第39話結ばれる想い

店の中ということで最低限のマナーは守りながら、皆そこそこに盛り上がって生きていた。

席の移動も頻繁に起こり仲のいい人が集まっているというところがほとんどなのだがなぜか俺だけ、トップカーストの女子たちの中に一人で放り込まれていた。


「なんで俺だけ……」

「まあまあ東条君や、君の恋バナを聞かせてくれということになって、由紀につれてきてもらったんだよ」

「俺に恋バナしてと頼んでも無駄です。そもそも俺の恋バナなんかみんなにとってどうでもいいでしょ?」


俺には話す恋バナもない上に、俺の好きな人なんてみんな興味ないだろ……。


「東条くん、諦めて話そうよ」

「深山さんまで……」


俺の味方はおそらくゼロ。みんな「恋バナ」という一単語にご執心のようだ


「好きな人だけでいいからっ!」


みんなテンションに任せてやりたい放題だ。

俺はとにかく早くここから抜け出したい。

そろーりと抜け出そうとするが、すぐに服をがしっとつかまれて逃げれなくなる。

仕方ないか……


「俺が好きなのは……か、かのんです……バイバイ!俺行くね!」


そして俺はその場を足早に去る。


――ガシッ。

え?


「もうちょっとみんなでお話しよっ!」 

「いや俺は……」


みんなの瞳は俺を強制させるのに必死になっているような感じがした。

単純に怖い。


「東条くんももちろん話していくよね?」


ここで断ったら命がなくなるような気がする。


「はい……」


するとみんなの視線が一気に緩くなった。

それも束の間、皆がいきなり詰まってきて俺から根掘り葉掘りいろんなことを聞き始めた。


「いつから!?」

「夏休みのちょっと前かな」


「どんなところが好きなの!?」

「優しいところかな……前までは怖いところもあったけどね」


「お付き合いする予定は?」

「まだないよ」

「まだということはこれからその予定が!?」

「言葉の綾だから!!」


そこからしばらく質問は続いた。

俺はもう精神的にへとへとだ……




「司すごかったなぁ」


風季は暢気にそんなことをつぶやいた。


「あの中、本当に地獄だから……」

「お、おう。そうか……」


もうヤダ。

女子って怖い……

すると悪魔の声とでも揶揄すべきだろうか。そこまでに俺の恐怖心を膨らませた彼女たちの声が聞こえてきた。


「東条くん!ちょっと来て!!」


え~という声を出しながら振り返り、その輪の中心にいる彼女と目が合った。

俺には若干の不安の気持ちが募る。


「いってこい!」


背中を風季が思いっきり押す。

え、待って。心の準備が……。

そんな俺の心の状況は、皆知らず、俺と花音を対面に座らせて、ほかのみんなは立ち上がっている奇異な状況が出来上がっていた。


「えっと……」


俺が首を振ると皆俺の言葉を待っているようだった。

この状況でみんなが俺に行ってほしい言葉なんて一つだろう。

仕方ない。波に乗せられてやるよ。


「花音」

「は、はい」

「最初に冷酷姫と呼ばれていた時の花音は正直言って怖かった。でもいろいろ話していくうちにだんだんと俺は花音のことを好きになっちゃったんだ。好きです。俺と付き合ってください」


俺は机に頭を打ち付けるんじゃないかという勢いで頭を下げた。


「司くん……私も好きです。よろしくお願いします!」


こうして俺たち二人は恋人となった。

こころがぽかぽかとする。

とっても嬉しい。


これまでの十六年で一番うれしい出来事だ。


そして辛かった過去を乗り越えれた気がした。


風季の言った通り、俺は前を向けていた。


気づくと俺たちを祝福するかのように輪ができていた。

緊張が一気に取れてのどが渇いた。

俺は自分の飲み物を取りに行こうとその輪の中を抜け出した。

すると、俺のカバンの中から四角く丁寧にたたまれた手紙を取り出している涼音がいた。

俺と涼音の目が合った瞬間、涼音は

お金を置いて出口に走り始めた。


「涼音っ……」


俺は暖かそうな輪を見て抜け出していいのかと躊躇してしまう。


「行ってこい」

「風季?」

「適当にトイレとでも言ってごまかしといてやるよ」


そういって風季は二カッと笑った。

俺は涼音を追って走り始めた。


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