第1話司の決意
不思議と驚きはなかった。
こんな美少女に告白されているというのに動悸もしないし、顔が熱くなることもない。
心の中ではこういう事があるんじゃないかと分かっていたのだ。
でも、それ以降は考えた事がなかった。
内心花音の事は好ましく思ってはいる。ただ、それは恋愛感情なのか、俺にはわからなかった。
恋なんて、名前も知らない子にしたのが最後だったと思う。
それ以降はそういう感情を持たないようにしてきた。というよりも恋愛そのものにあまり興味を持ってこなかった。
俺なりに考えてみる。
一緒にいて、楽しいか?
一緒に寝ることに少しでも花音を意識することがあったか?
一緒にいて、安心出来る相手だったか?
この生活が続いて欲しいと願ったか?
全ての問いかけに首を縦に振ることが出来る。
花音といる時間は少なからず楽しかった。
でも、それはあくまで花音が今の状態である時だった。
だから、俺は......
「ごめん、
冷酷姫と呼ばれる花音の時はどうだった?
今でも、苦手だと思ってしまう。
俺は彼女を甘えさせているだけなんじゃないか?
段々と俺の思考にはそういう事が浮かんできてしまっていたのだ。
花音と付き合ってしまえば本格的に同棲なんて事になりかねない。
過去の事は乗り越えて欲しい。
俺は何も力に慣れない。
俺なんて、ただ彼女をサボらせる時の支えにしかならないんだ......
だから、
でも、俺はそれを花音に伝えることはしなかった。
自分の恋心を自覚する時間も欲しかった。
不誠実な気持ちで付き合いたくはなかった。
もともとは、大っ嫌いだった奴が一ヶ月そこいらで好きと言える程になるものなのか?
俺の心は恋というあまりにも曖昧な感情に疑心暗鬼になっていった。
ふと花音を見る。
やはりというか涙を流していた。
ここで謝ったらだめだ......
謝ったら自分も花音も自分の恋というものが分からなくなってしまうと思った。
花音の顔を見ているだけでも辛い。
こんな表情はさせたくなかった。
俺は強く握りこぶしを作っていた。
花音を助けることの出来ない自分に、泣かせてしまった自分に、苛立ちを覚えていた。
俺はわがままなんだなと思う。
自分の思い通りにならないと嫌なんだ。
でも、現実はそんなに甘くはなかったみたい。
「ごめん、帰るね」
そう言って、花音は立ち上がって貴重品だけを持ち、俺の家に様々なものを残して出ていってしまった。
ドアが閉じられて、急に寂しさが増す。
暗い廊下、少しだけ濡れたシンク、残った二人分の食器。
そして、よく晴れた空を見る。
その光景は段々と歪んできてしまっていた。
いつの間にか俺の目からは一筋の涙が流れていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます