第5話学期末

「はぁ〜疲れたぁ〜」


昼休みにやっと入って長いため息をつく。


「司は集中力ねぇなぁ〜さっきの授業ほとんど寝てたじゃねぇか」


「なんで見てんだよ......あの先生の授業つまらなすぎるんだよ......」


風季は首を縦に振り同意を示す。


「それは分かる。ただ、俺が一番前ってのはないよな〜」


そう。風季はこの前のくじ引きによって運良く一番前の席を引き当てていた。


「日頃の行いだから仕方ないな」


風季は不満そうに足を二回タンタンと鳴らす。


「日頃の行いだったらお前の方が悪いだろっ!」


同時にデコピンを俺の額に喰らわせてきた。


「いってぇなぁ......早く学食行こうぜ......」


俺は風季を促して学食へ向かった。



◇◆◇



「そーいえば、朝のやつ。どうすんの?」


カレーを口に運びながら聞いてくる風季の表情は無表情に近い。


「まあ、行くつもりだけど」


「ふーん、そうか」


風季の方から聞いてきたのに興味がなさげで、反応は適当だった。


「......羨ましいな」


「なんか言ったか?」


すると、風季は笑顔を浮かべて胸の前で手を振る。


「なんでもない」


小さな声で呟かれたその言葉は俺の耳に届いてしまっていた。


涼音、もしかしたら風季と付き合えるんじゃ......


風季は涼音の事をどう思っているのか探りを入れようとするが、狙ったかのようなタイミングで授業五分前の予鈴が鳴り俺の声を遮った。


「戻るとするか!」


「そうだな......」


両想いであろうという二人の関係に魔を差してしまうようで、モヤモヤとした気持ちを抱えながら午後の授業を受けた。



◇◆◇



『えー、夏休みはね、危険がいっぱいです。例えば――』


真夏の炎天下の中、体育館に集まった全校生徒の高い密度のせいで立ち込める熱気。

いつもは体育館の扉の隙間から流れてくる風だけが唯一の助けなのだが、今日は全くと言っていいほど風がなかった。


これでは集中力も持たず、マイクを通した先生の声は右から左へと流れていってしまう。

この話さえ終わればすぐそこに夏休みが待っていると言うのに、この暑さのせいで気分は一向に上がる気配を見せない。


そんな俺の気分に一筋の閃光が差した。


『それでは皆さんも安全に夏休みを過ごしましょう、これで終業式を終わります』


首を上げると壇上には誰の姿もなくなっていた。



◇◆◇



「「「夏休みだぁ!」」」


「うるさいぞ〜今から通知票配るからな〜」


皆、固まってしまったかのように静まる。

先生はそんなこと気にも止めずに出席番号順に呼び始めた。


「相葉からな〜」


呼ばれた男子生徒はすり足になりながらゆっくりと教壇に近づいていく。


「司!勝負し――」


「見せ合いとかはするなよ〜」


釘を刺されて、涼音は動きを止めるが、先生が刺した釘は呆気なく抜かれてしまった。


「司!勝負ね!!」


涼音の前には先生の声が聞こえていないようだ。


「はぁ〜仕方ないなぁ」


勝負というのなら燃えるものがあるっ!負けたくない......


「小桜〜」


「はいっ!」


待ちきれないといった声音の涼音は駆け足で教壇へ向かっていった。




「くそっ」


結論から言うと俺は負けていた。

涼音の評定平均は約4.3

俺の評定平均は約4.2

一学期は勉強頑張ったから勝てるかもという望みはあったが、そう簡単にはひっくり返らないらしい。


「やった!司はまだまだ精進が足りないねっ!私を見習って頑張りなさい!」


「今、死んでも手本にしないことを決めたわ」


そう言うと、涼音は快活そうに笑っていた。


「この後、俺の家で宿題やるのか?」


「うんっ!一緒に帰ってやろうよ!」


心の中で風季に申し訳なく思う気持ちがありながらも、彼女の屈託のない笑顔に負けて了承した。

気づくともう通知表の山は無くなっていて、じきに先生が話し始めた。



◇◆◇



「じゃあ帰ろっか!」


「おう、そうだな」


自転車置き場まで歩いて一つの疑問点に気づく。


「涼音......どうやって家に来るの?」


涼音は普段は電車で登校しているから自転車はない。


この前、俺の家に風季と涼音は来た時は歩いて来たらしいが......


涼音は首を傾げながら人差し指を顎に当てて、考える仕草を見せている。


「後ろに乗っけてもらうとか?」


「嫌だよ......補導されたら嫌だし」


「人の少ない道通ればいいって!それじゃ早く早く!」


興奮した様子で俺を急かしてくる。

俺は自転車に跨り、涼音が乗るのを待つ。


「乗っていいぞ」


「わ、分かった。し、失礼します......」


遠慮がちに発せられた言葉は俺の漕ぐ自転車に乗ることが不安なのかと思って、少しだけ怖くなってしまう。


一度だけ二人乗りをした事があったがその時はフラフラとしてろくに進めなかった。

とりあえず安全に行こうと心に刻んで涼音に声をかけた。


「じゃあ出るから捕まってろよ」


涼音がワイシャツを掴んだのを確認してペダルに体重を乗せた。


――軽っ。


涼音はありえない程軽くて、スイスイと前に進んでいった。


「涼音、まじで軽いな」


「あ、ありがとう......」


そう言って涼音は顔をうずめるようにして俺の背中に体重を預けてきた。


――――――――――――――――――――

司と涼音の通知表の結果を乗せておきます。

(僕の高校が5段階なのでそれで表記します)

国語総合、5

地理A、4

現代社会、4

生物、5

数学I、4

数学A、5

英語表現、4

コミュ英、4

保険、5

家庭基礎、3

音楽、4

体育、3

評定平均は4.1666·····


涼音

国語総合、4

地理A、4

現代社会、4

生物、4

数学I、5

数学A、4

英語表現、4

コミュ英、4

保険、5

家庭基礎、5

音楽、5

体育、4

涼音の評定平均は4.333·····

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