第6話冷酷姫は中途半端
俺は日の出の日差しを浴びて目を覚ました。
時間を見るとまだ五時半を回ったくらいで、枕やベッドからする甘い匂いによって俺の意識は段々と鮮明になっていく。
そして黒瀬と同じ布団で寝たという事実が俺を精神を苛んでいく。
俺は隣で寝ている黒瀬に目を向ける。
彼女は健やかに寝息を立てていた。
庇護欲のようなものがそそられて俺は彼女のほっぺをつつく。
すると黒瀬は「ん、んむぅ」と艶めかしく、俺にとっては悩ましい声を上げてまた寝息を立て始めた。
俺は理性のタガが外れる前に布団を出ようと思ったのだが、俺は奥側に寝てしまっているために、彼女を跨ぐ必要があるのだ。
しかも二度寝をしようと思っても目はぱっちりと開いてしまっている。
俺はいつの間にか黒瀬の整った鼻梁に目を奪われてしまっていて、俺の中の理性がほろほろと崩れて行ってることにさえ気が付かなかった。
俺はまた黒瀬の頬をつんつんとつついたり、髪を撫でたりしてしまっていた。
俺はぷるっとした唇に手を伸ばしかけている事に気づいて、なけなしの理性で手を止めた。
手には黒瀬のもちっとしたほっぺの感触や肌や髪のすべすべとした質感が残ってしまっている。
それを名残惜しく思う気持ちがありながらも自分に「それはダメだ!」と言い聞かせて何とか止めることに成功した。
俺はこのままだと間違いが起きてしまう気がして、静かに足元の方に移動して彼女を跨ぎ、床に足をついた。
俺はぼやっとした意識をハッキリさせるために洗面所に向かって顔を洗う。
タオル掛けにかかっているタオルを使うのも憚られて、俺は自分の服の袖で水気を取った。
俺はキッチンに立って一ヶ月ぶりくらいの朝ごはんを作ろうとする。
休日はいつも起きるのは遅くてお昼と一緒にしてしまう事がほとんどだった。
学校がある時も朝は食べない俺にこれといった献立は思いつかなかった。
俺は簡単に目玉焼きとウインナー、千切りしただけのキャベツのサラダにお味噌汁を作った。
すると眠そうな目を擦りながら黒瀬が起きてきた。
「おはよう」
「....................」
――え?無視?
俺はもう一度声をかけてみる。
「黒瀬?おはよう」
「しつこいわね。おはよう」
一緒に寝たというのに、黒瀬は冷酷姫へと戻っていた。
「お前、その口調」
「あーうん。また悪夢見たみたい」
普段なら答えさえくれなさそうだけど、答えてくれるだけまだ機嫌はいいっぽい。
「そ、そうか、ごめん。俺が途中でこっち来たから」
「ほんっと、手を離したらこうなるって分かんなかった?しっかり学習しなさいよ」
やっぱりこっちの口調と態度の黒瀬は苦手だ。
「まあ、いいわ。朝ごはんありがとね」
俺は違和感を感じて一瞬固まる。
「お前、今俺にありがとうって言った?」
「言ったけど......」
おかしい!絶対冷酷姫モードの黒瀬は男子にありがとうなんて言ったりしない!!
「お前、なんかおかしくね?」
「どちらかと言うと今おかしいのはあんたの方だと思うんだけど......」
少し呆れた表情をしながら黒瀬はそう言う。
確かにそうだけど、なんか、姫状態と冷酷姫状態の間みたいな感じなのだ。
「お前、普段機嫌悪い時はありがとうなんて言わないだろ......」
「確かに言わないけど普段は悪夢に加えて睡眠不足が加わるから。でも、今は睡眠不足ではないから中途半端といった感じなのよ」
なるほど......
黒瀬には中途半端モードも存在したらしい。
「今後も時々頼らせて欲しいから連絡先ちょうだい」
傲慢な態度で姫状態さながらの親近感を出してくる黒瀬の対応に俺は困惑を隠せなかった。
俺は言われるがままに連絡先を交換した。
「もしかして、またこういうことがあったり......」
口では嫌そうな感じを出しながらも少しだけ期待してしまった。
「そうね、また一緒に寝ることがあるかもね」
そう言って黒瀬は蠱惑的な笑みを見せる。
その笑みと可愛らしい寝顔とのギャップを感じて俺は黒瀬の事が頭から離れて行かなくなりそうだった。
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