第3話冷酷姫と下校

 どうやら俺の見立ては間違っていなかったみたいだ。

 昨日、黒瀬にちやほやとされて浮かれた男子たちは挨拶やらを口実に話しかけに行っているが、日本刀のような切れ味でバッサリと切られていた。


 明らかに黒瀬は冷酷姫へと戻っていた。

 授業が終わる毎に押し寄せる人の波も徐々に引いていって、六コマ目には誰も来なくなっていた。


 かと言って、俺には黒瀬が冷酷姫だろうが、ただの姫だろうが関係はない。

 別に彼女に対して恋慕を抱いているわけでもないし、特別嫌いなわけでもない。


 要は無関心だ。

 だからこれから彼女と何かが起こるわけがない。

 ......はずだった。

 事件は放課後の教室で起こった。

 俺は黒瀬に襟を掴まれていた。


「あんた、今日、うちに来なさい」


 ――はぁぁ?

 心の中ではそんな腑抜けた声が出た。


「いやだよ、なんで行かなきゃ行けないんだ」

「昨日の寝た時の事を聞きたいのよ」


 すると周りがザワっとする。

 なんでこんな勘違いされるような言い方するんだよぉ。


「もしかして、記憶がないとか?」


 多重人格だったら記憶がないっていう線も考えられる。


「はぁ?何言ってんの?多重人格者でもあるまいし」


 あっさりと打ち破られた俺の憶測。


「いいから、駐輪場で待ってなさい」


 すると黒瀬はあまり長いとは言えない髪を翻して、自分の席へ戻って帰りの準備をし始めた。


 ――めんどくさいし、さっさと帰ろ。


 俺はそそくさと教室から逃げ出して駐輪場へ向かう。

 駐輪場にある自分の自転車の鍵を開けて、校門へ向けてペダルに体重をかける。


「ちょっと!どこ行こうとしてんのよ!」


 今度は後ろから首の襟を引っ張られて俺は急いで自転車のブレーキをかけた。


「おい。危ないだろ。自転車に乗ってるやつの襟引っ張るとか頭悪いのか?」


「頭悪いのはあんたでしょ!数分前にした約束忘れたの!?あんなの鶏でも忘れないわよ!」


「あれを約束とは言わねぇ!一方的に押し付けられただけだ!」


「じゃあ約束!私の家に来て話を聞かせて!」

「チッ。わかったよ」

「あんた、今舌打ちした!?しかもわざと聞こえるように!」

「はいはい、行くんだろ早く案内しろよ」


 いつの間にか俺たちは注目の的になっている事に気がついて急いで校門を出た。

 黒瀬が住んでいるのはちょっと小綺麗なアパートといった感じのものだった。

 そして、案外俺と家が近かった。

 俺は両親が海外へ赴任していて一人暮らしをしているので住むところは自然と実家かアパートの二択。

 そして、俺はアパートに住む事を選択した。だからアパートが並ぶこの辺一帯に一人暮らしをしている同じ高校の知り合いがいても不思議ではなかった。

 俺はその事を心に秘め駐輪場に自転車を停めた。


「いらっしゃい」


 彼女はドアを開けて招き入れてくれる。

だけど俺は部屋に踏み入ることが出来なかった。


「えぇ......汚すぎない......」


 彼女の部屋はゴミ屋敷と言っても過言ではないほど散らかっていた。


「うるさいわね。仕方ないでしょ!」

「これは話聞く前に掃除だろ......」


 俺が掃除をしろと嫌味ったらしく言っていると彼女は案外大人しく折れた。


「じゃあ、とりあえず下着とか片付けてくれ」

「言われなくてもするわよ!」


 こうして俺と黒瀬による大掃除が始まった。

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