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[あらためて、はじめまして。ミクです]

右手を差し出した。

私も差し出す…握手する。


トオルがそれ見て手を出しながら言った。

[俺にも握手…]


ミクがその手をパチンと叩いた。


皆が笑う…優しい笑顔で。

ふと私は気付いた。

ここは家族なんだ…と。


羨ましい…皆どんな関係かは知らないけど、交じりたかった。

でも何故か交じりたくたくもなかった。

なんでだろう?

その浮かんだ疑念は入り口のドアが開き、賑やかな声でかき消えた。


[とおるちゃーん。あなたから連絡あるなんて嬉しいわー]

ダミ声…発したのはオカマ。

ワンピースを着ているが体格は男だった。化粧をしているが顔は男だった。


[おーう。あんまり会いたくないけどなー]

トオル…そう小声で言いながらそそくさとカウンターの内側に入る。


カウンター内からトオルが私にささやく。

[ビックマダム…]


[とおるちゃーん。なんで逃げるのよ]

背後からダミ声。


[いや、仕事なんすよ…それよりこの子]

私を指差してトオルは言った。


身長はトオルより少し高い…180センチはある男。

濃い化粧にフリルの着いたワンピース…オカマ。

イラストにすぐ書けそうなキャラ。


私、何するの?…疑問が渦巻く。


トオルがビックマダムと呼んだオカマは、私を見つめた…真顔で目を細めて。

[こんばんは。あたしキャサリン。キャサって呼んでくれたら嬉しいわ]

真顔な顔が一瞬にして明るい笑顔で隠された。


[よろしくお願いします]

私は何て返事すればいいか分からず、それしか言えなかった。


キャサはトオルに言った。

[まぁ、磨けば光るかもね]


トオルは誇らしげに言った。

[だろ?間違いなく有名になるさ。キャサも認めりゃ大丈夫]

キャサにそう答えて、私を見てウインクした。

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