第4話夏休みの計画
七月も中旬に入り、暑さも増して所によっては猛暑日を記録することも増えてくる。
教室にもその暑さは立ち込めていて、窓から吹き込んでくる隙間風が唯一の助けだった。
「ねえねえ司〜」
そこに魔を差すよう話しかけてくるのは涼音だ。
彼女の短めのスカートからは白い生足がすらっと伸びていて、今、履いている長い制服のズボンが鬱陶しく思える。
「なんだ?」
「夏休みにプールとか海に行かない?」
魅力的な提案だ。
今体育では水泳の授業が行われているが、プールの水というのはほんとに気持ちがいい。
あくまでこの時期限定だが......
「いいなっ!風季にも声かけるか」
俺はポケットからスマホを出して十メートルも離れているか怪しい風季にLINEを送ろうとする。
「ちょっ!待って」
「ん?どうした?てっきり風季を俺から誘って欲しくて声をかけたもんだと思ったんだけど......」
涼音は俺から視線を逸らして「あー」とか「えー」とか何を伝えたいのかよく分からない音を出している。
「た、たまには二人でって言うのもよくない?」
「たまにはっていうか初めてだけどな」
「いいから!夏休みに私とデートするのっ!」
教室がシーンと静まる。
数秒するとするとまた、活気を取り戻したかのように皆話し始めるが、さっきの話を聞いて項垂れてるやつが何人かいた。
そういう人は決まって友達に背中を叩かれたりするなどして、慰められていた。
涼音のこと好きだったんだろうな......
まあ、涼音は俺の事好きじゃないんだけどね。
涼音が好きなのは風季だし。
「分かったよ、予定は決めてくれていいぞ」
「うんっ!七月中に宿題終わらせて行こうよ!」
「いや、俺が絶対終わらないんだけど......」
すると涼音は屈託のない笑顔で俺に言い放つ。
「私と一緒にやるから終わるよ?」
「えっと、俺は涼音と宿題をやる予定は組んでないんだけど?」
「うん。だって、今、決めたからね」
共にやってくれるのなら心強い。
俺は大体最後の一週間を全力で費やして終わらせるタイプ。
監視の目。という訳ではないが、誰かがいるっていうだけでやる気にはなる。
「分かった。じゃあそっちも予定組んどいてくれ」
「予定って言うか、終わるまで毎日だよ?」
俺は自分の耳を疑った。
「毎日?終わるまで?」
「そう。毎日」
「どこで?」
「司の家がいいけど、司が私の部屋が良いって言うなら入れるのもやぶさかじゃないわね」
「じゃあ、俺の家でいいや」
そう言うと涼音は自分の席から体を乗り出して俺の机にドンッ!と手を置いた。
「普通そこは私の家に行きたいってお願いするところでしょ!?なに?ヘタレなの?」
地雷を踏んでしまったようだ。
来て欲しかったのかよ......
「分かったよ。涼音の部屋に入れてください」
「そう。最初からそう言ってね!」
涼音は腕を組んで満足げに席に座り直した。
すると、今度は後ろからちょんちょんと肩をつつかれた。
「おはよ、司くん」
「お、おう。おはよう」
花音の方から話しかけてきた事に驚いて、女の声音を伺いながら後ろに振り向く。
花音は柔和な笑みを浮かべていて、ほんとに冷酷姫と同一人物なのかと錯覚を覚える。
「ど、どうしたんだ?」
この状況に戸惑いながら問いかける。
「その、八月十六日に一緒に出かけたくて......」
だんだんと尻すぼみになっていく弱々しい声だったけど俺の耳にははっきりと聞こえた。
「いいけど、どうして八月十六日?」
「その......私の誕生日だから」
少しだけ恥ずかしそうな表情を浮かべて花音は言う。
「もちろんいいぞ、でもお泊まりはなしな」
「うん分かってる」
一応と思って釘を刺してみたが、しっかりと自覚は出来ているようで子供を見る大人のようなほっこりとした気持ちになった。
その後、俺はどんなプレゼントを渡そうかと、イメージを膨らましながら、長い授業を受けた。
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