第20話忘れ物

「それじゃあ、お風呂入ってくるね、司は私の部屋で待ってて」


涼音が、風呂に入ってくれて、少しだけ安心する。

今日の涼音はなんかよく分かんないけど近い。

ハグを求めてきたり最後に至っては後ろからだ。

ドギマギしない方がおかしい。

なんだか涼音の手のひらの上で転がされている気分。

少し悔しいから、帰ってきたら、やり返してみるか......

あらかじめ、心の準備が出来てれば俺もある程度のスキンシップは大丈夫。なはず......


涼音の部屋は電気が消されて真っ暗になっていたので、電気のスイッチを押して明かりをつけた。

すると、ベッドの上に置かれた、さっきまではなかった彼女のものが目に入ってしまった。

紫色のそれは俺の意識を持っていくには十分過ぎるほどの破壊力をもつ。


ぶ、ブラジャーがなんでここに......

み、見ちゃダメた......


意外と涼音も大きいんだな。

って!俺は何を考えてるんだ!?ダメだろ!

俺は頭を抱えながら、クッションに顔を突っ込んだ。

すると、ふわっといい匂いが。


なんで、こんなにいい匂いするんだよっ!


俺の頭の中はもう煩悩でいっぱいだ。

普通男が家にいる時に自分の部屋に下着を忘れていくか......?

ガード弱すぎだって。

早く帰ってきてくれないかな......

女の子の風呂って長いって言うよね?

そこからというもの、一秒がとっても長く感じた。

体感では一時間くらい経っててもおかしくなさそうなのに、まだ十分。

先の見えない永久的な時間と涼音の部屋に精神がどんどん削られていく。

そしてそこからまた十分。


階段を登ってくるドタドタという音が聞こえた。長い格闘の時間ももう終わりみたいだ。


「司も入ってきていいよ〜」


涼音は平然とした表情で部屋に入ってくる。

だが、彼女の服は夏用だからとっても薄い。

心做しかいつもよりも女の子特有の膨らみがハッキリと形を持っているような気がした。


「ねぇ、司?」

「なんだ?」

「司って大きいのと小さいの、どっちが好き?」

「な、何の話だ......」

「む、胸の話」


私も恥ずかしいんだから早く言ってよ的な視線をバンバンとぶつけてくる。


「そ、それなりに大きいのが好きかな......」

「なんだ、つまんなーい」


涼音はさりげなくベッドに座って布団のしたにあれを隠した。

それを見てると恥ずかしいんだなと分かってしまってちょっといじらしい。

何かをやり返してやろうと決心出来ていた俺はプランを変える。


「涼音?今、布団の下に何か隠さなかったか?」

「か、隠してないけど?」

「ほんと?じゃあ見てもいい?」


俺はベッドに向かって足を進める。


「ダメだめぇ!!絶対ダメだからね!?」

「どうして?」

「だ、だって......」


涼音は口を閉じてしまった。

俺はそこで彼女の耳の近くでこう囁いた。


「涼音ってそれなりに大きいんだね」


俺が耳から離れると涼音は分かりやすく顔を赤らめた。


「み、見てたのに聞いたの!?司のバカっ!私のバカっ!」

「それじゃあ、お風呂入ってくるね」


そして俺はドアを開けて、彼女の部屋を出る。

そのドアを閉めて俺はその場に座り込んでしまった。

ぁぁぁ!恥ずかしすぎ!!



少しだけ時間が経ってから俺はリビングに降りて、涼音のお母さんに着替えを貰って、お風呂に入った。

涼音が既に入ったとかは考えずに。


身体を伸ばしきれるお風呂なんて久しぶりに入った。

アパートのお風呂はちっちゃいからなぁ。

ただ、涼音の事を思い出してしまって、のぼせそうになってすぐにお風呂を出た。



「おかえり」

「おう、ただいま」


部屋に戻ると涼音はベッドの上で耳かきをしているという何とも奇異な状況になっていた。


「えっと......耳かき?」

「そうだけど?あっ、司やって欲しい?」


俺は首を縦に振った。

のぼせかけた俺の頭は欲望に従順だった。

俺は涼音の太ももに頭を預ける。

頭から感じる太ももの感触はもう寝てしまいたくなるほど気持ちがいい。

そして耳に綿棒が入ってくる。


「痛いですかぁ?」


涼音が甘い声で囁いて来て頭が蕩けていきそうだ。


「ううん......気持ちいい」

「そう?ならよかった」


すると、耳にふぅと息を吹きかけられる。

そしてゾクッとした感覚が身体を襲う。


「よしっ!いいね、逆もやろうか」


それは視点的に問題が......

でも、眠気が大きくなってしまっている俺は無意識的にそっちを向いてしまう。

そしてまた、綿棒が俺の耳に入ってくる。

誰かに耳かきされるなんて何年ぶりだろうか......

十年ぶりくらいではないだろうか。

誰かにしてもらうのっていいな......


数分間で逆の耳も終わり、俺は身体を起こす。すると今度は俺のももに涼音が倒れ込んでくる。


「私もやって?」

「ったく。仕方ねぇな」


俺は綿棒を取り出して、彼女の髪をどかす。

露になった綺麗なほっぺを触りたいっていう気持ちを抑えつつ、綿棒を入れていく。


「わぁ〜これ気持ちいいね。病みつきになりそう」


俺は黙々と進めて、十分程で両耳を掃除し終えた。


――すーすー


気持ちよさそうな寝息が俺の下の方から聞こえる。

まさかとは思うけど寝ちゃった?

そして俺は視線を下に向ける。

そのまさかだったようだ。

涼音は気持ちよさそうに目を閉じて寝ていた。

俺は「はぁ」とため息を一回ついて、涼音のほっぺを二回だけ軽くつまんだ。


「おやすみ」

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