第17話雷雨の中

花音ちゃんについて話している時の司の顔......とってもいきいきしてたな......

司は誰かに私の話をする時は、あのくらいいきいきと話してくれるのかな......


私の心には暗雲が立ち込める。

花音ちゃんへの嫉妬心が膨張していくようだ。


私って醜いな。

自分でそう思うほど私の姿はダサく思えた。

花音ちゃんが頑張って、私が何もしてこなかっただけ。ただそれだけなのに......


ふと司の顔が頭に浮かぶ。

私が好きになった彼の笑顔は、いつも彼女について話している時。

それがとにかく羨ましくて仕方なかった。

一度振ったって言ってたのに、まるで私の入る隙間がない。


司の隣にいるのはいつも花音ちゃんだ。

そこにいるのは私じゃない。

私がいる構図さえ浮かばなくなった。


どうしたら彼は振り向いてくれるのか......

いくら考えてもその案は浮かばなかった。

共に過ごしてきた時間は私の方が多いのにいつの間にか彼は私の近くにはいなくなっていた。

少しだけ長い時間を一人で過ごして、彼の元に戻っていく。


「お待たせ!」

「ああ、おかえり」


彼が浮か笑顔はやっぱり遠慮げだった。



◇◆◇



「ああ、おかえり」


トイレから戻ってきた涼音は、先程と変わりないように見えた。

だけど窓を叩く雨はどんどん強さを増していく。

空の陰りもどんどん大きくなっていって、段々と暗く夕方過ぎのような暗さになってくる。


「暗いな......」

「そうだね......ごめんね。今日こんなに天気悪くなるなんて知らなくて」

「今更、謝るなよ。俺も来たくて来たんだし、涼音が責任を感じることは無いよ」

「ありがとう。司なんか優しくなった?」

「は?なってねーよ」

「何その口調?照れ隠し?可愛いなぁ〜」

「うるせっ!」


涼音との交わしたくだらない言葉の数々は暗くなった空とは反して、俺たちの心を真っ青に照らして行くようだ。


「やっぱ、涼音といるのは楽しいな......」

「いきなりなによ......褒めたってなんにも出ないよ?」

「なんか、気兼ねなく話せるのっていいなって思って、今すっごく楽しい」

「ほんと?それなら良かった!じゃあ、私とくだらない事話したり、くだらない遊びしよっ!」

「もちろんいいよ」


彼女の浮かべた心からの笑顔に俺もつられるようにして心から笑えた気がした。


「司!何する!?」

「くだらない事するんだろ?なんでもいいよ」


俺たちのこの気兼ねない関係をずっと続けていたいと思うのは涼音も同じであって欲しいな。

それからというもの俺たちは学校のスクープだったり、ただの愚痴だったりをこれでもかと話し合った。

話し合う度に笑いが生まれて、周りの世界なんか切り離して、二人の世界に完全に入っていた。


するとピカっと空が光った。

雷だ。

すると涼音がビクッと身体を震わせた。


「び、びっくりしたぁ〜」

「雷苦手なのか?」

「うん。苦手意識が芽生えるような出来事があった訳じゃあないんだけど、なぜか身体が強ばっちゃうんだよね......」

「案外可愛いとこあるじゃん」

「私はいつでも可愛いですぅ!」


そんな軽口を言い合えるほど俺たちの異性としての壁は取り払われていた。

そして、もう一度空が光る。


今度は涼音が俺の方に倒れ込んできた。

そして数秒後にやってくるふわっとした女の子っぽい匂いによって、異性としての壁がまた作られる。


彼女の薄着越しの柔らかい肌を感じる。

小さく収まりのいい涼音の身体。

俺が彼女の前に手を回してしまえばあっさりと収まってしまいそう。

そうしたいという衝動に駆られる。

出来かけの壁は俺の衝動を止めることは出来なくて、思わず手を回してしまった。


「つ、司?」


涼音は耳まで真っ赤にさせて俺を見上げてきた。

俺との距離はほとんどない。

すぐそこには涼音の顔が。

だけどキスという行為に対しては俺の理性が全力で働いた。


「ご、ごめん!」

「た、倒れた私が悪いし大丈夫だよ!!」


涼音はまだ顔を真っ赤にしていて、空回りしているように見える。

するとワントーン下がった、落ち着いた声音で話し始める。


「なんか、安心した......で、ちょっと嬉しかった」


俺はその言葉を聞いて涼音の顔を見ていられる気がしなかった。

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