第1話 幸せの終わり
俺の名前はヒマリ。
こんな名前だけどれっきとした男だ。
今は死んだ俺の母さんが、生まれた時の俺のマリーゴールドの髪をみて、「まるで陽だまりのようだわ〜!なんて可愛らしいのかしら!」と言って、ヒマリになったらしい。
ちなみに母さんは女の子を授かる事に憧れていたらしく、俺が男の子と知って当初はかなり幻滅した様だ。
だから女の子に未練タラタラ、名前だけでなく、俺が15歳になるまでは格好から何まで女の子のように育てられた。
もちろんその歳まで自分では男と気付くことも出来ずに、それを当たり前のように受け入れて過ごしてきた。
だけど15になったある時、村で唯一の幼馴染マリーに、「私は別にいいと思うけど、そろそろ男のコらしくしたら?世間的にはおかしいと思うわよ。」なんて言われたのが俺の目を覚まさせた。
病気がちだった母さんの前ではいつも通りの格好をして、家を出るときは働いてこっそり貯めたヘソクリで購入したカッコいいツナギ(いたって普通の作業用)を着て働いた。
村の人は何だかんだ空気をよんでくれて、母さんは死ぬまできっと、俺を女として育てきったと思っているはずだ。
母さんが死んだ今は、流石にもう女物の衣装こそ着ないけど、切るのがめんどくさい腰まで伸びた髪はそのまま、まとめるだけ。
可愛いものや綺麗なものは、なんだかんだと好きなので、今も集めたりもしている。
村でも綺麗と評判だった母さんに似た顔立ちのおかげで、全く知らない村の外の人にはお嬢さんと声をかけられる始末だ。
だけど別にそんな事はどうでもいい。
今更そんな事は気にもしないし、お母さんと暮らしてきたこの村で、思い出の畑を耕しながら、働きに出てる小さい商店で買いに来た村の連中と話をして過ごす一日。
そんな平凡でのどかな毎日。
それが俺の望む幸せだ、そしてこれからも。
まぁ、俺も男だから、、?
できれば将来は可愛いお嫁さんとかもらっちゃったりして、、なんて。
そして、そんな俺の住むここは、平和でのどかな田舎村。
小さい頃から遊び場と言えば、近くを流れる川だったり、木のみがたくさんなる森の中だったり、小洒落た物なんて何もない。ごくごく地味な町。
それが俺が住む町、ベルの村だ。
人口も大人子供合わせて100人程の小さな村。
そんなだから、小さい頃から遊ぶ友達だって限られてくる。
限られるというか、1人しか居ないんだけど。
それが今、俺の家で仕事の休憩がてら茶を飲みに来たマリーだ。
そう、俺の目を覚まさせた本人であり、幼馴染。
そして、俺の片思いの人。
「ヒマリ、お茶冷めちゃうわよ。せっかくだから、わたしが作ったクッキーも食べてよね、、って、ちょっと聞いてるの?」
「あ、あぁ、ごめん。聞いてる聞いてる。それじゃあ頂くよ。」
そう言われて、慌てて机の真ん中に置かれた小袋の中に手を突っ込んだ。
ボーッとしないでよね!と言って頬を膨らませるマリーを見て思う、、本当に可愛い。
金髪のロングヘアーにクリクリしつつ、少し生意気気味な猫目に映えるエメラルド色の大きな瞳。
いつも元気で、俺と同じ一人っ子なのに、しっかりとしていて村の人からも人気がある。
実はこの気持ちを恋と自覚したのは最近だ。
元々可愛いな、とは思っていたけど、そこまで意識した事はなかった。
ただ、この前死んだ俺の母さんの墓をマリーが掃除してるのを見かけて、その時に泣きながら手を合わせている姿をみてズキュンと来たんだ。
わ、分かってはいる、感性がちょっとおかしい事ぐらい。
墓で泣いてる女見て惚れてる事に気付くって、、俺が別のやつから聞いたならドン引きしたと思う。
だか、気づいてしまったものは仕方ない。
それ以来、マリーがこうして俺と一緒にいるたび、1人で意識してはチラチラ覗き見し、お嫁さんになったマリーを想像するという変態行為を脳内で繰り返しては怒られるという循環にはまってしまった。
