言ったでしょぉ? 私を助けてってぇー。ほらぁ、あなたのベッドまで運びんしゃぁい!! うぐぅー」


 お隣さんはそう言って、俺の肩に顎を乗せて眠ってしまった。


「え、えぇ……どうすんだよこれ……」


 さっきお隣さんは俺のベッドに運べって言ってたけど、それは世間体的に大丈夫なのか? それに目覚めたら知らない男のベッドで寝てたとか、普通に通報されなかねない。

 

 たぶん酒が回ってるから自分がなんていったのか覚えてるわけないし。これは困った。

 

 でも今この状況を誰かに見られようものならそれこそまずい。

 ほんと、今更夜遅くに外に出たことを後悔している。


「と、とりあえずこの人の鍵を探そう……」


 しかしお隣さんはカバンを持っておらず、あるのは地面に置かれたビールの缶のみ。

 でもさすがにポケットにあるだろうと思うけど……それはそれでどうなんだ?


 見知らぬ女の人のポケットを探るのは犯罪じゃないか?


 見方によってはもうすでに犯罪の匂いがするけれど。

 

「で、でも……この人の身勝手でこうなってるんだから……しょうがないよな」


 そう心に決めて、頭の中から一切の邪念を取り払う。

 俺の頭の中には、ただポケットから鍵を出すという考えしかない。そう、ただポケットから鍵を出すだけだ。


 そう心に言い聞かせて、ジーパンのポケットを探った。


「俺は変態じゃない俺は変態じゃない俺は変態じゃない……」


 頑張ってポケットの中を探ったが、結果財布があるだけ。


「おいおいまじかよ……」


 この人鍵を持ってない。

 一応お隣さんの部屋のドアが開くかどうか試してみたけど、開かなかった。

 

 ここで泥酔した美人なお隣さんを放置していたら、それはそれで一番まずい気がするし……もうこれは俺がかくまうしかないのか。


「これは、俺が弱ったお隣さんを連れ込んでるんじゃない。そう、擁護だ。何の下心はない」


 そう自分に言い聞かせて、お隣さんをおんぶして自分の部屋へと入った。

 ものすごい罪悪感があったのだが、これは正義執行だと心の内で何度もつぶやき、お隣さんを自分のベッドへと寝かせた。


「さて、どうしたものか……」


 そう呟いて、まだまだこれからな夜の空にため息をこぼした。

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