どんな事でも貴方となら:4

「ふぅ…やるね。じゃあ次は私が攻めさせてもらうよ」


キュッ…と床とシューズが擦れる音が響いて攻守が入れ替わる。さっきの1戦を見ただけじゃ祈織が凄いことしか分からなかったけど、遠藤さんもびっくりするほどに上手い。


よく聞く話だとバスケットボールは身長が武器らしいが、小柄先輩が細かな動きとフェイントで身長のある祈織を翻弄している。


針の穴を通すような繊細さがプレイの端々から滲み出て技術の高さを物語っていた。これもまた、綺麗なレイアップシュートで得点が入る。


「ふふん、どうだい?ちっこいなりに出来ることはあるんだよ」


「…さすがに上手いですね。では、攻め方を変えるとします」


「……ハハ!君、存外負けず嫌いだろ?」


「どうでしょう?まぁ、言われた事はありますね」


「負けず嫌いじゃなかったら、同じ土俵で、勝負しようとは思わないさっ…く、行かせるもんか!」


絶えず鳴り続けるボールの弾む音とシューズの擦れる音。体格と速さで攻めていた祈織がフェイントで活路を作ろうとしている。


単純な力の殴り合いから技と技の応酬に変わり、当事者も観戦者も巻き込んで白熱、異様な緊張感が場を埋めつくした。


祈織がフェイントで遠藤さんを制し再び攻守が切り替わると、祈織の守備は確実に前よりも覇気を増して帯びている。


「くぅ…攻めきれない」


「もう簡単にフェイントには引っかかってあげませんよ」


「まぁ、そう思ってくれる方がやりやすくていいかな。…ふっ」


「あっ…!?」


「とうだ〜、これが先輩の心の余裕って奴だよ。私がドライブしてフェイントで攻めると思ったでしょ?ま、踏んでる場数が違うからね」


放たれたロングシュートが硬直する祈織の頭上を通りリングに収まる。


悔しそうに歯噛みする祈織。


それがどこかいつも大人っぽい彼女とは違って、魅力的な幼さが垣間見えた。


それでも、私は───


「さぁ藤野さん、最後だよ」


かっこいい祈織が好きなのだ。


「祈織、頑張って!」


「っ……えぇ!!」


交差する視線。踏み鳴らす2人の足音が加速する。胸の前で組んだ私の手が徐々に力を増し、頬に汗が伝った。


固唾を呑んで見守る私はきっと当人達よりも緊張していたに違いない。


摩擦音と重低音がひっきりなしに鳴り、繰り返される駆け引き。右に重心が寄ったと思えば左に切り返し、それすらもフェイクなんて当たり前。止めどない攻防で最後に女神が微笑んだのは───


「通らせてもらうわっ!」


1本目と同じで舞う様に遠藤さんの横を走り抜ける祈織。右手の添えられたボールが軽くボードに当たりそのままリングを通った。


「…いやぁ、負けた負けた!藤野さん、やっぱりバスケ部来ない?」


「すみません。私、出来るなら好きな人と同じ部活に入りたいと思ってて。まぁ、特に入りたい部活が無いからっていうのもあるんですけど」


「ふーん…じゃあ、その人は男子バスケ部に入ったりしないのかな?」


「……まぁ、入らないでしょうね」


「そっか。ま、恋する乙女を止めることは出来ないねぇ」


「はい!」


なんとか勝ち越した祈織が遠藤さんと話した後、私達の居るところへ小走りに帰ってくる。


「春乃…私、勝ったわ」


「うん、見てたよ。そ、その…すごいかっこよかった」


「ふふ、そう?春乃が見てたから…春乃が応援してくれたから勝てたの」


そう言って祈織が私の頬に手を当てる。


「大好きよ…春乃…私の事、これからもっと知っていってね?」


「うぁ…う、うん…」


「ちょっと、2人だけの空間を作らないでください!」


「あはは、ラブラブだねぇ〜」


ちゅっ…と右頬に瑞々しい膨らみが触れる。


「あっ…」


「いつか私の全部を知ってもらって、私が春乃の全部を知ったら…今度はこっち・・・を貰っちゃうんだから」


「うぅ……あの、その、本当にバスケ部じゃなくていいの?」


「えぇ。春乃の居る場所が、春乃の隣が私の居場所だもの。どんな事でも…貴方となら」


「さぁ次の部活を見学しに行きましょう!さぁ、さぁ!早く、離れてください!!」


「次は演劇部でも見に行かない〜?」


「ちょっとっ…まだジャージとか返してないからっ、待ちなさい奏!」


私を祈織から無理矢理引き剥がし手を引いて先を急ぐ奏。


でも、それで良かった。


あのまま祈織の傍に居たら、きっと私は───


「チッ…ハルちゃんが雌の顔をしてます…」


「…?奏、何か言った?」


「いいえ、何も言ってませんよ。さぁ、次の部活を見に行きましょう!」


「う、うん」


顔の火照りが、暫く治まることは無かった。


─────────────────────

という事で祈織回でした。


いやぁ、スポーツ得意な女の子もいいですよねぇ…


勝手な妄想なんですけど、いっぱい運動した後に部室等で着替えている時に滴る汗を拭こうとしたら意中の子に抱きつかれて「ちょ…今汗かいてて臭いからっ…!」とか言いつつ内心嬉しくて相手の子は「ん〜?全然そんな事ないよ?むしろ、私は〇〇の匂い好きだなぁ〜」とか言ってたらもうゲヘヘヘヘって感じですよ。




…キモいしスポーツ得意なの関係ないですね。


閑話休題。


いやぁ、最近は百合小説や百合漫画の供給が潤沢でこんな世の中ですが家に居ても楽しみが多くてなんとか精神的に参らずに済んでます。


はぁ…周りに百合で語れる人が少ないので百合友達が欲しい限りです。こう、私の好きな作品を布教しつつ他の人の好きな百合作品を知って沼に自ら嵌りたい。

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