綺麗な華には毒がある。ネコにとって百合は毒《周防 奏》:3


「ソウ……えっ、ソウくん?」


「はい…はいっ!ハルちゃん、やっと会えました」


◇◆◇


私が小学校低学年だった頃、家の近くにある公園でよく友達と遊んでいた。今と比べたら天と地ほどの差があるくらいに、当時の私は明るくて活発だったと思う。


その公園は2つの小学校のちょうど中間に存在していて、それぞれの学区の子供達が多く集まってきていた。それもあってそこで遊ぶ子供はほとんどが知り合いの様なもので、夕方になるまでかくれんぼや鬼ごっこをして遊んでいたものだ。


そんな騒がしい空間の隅っこで1人の男の子・・・を見つけた。白の無地シャツに黒の長ズボンという飾り気の無い格好で、小さなベンチに1人で座る帽子を被った男の子。誰かと遊ぶでも話すでもなく、じっと他の子達を眺めている。


今の私からしたら考えられない程大胆な行動だが、そんな男の子が気になって当時の私は声をかけた。


「ねぇねぇ!何してるのー?」


「え…えっと、その、皆を見てた…」


「それって楽しいのー?」


「んと…あんまり、楽しくはない」


「じゃあ皆と一緒にあっちで遊ぼ!」


「いや、わた──僕なんかが一緒にいたらつまんなくなっちゃうから」


「そんなことないよー!ね、行こ!」


「あ、ちょっと…」


「みんなー!この子が次の鬼ねー!」


今思えばなかなかの鬼畜である。


初めて会った人を鬼ごっこに強制参加させた挙句、まさかの初手から鬼役。その時は気が付かなかったけれど男の子もきっとすごい顔をしていたに違いない。


そんな、私と男の子の出会い。


「あの、僕…そろそろ帰らないとパパが心配しちゃうから…」


「えー……そうだ!明日も遊ぼうよ!」


「い、いいの?」


「うん!で、私の名前はね、はるの!」


「僕は………ソウ。ソウって呼んで」


「うん、ソウくん!覚えた!じゃあ私の事はハルって呼んで!皆からはそう呼ばれてるの!」


「うん、分かったよ…ハルちゃん」


「えへへ、じゃあねソウくん!」


「…じゃあね」


その日から、ハルとソウくんは友達になった。


小学校は別々の学校だったけれど、放課後や休日に集まってたくさん遊んだ。初めて会った時の印象は内気な子だったが、遊んでみれば遊んでみるほどソウくんの内に潜む凄さが滲み出てくる。


鬼ごっこをすればあまりの足の速さに誰も逃げきれず、かくれんぼをすればものの数分で全員が見つかり、サッカーをすれば得点王。


そうやって皆と遊んでいくうちにソウくんはどんどんと皆と仲良くなっていった。


そんなある日───


「いたっ…」


「ハルちゃん!大丈夫!?」


変わり鬼で私が鬼をしていた時、小石に躓いて転んでしまったのだ。地面についた手や膝が僅かに擦りむき、薄らと血が滲む。


すると、私を見て逃げていたはずのソウくんが真っ青な顔で走りよってきた。


「ほら、ハルちゃん。立てる?そこの水道まで行こ?」


転んで座り込む私にかがんだソウくんが手を差し伸べる。体勢の関係もあって、私は下から見上げるようにして普段帽子のつばに隠れていた顔を初めてまじまじと見た。


ぱっちり二重の可愛らしい目に長いまつ毛、整った高い鼻筋、血色の鮮やかな唇。


「うわぁ〜…ソウくん、綺麗なお顔!」


「え?あっ…もう、ハルちゃん!ほら、早く怪我したところ洗お?」


「うん………はい、タッチ!」


「ふぇ…?あーー!?」


「皆、逃げろぉ〜!」


あはは!と笑い合う声が毎日の様に公園で響き渡る。楽しくて楽しくて、宝物みたいな日々が恐ろしい速さで過ぎ去っていく。


特に仲良くなった私とソウくんはお互いの家にお呼ばれして遊んだり、たまにお泊まりしたり。ソウくんは料理に興味があるらしくてクッキーやお茶をよく私にくれた。


でも、いつになっても恥ずかしがって一緒にお風呂には入ってくれなかったけど。別に小学校低学年くらいなら男の子と女の子が一緒に入っても問題なかっただろうに。


「ふぁ〜…ん〜、眠いぃ…」


「ふふ、ハルちゃん、そろそろ寝よっか」


「うん、うん……」


「ハルちゃん、寝ぼけてるの?」


「んー…?んふふ、ソウくん…だいすき〜…」


「っ!?………も大好きだよ、ハルちゃん」


「すぅ…すぅ…」


「…おやすみ」


かけがえのない幸せな時間。


それは、突然に終わりを迎えた。


ある日からソウくんは公園に来なくなってしまったのだ。


最初の数日は少し不思議に思うくらいだったけど、やっぱり気になってお母さんに「あのね、最近ソウくんが公園に来てくれないんだぁ…」って言うと


「え?春乃、聞いてないの?ソウくんの家引っ越したのよ?」


「え…?」


足元がガラガラと音を立てて崩れた気がした。




─────────────────────

すまない、周防 奏編が3で終わるというのは嘘だ。


ということで、申し訳ありません。書きたいことが多すぎて2どころか3ですら収まりきりませんでした。加えて4が後日投稿されます。下手したら5になっちゃうかもしれませんね。やっべーですよ。


話は少し変わりますが、皆さんが子供の頃ってどんな遊びをしてましたか?やっぱり鬼ごっことかかくれんぼ、氷鬼辺りが定番なんですかね?

ま、私はぼっちだったので1人おままごとを極めてましたけど。お父さん役のぬいぐるみA、お母さん役のぬいぐるみB、子供役のぬいぐるみC。

そうです、私はペット役をしていました。


楽しそうでしょう?


閑話休題。


話は戻りまして…今回の過去のお話を通して少しずつ春乃と奏の出会いが浮き彫りになってきた訳ですが、幼少期から高校入学に至るまでで生まれた時間の溝を埋めることは出来るのでしょうか?数年ぶりの再会、しかも想像していたのとは全く違う形で。


そんな2人が今後どのようになっていくのかを楽しみにして頂けたら嬉しいです。


それと、変わり鬼ってローカル鬼ごっこですかね?

調べてもあんまり出てこないので上手く伝わるか心配です( ´・ω・`)

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