.34

命はあっけない。


警察が両親に連絡をした。

両親は口を揃えて言った…電話越しで…[ミスズはもう私達の子ではありません。うちのミスズは15歳の時に亡くなったのです]


質素で簡素なお葬式…骨壺に収まったミスズ…小さかった。軽かった。

遺骨は近くの霊園に納骨した。


両親の代わりにミスズの兄さんが葬式に参加した。


兄さんは弁護士と名乗った。


彼女の身の上話は嘘だった。

真実を知った今、ミスズがなぜこんな性格になったのか、なんとなく理解できた。


彼…ミスズの兄さんは、名刺と共に分厚い封筒を出した。

分厚い封筒…多分お金…多分100万。

私は名刺だけ受け取った。

彼は書類を差し出し、私にペンを渡した。


さすがに見かねたのか、一部始終を見ていたキャサが、怒りあらわに彼に言おうとした。

私はそれを遮り、その書類を一瞥しサインをした。


悲しかった…ミスズが哀れ過ぎた。

模範的な兄と、常識を重んじる両親に、出来の悪いミスズ。

ミスズの家庭環境…簡単に想像できた。


寂しさに男に近寄り、子供を降ろした。

ミスズは自分が許せなかったのだろう…だから無数の手首の傷跡。


だからSMの世界に入った…自分を罰する為に。

罰を受け、許してもらう為に。


私は気づかず言ってしまった…それ位で許されると思ってるの?…。


ミスズの大きく見開いた目…忘れられない。


兄は焼香をし帰った。


書類には、磯野家は磯野ミスズに関し、一切の責任と財産と関係を放棄します…そんな内容だった。


キャサが嗚咽した。

私は立ちすくんだままだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る