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ユダは私の前にチャーハンを置きながら言った。
[奢るよ]
ユダの優しさで私は泣きそうになった。
そう…ユダは多分、気付いてた。
私がステラマリスに近づかなかった理由を…。
ここは素敵な場所…幸せが満ちている。
私は幸せじゃない…よそ者。
幸せな人を見ると羨ましくなる。
羨望は嫉妬に変わる。
嫉妬は憎悪に結びつく。
それは避けたかった。
だから幸せな人には近付かないようにしていた。
私は多分、トオルやミクママの幸せな顔を見たくなかった。
どうして私だけ違う世界の住民なの…と、卑屈になりそうで。
ネガティブ…弱気になっている。
来るんじゃなかった。
だがもう遅い。
トオルが隣に座る。
[どしたい?弱気になったのか?素を出したのか?]
笑いながら声をかける。
私は首を振る。
トオルは苦笑いしながらユダに言った。
[ナイーヴだよな]
ユダの返答…[恵美らしいよ]
トオルは突然、私の頭を撫でた。
[可愛いよな。恵美は]
私は首を振った…涙をこらえるので精一杯…チャーハンがうまく呑み込めない。
[ずっと1人で生きてたからな…]
トオルが独り言のように言った。
私は崩れた…うぅぅ。と口から嗚咽が漏れ、意志とはうらはらに涙がこぼれた。
優しさに触れた事は少なかった。
ぬくもりに暖まった事も…。
私には、対価のある優しさしか触れなかった。
神崎パパも、キャサも、ミスズも優しかった。
でも私はちゃんと皆に対価を支払った。
神崎パパには身体を。
キャサには仕事を。
ミスズには優しさを。
[なんで、私に優しくするの?私には何にもしてあげられないよ…お金しかないわ]
私は泣きながら言った。
トオルは苦笑い。
ユダはゆっくり首を振った。
ミクママの声…[さぁ今日はもうおしまい。皆さんごめんなさいね。その代わり今度来たらお詫びしますから]
ボックスにいた数組の客に向けての声。
客は素直に腰をあげた。
客を見送ったミクママはステラマリスの看板の灯りを消した。
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