閑話彼女の決意(涼音視点)

私は怖かった。


花音ちゃんが誘拐されたんじゃないかって、気が気じゃなかった。

息が切れて、頭に酸素が行かなくなってクラクラとしてくる。

それでも足を止めずに走り続けてやっと徘徊していた警備員を遠くに見つけた。


それを見て私は少しだけスピードを緩めた。

気づくと司と別れた所まで帰って来ていて、私はあるものを見つけて足を止めた。


地面に印象深いスマホカバーのついたスマホを見つけたから。


手帳型の藍色のスマホカバー。


忘れるはずもない。

私が今年の五月十四日。


司に誕生日プレゼントとしてあげたものがそこに落ちていた。



◇◆◇



疲れに疲れた放課後。 日は傾いてきていて、西日が教室を照らしていた。


そして私はこれから見れるであろう司の驚いた表情を想像していた。

帰りのHRを終えて、私は小さめの紙に包まれたプレゼントを隠しながら司の机に向かう。


「ねぇ!司! 誕生日おめでとう!!」


そしてプレゼントを彼に差し出した。


「おお、ありがとう!嬉しいよ。開けてもいい?」


嬉しそうな表情を浮かべる司に私も表情を緩ませながら頷いた。


「スマホカバーか!ちょうどボロボロだったし、手帳型ってのも嬉しいな!ありがと!涼音!」


「お返しには期待してもいいのよね?」


「プレッシャーかけるなよ......期待しといてくれ」


私はその言葉が嬉しくて、早く私の誕生日が来ないかと心をうずうずさせた。



◇◆◇



私は落ちていたスマホを拾ってその先にある暗がりを見つけた。

早くしないとって思いながら警備員の元に駆け寄った。


「すいません!ちょっと来て貰えませんか!?」


ありとあらゆる説明を省いた自己中心的な要望。

それなのに警備員さんは嫌な表情一つせずに私についてきてくれた。


そして見つけた暗がりに案内するとその奥からは人の声がする。

それは司の声でも花音ちゃんの声でもなかった。


いきなり足音が大きくなった。まるで走っているみたいだ。

その後に男の悲鳴が聞こえた。

警備員さんと私はその声を聞くなり急いで駆け寄った。


「司!大丈夫!?」


壁に背中を預けている司の頬は赤く腫れていた。


「ああ、多分大丈夫」


私はその言葉に安心してほっと胸を撫で下ろす。

そして、少しだけ服をはだけさせた花音ちゃんが司に抱きついた。


「ごめんな。思い出させちゃったよな」


「ううん、いいの......」


私にはなんの事か全く分からなかった。

そして、心にもやがかかるのを感じた。


この二人の力に何一つなれなかった事が悔しかったんだろうと思った。


警察が来て私は軽く話を聞かれて二人とは別れた。

自分の家への帰路を特に理由もなく一歩一歩踏みしめながら歩く。


荷物は司の家に置きっぱなしだけど三連休だから明日取りに行けばいいやと思い、そのまま家に帰った。


家に帰って、私は直ぐに自分の部屋に入って意味もなく枕を濡らした。


心のダムが決壊したかのように涙が溢れてきて、無力感に打ちひしがれた。


でも、それだけじゃなかった。


それだけじゃ、私は泣いたりしない。


そして、気づく。


私の恋心が向かっている場所はもともと彼だったことに......


そして既に開いてしまった差に無力感を感じていたんだ。


彼と彼女の間に私が付け入る隙なんてあるのだろうか?

私にはとても見つけられる気がしなかった。


その日は涙が枯れるまでずっと泣いた。


そしてやっと感情の波がせき止められたのは夜の零時。


私は決意した。


「絶対に司を奪い取るんだ」


私は心にそれを植え付けて、目を閉じる。


早く......早く......


一年、一ヶ月、一日、一時間、一秒でも早く。


彼に好きって言わせるんだ!!

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