ヒマリとマリー、、名前がたまたま似ていると言うだけで運命に思えてくるのは、俺の脳内恋愛観が母さんが集めていた白馬の王子系物語しか情報がないからだ。
脳内花畑がなんだっていうんだ。
袋の中に突っ込んだ指先に触れたのはゴツゴツとしたクッキーだった。
クッキーと言うのか、隕石と言うのか(本人には言わないけど)を一口かじってみる。
ーーガリッ。
「ど、どう?」
マリーが上目遣いで聞いてくる。
うん、やっぱり可愛い。でも、、、。
「うん、、、不味い。」
「や、やっぱりダメだったかぁ〜。」
そう言って頭を両手で抑えながら机に突っ伏したマリー。
マリーは壊滅的に料理が苦手だった。
切ったり、捌いたりする事は洗練された職人の様に上手かった。
でもそれ以降の過程が、もはや料理とは言えなかった。
「で、でも今日はいつもより美味い気がする!ほら、今日は歯でなんとか砕いて食べれるしさ!」
そう言って石の様に硬い自称クッキーに必死でかぶりつくのも惚れた弱みと言うやつだ。
「モグ、モグ、、、ガリッ、、痛っ。」
「だ、大丈夫?もう無理に食べてくれなくていいから!あ、ヒマリ、血が出てるよっ。」
ゴツゴツと尖った硬いクッキーを力任せに噛んだ反動で歯茎が切れて血が出た。
もはやここまでくると才能かもしれない。
「だ、大丈夫!それにこれぐらい直ぐに治るし!!」
そう言って差し出されたハンカチをそのまま返す。
本当はそのハンカチで口を押さえたかったとは、口が裂けても言えない。
いや、口は裂けたんだけど。
俺がズキズキ痛んだ場所をひと舐めすると、スッと痛みが消えていった。
そう、俺は人より回復能力が高いのだ。
とは言っても、こんな速度で治るのは小さな傷ぐらいだ。
大きな怪我ならそれ相応に時間がかかる。
まぁ、昔足の骨を折った時に全治2ヶ月と言われたのを1ヶ月かからずに完治させたんだけど。
丈夫とは言わないかもしれないけど、丈夫に産んでくれてありがとう母さん。
この世界には魔法やスキルと言ったものが存在する。
スキルは生まれ持ったモノが多く、魔法は素質のある者が厳しい鍛錬の果てに習得できると言われている。
だから、この村に魔法を使えるものは一人もいない。
この自己回復(小)と言うなんとも言えないスキルだか、スキル自体持っているのはこの村で俺だけだ。
ちょっと怪我が治りやすいってだけの棚ぼた程度の能力だけど。
噂で聞いた話だと、国の中心地にはすごい魔法使いや、スキル持ちがいるらしい。
まぁ、この先会うこともなく人生終わるんだろうから、そこまで気にした事はないけど、、、。
仕事に戻ると言って家を出て行くマリーを見送ってから、畑に野菜でも取りに行くか、、と失礼ながら、お口に優しいメニューを思い浮かべつつカゴを持った俺は行き慣れた畑に足を向けた。
ーーバリバリバリバリ、ドカーーン!ーー
とでも表現したら良いのだろうか?
言葉で表現するとしたらそうだ。
外に出ようと扉を開けた瞬間に、空一面に赤い稲光が走った。
そしてその後、光を追う様に地面が砕け割かれる様な轟音が鳴り響いた。
地面も実際に揺れていたかもしれない。
「な、な、な、な、なんなんだ!?」
恥ずかしくも腰を抜かした俺は、なんとか玄関扉に縋り付いて空を見上げた。
村を囲う様に立つ山のあちこちに、暗い空から赤い稲妻が落ちる。
落ちたところから火が上がり、みるみるうちにその火は広がっていった。
「ヒマリ!逃げるんだ、行くぞ!」
マリーの父さんと母さんが、マリーを連れてこっちに走ってきた。
伸ばされたその手を掴んで、俺たちは同じように逃げる村人と一緒に、緊急用の避難洞窟に逃げ込んだ。
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