綺麗な華には毒がある。ネコにとって百合は毒〈周防 奏〉:2
「んっ…ううん…ん?」
ガバッ…と音を立てて私は飛び起きた。あまりの勢いに寝ていたらしいベットの掛け布団が大きく捲れる。
「あれ?私、帰ってきた後、確か急に…」
「あ、起きましたか?」
「っ!?」
聞こえるはずのない声に私は目を見開いて振り返った。
単調な色の部屋に映える黄金の輝き。
「す、周防さん!?」
「……はい、周防 奏ですよ」
そう、声の主は天使と見紛うほどに美しい周防 奏さんだった。私の寝ていたベットの横でちょこんと座り、じーっと私を見つめている。
私が不可解な状況に驚いて周防さんの名前を呼ぶと、美しい金髪を耳にかけて美しく微笑む。
「…綺麗」
「ふふ、ありがとうございます」
いやいや、そんな事を言ってる場合じゃない。
「いや…え、なんで周防さんが私の部屋に?そもそも鍵は?あっ、私が急に意識を失ったのも周防さんが何かしたの!?」
「まぁまぁ、そう焦らないでください。順を追って説明しますから。少し待っていてください。そろそろ起きる頃だろうと思ってハーブティーを淹れる準備をしてありますから」
ふわふわと何処か掴み所の無い態度でお湯をガラス製のティーポットに注いでいく。ポットの中を舞うのがきっとハーブなんだろう。
というか、あれらは私の部屋に元々あった物なんだろうか。使い慣れている所を見るに周防さんの私物な気がする。
態々そんな物を持ち込んでなぜ私の部屋に?と疑問が絶えない。
「はい、どうぞ。変な物は入ってないですから安心してくださいね」
「あ、ありがとうございます…」
変な物って何…?聞いてもないのに入ってないって言われるとすごい不安になるんだけど…
コクリと喉を鳴らして私はハーブティーを飲んだ。特徴的な風味ではあるもののすっと鼻を抜けていく香りが心地よくて、喉を通る優しい温かさがじんわりと体全体を暖めた。
…何だか懐かしい味がする。
「ふふ、やっぱりハルちゃんはこのお茶が昔から好きですね」
「…なんで周防さんが私の事をハルちゃんって呼ぶんですか?それに、昔からって…」
「やっぱり、覚えてないんですか?」
「いや、何を…?」
覚えてないのかと聞かれても、私が周防さんと会ったのは今日が初めてだ。それに、もし初めてじゃなかったのならこんなに目立って記憶に残る人を忘れるはずがない。
「……そうですね、では最初から話しましょうか。私は小さい頃、虐められてたんですよ」
「え…?」
「子供というのはどこまでも正直で、無垢です。そのせいで、人が傷つくことを平気でしてまう子がいます。…見てすぐに分かる私の周りと違うところって何でしょうか?」
「金髪、ですか?」
それは周防さんを形容するのに一番適した特徴。キラキラと輝く幻想的な金髪だ。髪の毛を染めて金髪にしている人は数多くいるけども、見ただけでその違いが分かるほどに天然物は透き通った色をしている。
「そうです。男の子からは髪色をとことん揶揄われましたし、不良だなんだと言われたこともありますね。まぁ、男の子なんて可愛いもので女の子からは陰口をたくさん言われて、物は隠されて、机やノートは落書きされて…調子に乗ってる、なんて意味不明な理由でいきなり鋏で髪の毛を切られたこともあります」
「そんな、ひどい…」
過去の出来事を俯きながら話す。私には分からないが、どれだけ辛かったんだろう。精神的に虐められるだけでなく、髪に無理やり鋏を通すなんて有り得なすぎる。
「当時の私は幼心に絶望というのはこれかと理解しましたね。誰も私を認めてくれなくて、居場所が無くて。体も心も傷つけられて毎日1人で泣いていましたよ」
ぽつりぽつりと話す周防さんは今にも折れてしまいそうなか弱さを孕んでいる。しかし、そんな雰囲気を吹き飛ばすほどの幸福に満ちた笑みを浮かべてでも…と続きを話し出した。
「でも、ただ1人だけ私を大好きな友達だと言ってくれた人がいるんです。髪を人に見せるのが怖くて帽子で髪を隠していた当時の私は、家の事情で引越しをするその時まで色々と本当の事を話せませんでしたけど……
この呼び名に聞き覚えはありませんか?ハルちゃん」
それは、私が小学生の頃に淡い気持ちを抱いていた男の子の名前。私を唯一「ハルちゃん」と呼んでいた、大好きだった友達の名前。
「ソウ……えっ、ソウくん?」
あの時はただの憧れぐらいにしか思っていなかったけど、今思えばあれが私の初恋だったのかもしれない。
「はい…はいっ!ハルちゃん、やっと会えました」
私の目の前には、記憶に残るソウくんと全く同じ笑顔を見せる周防さんが居た。私の初恋が、姿を変えて再び私の前に現れた。
男の子だと思っていた
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すみません、周防 奏編は2までの予定だったんですけど3に伸ばします。
ここで言う春乃の
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