最終話~懐かしのお泊り
今日は花音とお泊り。
二か月ぶりくらいのお泊りだ。
毎日一緒に寝ていたころが懐かしく思えてくる。あの頃はひどく歪だったけれど、今では俺たちも付き合い始めて、しっかりと彼氏彼女の関係になったのだ。
今日はしっかりと晴れたお出かけ日和。だがインドア派の俺たちは家で過ごそうと決めているのだが……。
軽く準備を終えて俺は家を出た。最悪忘れ物をしていても取りに帰ればいいだけだろう。
そして歩くこと数分。すぐに花音の家が見えてきた。
さて、花音の家は綺麗な状態を保てているかな?
期待を寄せながら、俺はインターホンを押す。
『はーい。今開けるね~』
自動ドアを通り花音の部屋へ向かうと少しだけドアが開いていて、ずいぶんと楽しみにしてくれているんだろうということがうかがえた。
「お邪魔しまーす」
「いらっしゃい司くん」
花音の部屋はかなり綺麗な状態を保たれているようだった。
「なんか気恥ずかしいな」
「そうだね。お泊りは久しぶりだもんね」
俺は彼女の部屋にあがって、、荷物を下ろす。
「なにする?」
「することあんまりないんだよね……」
「ゆっくり過ごそうか」
「そうだね」
多分今の俺たちにはそれが一番合っている。
俺たちは二人でソファーに腰を掛けて、時の往くままにゆったりとした時間を過ごした。
「そうだ!司くん。この前アルバムが見たいって言ってたから見つけておいたよ!」
確か、夏祭りの次の日だっただろうか、突然花音の家を訪れた時にお願いしたのを思い出す。
今もあの夢のことは少しだけ気がかりだった。
あの少女の顔や風景には既視感があったから。
「はい、司くん。今度は司くんのアルバムも見してね?」
「わかった。覚えておくよ」
そんな約束をしながら手渡された一つのアルバム。その一ページ目を捲った瞬間、夢の中と現実で見た初恋の彼女の顔があった。
昔、何度か俺と花音はあったことがある。ここからは少し離れた土手で……。
「ねえ、花音覚えてるか?おれたちが土手の上で会った時のこと」
「土手?私たちって会ったことないよね?」
「いや、多分だけどなんどかある。花音は土手の上で泣いてて、俺がそこに話しかけに言ったことがあったと思う」
「確かに私がお父さんを失ったときに土手で泣いてたことは何度かあって……それで私と同じがちょっと小さいくらいの男の子に話しかけられて一緒にそこで横になって……ってまさか?」
「多分そのまさかだと思う。で十年越しに俺の初恋がかなったというわけだ」
「も、もしかして司くんも初恋だったの!?」
「『も』ってことは花音も……?」
花音はコクっとうなずく。不思議なこともあるもんだなぁ。
俺たちはそこで目を見合わせて笑った。
人生に運命ってあるんじゃないかって思った。
十年前、花音が言っていた。「あなたと寝てるとなんだか心が安らぐ気がする」と。
本当のことはわかんないけれど、俺が花音を介抱したあの日、俺たちの止まっていた時が動き出していたんじゃないかって思う。
きっと、遅かれ早かれこうなっていたんじゃないかって。
そう思うことにして、俺は花音と二人の充実した時間を気の赴くままに過ごした。
まだスキンシップとかは恥ずかしいし、ゆっくりと俺たちで俺たちの時間を紡いでいこうと思う。
そうしていつまでも一緒にいれればいいなって。
◇◆◇
多分今日は何もないだろうけど、体はしっかりと入念に洗っておく。
もしものため。決して期待してるわけじゃないから!
私の頭の中では司くんといろんなことができるんじゃないかと暴れまわる煩悩とそれを抑制しようとする理性が戦っていた。
司くんが求めてくれたなら……。
そんなことを考えてしまう時点できっと私の心は司くんの色一色に染まってしまっているんだろう。
恥ずかしいけど、つきあってるんだからそれでもいいよねっ!
そう自分に言い聞かせて正当化した。
気づけばお風呂に入って二十分近く経ってしまっていた。
先に入った司くんを待たせてる……。
そう思うと今度は自責の念に駆られて急いでお風呂を出た。
髪を乾かすことも忘れて、いつか来る日のために買ったネグリジェを身に纏い、リビングに戻った。
「お帰り花音」
「あ、うん。ただいま」
なんだかこのやり取りは夫婦みたいでうれしいなと思ってしまう。
こんな一つ一つの言動でキュンとしてしまっていると、私の心が持たない気がする。
「花音まだ髪濡れてるよ?ドライヤーかけてあげよっか?」
そんなことされたら私の心は持ちません。
でも司くんはにこにことしながら待っているし、せっかくの好意で言ってくれたのに断るのも気が引ける。
「お願いします……」
結局煩悩に負けてお願いしてしまった……。
ドライヤーとタオルを司くんに手渡して、私はその前に座る。
「じゃあやるね?」
自分で乾かさなくていいのって楽だな~
なんだか自分でやるよりも気持ちがいいし、毎日やってもらいたい。
そのことを口からぽろっと漏らすと司くんは「毎日やってあげようか?」って言ってきてくれた。うれしい。けどずるい。
髪を乾かしたら、瞼が重くなってきた。
「司くん……もう眠いや」
「そっか。じゃあもう寝よう?」
「うん」
そして、久しぶりに一緒の布団に入ることに懐かしさを覚えた。
「懐かしいね」
「ほんとに懐かしい。でも今は一緒に寝てもおかしくはないからね」
「そうだね。やっぱり司くんの手って大きくて安心するな」
「女の子はふつう安心できる状況じゃないと思うんだけど……」
「だって司くんだもん」
「そっか。なら大丈夫かな」
大丈夫かなって何が?
そんな疑問を頭に浮かべていると、だんだんと司くんの顔が近づいてきた。
思わず目をつぶった。
次に感触があったのはおでこだった。
「司くんのヘタレ」
「今はこれで許してよ」
そういって司くんは、ははっと笑う。
私はというと……もう顔真っ赤です……。キスなんて恥ずかしすぎる。
体中が熱くなってきた。
こんなんじゃあ安心して眠れないよぉ。
でもやっぱり、私はあなたの前が一番安心して眠れるよ。
私はそのまま目を閉じた。
お互いの手を絡ませたまま……
―――――――――――――――――
あとがき失礼します。
これにて「冷酷姫は俺の前でだけ安心して眠りにつけるようです」を完結とさせていただきます。最後のほうはストーリーががたがたであるにもかかわらず読んでくださったこと、うれしく思います。
今のところスピンオフなどは考えておらず、もし要望があれば、バレンタインデー編だったり元旦編だったりを書かせてもらおうと思います。コメントはすべて読ませていただいておりますので、一通でも要望があれば書こうとは思っています。
現在(六十四話時点)で120000PV。お星様420個。レビュー人数は158人。フォロワーさんが1100人以上。ハートが3400個以上と高い評価をいただきました。本当にうれしいです。
よければ、生徒会並びに現在書きダメ中の現代ファンタジー作品を見てくださると嬉しいです。
長々と失礼しました。それでは楽しいカクヨムライフを……
冷酷姫は俺の前でだけ安心して眠りにつけるようです らららんど @raraland
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