解語の華の一目惚れ。恋煩いに薬無し〈藤野 祈織〉:2
一目惚れ。
その名の通り"一目見ただけで惚れてしまう"事を意味する。つまり、誰かが誰かに対して恋をしたという事だ。
「その…えっと、私、あなたの事が好きになってしまったの…お付き合いして頂けないかしら…」
「…ふぁ!?」
え?ん、んん?
美人さんからの唐突な告白に私はおかしな声を上げた。目で見た情報がぐるぐると脳内を駆け回り、耳から入った情報がぐちゃぐちゃと全てをかき乱す。
今私の目の前にいるのは入学早々にして学園のアイドルと呼ばれる藤野 祈織さん。そんな人に私は「一目惚れした」「好きになった」「付き合って欲しい」と言われている。
なるほど、つまり───
「あの、藤野さん?」
「な、何かしら…?」
「藤野さんって…男の子?」
「違うわよ!!」
「ひぇ…ご、ごめんなさい」
私の考えは外れたらしい。まぁ、最初から期待していた答えでもないけれど。っていう事は…私は女の子に恋人になってほしいと告白された訳である。
「えっと、なんで私に告白を?いや、一目惚れって言うのは今聞いたんですけど、そういう事じゃなくて。それに、そもそも藤野さんは女の子で私も女の子なんですけど…?」
私がそんな当然の疑問を藤野さんにぶつけると、彼女は目を瞑り大きく深呼吸をする。一度気持ちを落ち着けたのか、ゆっくりと目を開いて心の内を私に語ってくれた。
「ふぅ…私ね、自慢じゃないけど今まで結構モテたのよ。色んな男の人にたくさん告白されてきたわ。でも、恋愛感情どころか個人への興味すら持てなかった。一般的に言う恋心が理解出来なかったの」
「…え?」
いきなりのモテる発言に流石の私も面食らう。言うのも恥ずかしいが、私への…恋心?を話してくれるのだと思っていた。
それがまさかのモテるという…想像は出来るけど今言われるとは予想の出来なかった答え。だが次第に、彼女の言いたい事がハッキリとしてきた。
恋愛感情を抱けず、告白してきた男子に興味すら持てない。理解も出来ない。
私だって恋らしい恋をしたことは無いけれど、興味はあるし、幼少期頃の憧れに近い気持ちを含めていいなら小さな恋をした事もある。
しかし、藤野さんにはそれすら無いらしい。
「恋心の分からない私にとって、男の子の告白を断るのは苦しさしかなかったわ。でも…そうね、恋をしたくなかった訳じゃないのよ?かっこよくて優しい王子様みたいな、いつか私なんかでも好きになれる人に出会えると思ってたから…
"それが、私にとって今日だった"
初めて感じた感情だけれど、これが恋なんだってすぐに分かった。ドキドキが止まらなくて、あなたの事ばかり考えてしまって、私以外の女の子と話しているのを見たら胸がキュってしたの」
真っ直ぐな瞳が私を射抜いた。
藤野さんの心の熱量が、想いの丈が私の体を熱くする。
「でもそれはかっこいい王子様じゃなくて、可愛らしいお姫様だったけれど。"好きになった人が私のタイプ"ってこういう事を言うのかしら?ふふ、おかしな話しよね」
「……初恋で、恋愛対象が女の子だって気が付いたって事ですか?」
「そうね。私のコレは初恋で、一目惚れで、真っ当な恋じゃないかもしれない。でも、私は私の気持ちを信じたい。私の感じた想いを捨てたくない」
「その……」
「あなたの思ってる事、言いたい事…よく分かるわ。それは私が今まで男の子に対して感じてきたものだもの。だからさっき付き合ってほしいって言っておいてなんだけれど、今答えを貰えなくてもいいの。いつか必ず、あなたを私に惚れさせてみせる」
「……私の恋愛対象は、男の子ですよ?」
「──分かっていたけれど、やっぱりちょっと辛いわね…恋煩いって言われる意味がよく分かるわ。きっと、この病気に薬なんて無いのよ」
今までずっと私を見つめていた瞳が下を向いた。
「三日月さん…あなたの事が大好き。…じゃあ、私はこれで帰るわ。また明日ね」
強い想いをハッキリとした言葉で伝えて、藤野さんはこの場を後にする。私に背中を向けて走り去る彼女の顔は見えないが、髪の隙間から覗く形の良い耳が赤く染っているのが見えた。
1人残された私は暫くの間、無言で立ち尽くす。私が好きなのは男の人だ。恋愛対象は女の子じゃない。
でも、どうしてだろう?
顔の火照りが、胸のドキドキが止まらない。頭がぼうっと熱に侵されて、吐く息がまるで炎のように感じられる。
………風邪。そう、これはきっと、風邪だ。
───────────────────────
皆さんの初恋はどんなものでしたか?
皆さんの好きな人はどんな人ですか?
男の人は女の人が好き。女の人は男の人が好き。
それがきっと、"普通"ってやつなんだと思います。
じゃあ、男の人が好きな男の人は?女の人が好きな女の人は?
普通じゃないんでしょうか?
憚られる恋なんでしょうか?
皆さんは、どんな恋をしていますか?
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