第15話突然の訪問

 この家に来るとつい昨日キスされた時の事を思い出してしまう。

 思い切ってインターホンを押すと、部屋の中から慌ただしい足音が大きくなってきて、扉が開かれた。


「おはよう、司くん」

「ああ、お、おはよう......」


 ドアを開いた奥にはパジャマ姿の花音がいて戸惑ってしまう。

 それに加え、口の横にはご飯粒がついていて、朝ごはんを食べていたんだろうと伺える。

 こんな時間に訪問して申し訳なく思う気持ちと、抜けた花音を見れて楽しいという気持ちが入り交じっていた。


「花音、口元にご飯粒付いてるよ」


 花音の口元に付いたご飯粒を取り口に運ぶ。

 すると花音のほっぺはみるみると紅くなり、自分がまだパジャマだった事に気がついたのか、急いで引っ込んでいってしまった。

 その様子を見て毒気が抜かれたみたいに緊張感が取れた。


 俺は小さく「おじゃましま〜す」と呟き彼女の家に上がる。

 綺麗になった部屋を見渡して、少しだけ感慨深い気持ちになった。

 すると食べかけのままのご飯が机の上にあるのが目に入る。。

 それを見て料理するようにもなったことを嬉しく思っている自分がいた。

 本当に変わったんだなと昨日に引き続いて驚かされる。


 先程から足音がするが、やっと収まって、花音の部屋から彼女が出てきた。


「ご、ごめん、お待たせ」

「いや、いいよ。いきなり来ちゃったのはこっちだし気にしないで」


 花音のTシャツからは、水色のキャミソールの肩紐が見えて、どんな風になっているのかを想像してしまう。

 これは男の性だ......仕方ないはず.......

 肩紐の魔力に負けている自分の理性が恥ずかしく思えてきて、視線を下に向けた。

 視界にはダークブラウンのフローリング、上の方に白いもの、というか花音の脚があった。

 ショートパンツの花音はその白い脚を惜しげも無く披露し、俺の精神をゴリゴリと削っていく。


 完全にアウェーな空気を感じながらモヤッとする気持ちを押し込めた。

 視線を上げるといつの間にかお茶碗の中にあったご飯は空になっていて、花音は手を合わせていた。


「で、今日はどうしたの?」


 あまりの切り替えの早さに少したじろぐ。


「あ、ああ、ちょっと花音によく似た女の子があの夢に出てきたからちょっと昔の写真を見せて貰いたくて」

「小学校とかの卒業アルバムはないかもしれないけど幼稚園くらいの写真はいくつかあるかも!」


 花音は自分の部屋に戻って行くと直ぐに何枚かの写真を持って戻ってきた。


「ありがと。ないとはも思うけど花音って髪色を赤くした事ってないよね?」

「うん、ないよ。ずっとこの黒」


 花音は自分の綺麗な黒髪を手櫛で梳いて見せた。

 その黒髪を梳いたくなる気持ちを抑えながら、花音から写真を受け取って幼い頃の花音を見た。


「かわいいな」


 不意にそうぼそっと呟くと、花音は焦ったように食べ終わった食器をシンクへ持って行って洗い始めた。

 写真の花音と夢の中の少女はかなり似ていた。

 写真の花音と今の花音を見比べてその過程にいそうな気はした。

 所詮夢と割り切ってしまえばいいんだが、俺の中にある既視感がそうさしてはくれなかった。


「司くんは何時までいる?」

「すぐ帰るつもりだったけど......」

「それだったらもう少し話したりしてから帰りなよ!私の手作りお昼ご飯付きで!」

「分かったよ、もう少しいようか」


 花音は小さい頃はこんな感じだったのかな......

 早く悪夢も見なくなって、元気に過ごせる日が来て欲しいと思う。

 既に元気そうなところはあるけど......

 そんな彼女を見て微笑みながら、俺は午前いっぱい花音と色々な事について談笑をした。

 その時間はとっても、幸せな気持ちだった......

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