どんな私でも貴方となら:3


「うーん、私は男装してみようかしら。軍服とかって着る機会ないだろうから気になるわ」


「あ、私も軍服気になってたんだよね」


祈織がラックに掛かった軍服に手を伸ばす。


黒を基調として赤と金の装飾があしらわれたスーツタイプのその衣装は、創作物の世界に触れてきた私にとってどこか憧れの対象でもある。


幼女が異世界で軍人となる某作品の衣装が私の脳裏に想起された。


が、続く先輩の言葉で私の夢は儚くも砕け散る。


「男装用の衣装なので三日月さんは無理かもしれません。その、お胸がなかなかあるので…サラシを巻けばどうにかなるとは思いますけど、初めてでしょうからいきなりは苦しくて気分を悪くしてしまうかもしれません」


「私なら、無問題なのね…ふっ…」


私が着れないのは残念だけど、言外に先輩が伝えた祈織なら着れるという事実に当の本人の目から光が失われた。


なんだか、申し訳ない。


「ハルちゃん!ハルちゃんはメイド服なんてどうでしょうか!ほら、このミニスカなんか太腿が見えてエッ───」


「先輩、さっき見たメイド服みたいなロングスカートのは無いんですか?」


「すみません。ヴィクトリンやクラシカルは私個人のコスプレ衣装としては持ってないです。ミニスカとフレンチ、和風メイドしかありません。そうですね…三日月さんはフレンチなんてどうでしょうか?」


「えぇ!?こ、こんなに胸元開いてるのは恥ずかしいで───」


「いいえ、着るべきでしょう!」


「着るべきだわ」


「わお、揉みやすそう。何がとは言わないけど揉みやすそう」


「揉まないでよ!?あの…じゃあ先輩、取り敢えず着方を教えて貰っても…」


「では、こちらへどうぞ」


◇◆◇


「ふむ…私は何を着てみましょうか…」


ハルちゃんを見送った後、私は沢山ある衣装を眺めるのを止めて手に取り始めました。どれもこれも縫製がしっかりとしていてそもそもの服としての完成度がかなり高いのがよく分かります。


…この可愛らしい怪獣の着ぐるみは一体なんの劇で使うのでしょう。


「奏ちゃんこそメイド服とか似合いそうだけどねぇ〜」


「そうでしょうか?メイド服に関しては最初からハルちゃんに着てもらうつもりだったので自分では考えてなかったですね」


「奏は金髪っていうのもあるけど、なんとなく不思議の国のアリスみたいな衣装とか似合いそうな気がするわ」


「あっ、これなんかそうじゃない?ほら、この水色の」


詩音さんが数ある衣装の中からそれらしい物を見つけて私の元へ持ってきます。


それは確かに不思議の国のアリスを彷彿とさせる水色のカジュアルなメイド服でした。


ですが…


「…丈が短いですね。それにフリルが多めです」


まさに『女の子が着る服』といった感じのその衣装は、今まで私が着た事の無いタイプの物です。ゆるふわ系とでも言うのでしょうか?


童話からそのまま飛び出してきたかのようなそれは、あまり私のイメージとは合わないと思われます。


「貴方ね…自分は春乃にあれだけ勧めておいて…」


「でも、着てみます。2人が選んでくれたものですし、せっかくなのでハルちゃんと同じでメイド服というのも悪くありません」


それに───


「私もそろそろ、可愛い服を着てみたい、ですから」


「「…?」」


私が小さく漏らした独白は、2人にははっきりと聞こえていなかったのでしょう。小さく首を傾げていました。

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