解語の華の一目惚れ。恋煩いに薬無し〈藤野 祈織〉:1


白椿学園入学初日、少しばかりスキンシップが激しかったり人を揶揄うのが好きと、中々に良い性格をしている友達が出来た。距離感を測るのが若干まだ難しいが、上手くやっていけそうではある。


阿澄さんは話している途中で「あっ、やば。そろそろ帰んないと」と言って帰ってしまった。なにやら家の手伝いをしないといけないらしい。


「ん…私も寮の部屋に帰ろ」


今日の成果は友人第1号。


私の目標はたくさんの友達に囲まれた学生生活だが、今日は…うん。頑張ったと思う。無理しすぎないで帰ろう。いや、ヘタレた訳ではないよ?ちょっとお腹がキリキリするだけで。


リュックサックに配られた資料やら手荷物を詰め込み私は教室を出た。


入学式前の入寮手続きの時に貰った地図を頼りに、寮をゴール地点に広大な土地を誇る学園の敷地内を歩く。


少し辺りを見回すだけで豊富な施設料、眩しいほどに手入れの行き届いた環境が目に入った。敷地面積も相まってもはや1つの街のようである。


学費が高いという訳では無いが、この学校が関係している事業で得られるリターンは数多くあり故に資金源も潤沢。それの行き着く先は更なる生徒達へのリターン。


生徒が頑張り、それを先生達がサポートし、学園が団体として支え、幸福の還元にまた生徒達が頑張る。好循環が生み出すwin-winの関係はこの学園を見るだけで容易に想像する事が出来た。


そしてそれは寮の運営にも言える事で、全てが完全な無料とまではいかなくとも一般的な学生寮と比べると破格の利用料なのだ。


最新設備の行き届いた寮は部屋数も驚くほど多く、男女で棟自体が別々なのは当たり前。食事は食堂が朝の6時から夜の10時まで開いており種類もさることながら無料提供。


その結果、出身地が遠く通うのが大変で高い利用料を払って寮に入るのも難しい…という学生が減り、この学園は更に将来有望な生徒を確保でき、親も安心して学園に子供を預ける事が出来る。


つくづく、この学園は規格外であると言えた。


かくいう私も、今日からは親元を離れて学園寮暮らしである。


「うーん、広い。えっと…次の十字路を曲がって真っ直ぐ行けば寮か。初めての寮生活、楽しみだなぁ」


「ちょっと待ってちょうだい!」


「うわぁ〜、あれカップルかな?手繋いでる……羨ましい」


「ちょっと、聞いてるの!?」


「私も彼氏ほしいなぁ。一緒に勉強したり、休みの日にはお出かけしたり…」


「え…か、彼氏なんてダメよ!!」


「うわぁ!?」


「あっ、ごめんなさい…」


地図を見ながら寮を目指しつつ、少し離れた所を歩いているカップルらしき2人組を羨ましく思ったりしていると、いきなり後ろから肩を掴まれた。


突然の事に驚いて振り返ると、なんとも美形な顔が私の視界いっぱいに映し出される。


「もう…何回も呼んでたのよ?」


「ご、ごめんなさい…」


私の肩を掴んでいたのは早くも男子達に学園のアイドルと呼ばれていて、私が心の中で美人さんと呼んでいる藤野 祈織さんだった。


何度も呼びかけてくれたらしく、どうやらまた私は自己紹介の時の様に外界の音を切り離してしまっていたらしい。妄想しすぎる癖、どうにか治さないと…


「えと、それで美じ──藤野さん、私に何か…?」


「嬉しい…私の名前覚えてくれてるのね」


「はい?まぁその、色々と覚えやすいですし…」


頬を桃色に染めて目を潤ませる美人さん。いや、嬉しいもなにもこれだけ目立つ存在を認知しない方が難しいだろう。改めて近くで見てみると、学園のアイドルという名に相応しいのがよく分かる。まさにS級ヒロインというやつだ。


それに朝の掲示板前の事もあり私は特に強く記憶している。


「そう?じゃあ、その…三日月さん、ちょっとこっちに来てもらってもいいかしら」


「あ、はい」


「ありがとう。こっちよ」


「というか、藤野さんこそ私の名前覚えてくれてるんですね」


「当たり前じゃない!」


「当たり前とは……?」


私は美人さんに手を引かれ、少し奥まった場所にある木陰へと連れていかれた。ふむ、美人さんも中々に距離感が近い気がする。


阿澄さんもそうだが女の子同士のスキンシップは肌の触れ合いなど普通なのだろうか。今まで友達と呼べる関係性の人が居なかったせいでよく分からない。


そうして連れていかれた場所は葉や木々の間から私達を照らし出す木漏れ日が幻想的で、一帯の時間がゆっくり流れている様に感じられるとてもロマンチックな空間だった。


なんの用だろうと美人さんが話し出すのを待っていたが、なんだかもじもじとしてこちらをチラ見するだけで一向に話し出しそうにない。…思い切って私から話しかける事にした。


「それで、何の用ですか?」


「─────なの…」


「…?」


「一目惚れなの!!」


「……なんて?」


「その…えっと、私、あなたの事が好きになってしまったの…お付き合いして頂けないかしら…」


「…ふぁ!?」


なんで私がヒロインに告白されてるの!?


いきなり過ぎて、私は変な声を出すしかなかった。




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やっとタイトル回収出来ました…

今回は周防 奏編を後にして、藤野 祈織編を先に投稿する事にしました。時系列をこの順番にした方が、後々面白そうなお話がかけるイメージが浮かんだので。

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