第4話 よく分からないまま覚醒、そして行動開始


“1万年の時間経過、及び同等のスキル使用負荷(死亡を含む)により、スキルがスキル上限を突破し、神域に至りました。現時点をもって、スキル:自己回復(小)がスキル:瞬間自己再生(極)へとスキルアップします。”


「へ?」

 俺の視界に金色の文字が浮かび上がってきたと思ったら、訳も分からないうちに身体の内からとてつもない衝撃がやってきた。



「うわぁぁぁぁっ!」


 はっ、はっ、はっ、はっ、、、。

 弾け飛んで、し、死ぬかと思った。


 ……てか、なんだったんださっきのは?

 スキルがどうのこうの書いてたけど、、。

 はっきり言って消えるのが早い。

 内容を脳が読み込む前に、今に至ってしまった。

 結局意味が分からない。


 全裸で立ち尽くす俺。


 ただ、よくは分からないけど嬉しい事に、あれだけ辛かった目眩も痛みも怠さも感じない。

 いや、嘘です。

 ほんとはちょっとだけ目が回る様な気がするし、身体も痛怠い気はする。

 でも今までに比べればなんてない痛みだ。



 という事で俺は結局、深く考えるのを辞めた。


 どうすれば良いのか、ここが何処なのかも分からない(後から考えると馬鹿な)俺は、もしかしたら身体も楽になったし、しばらくするとここから出られるんじゃないか?なんて淡い期待を持ち、久しぶりに心穏やかなひと時(ここに来て以来の)を過ごしていた。

 気絶でない入眠がこんなにも幸せだなんて、ここに来るまでの俺はなんて贅沢だったのだろう、、と思えるほど、俺は昼か分からない昼寝を満喫した。

 でも、それもどれぐらい経つんだろう、、。

 体感と言って良いのかは分からないけど、だいぶ経ったと、、思う。


 移動、、した方がいいんじゃ、、?



 思うと、俺の目の前に出口が現れる可能性が低い事に、今更ながら気づいてしまった。

 普通に考えれば、自分から出口に行かないと出れるわけがないんだ。

 身体的な苦痛が消えた事が幸せすぎて、俺は少々ボケていたのかもしれない。

 と言うか、そもそも出口はあるのか、、?

 いや、、そんな事は考えない様にしよう。


 それに、ここに来てからあの化け犬以外目にしてなかったけど、アイツら3人もここに落ちて来たはずだ。

 俺と同じ様にもしかしたら、、もしかしたら生きているかもしれない。

 それに、ここに来れたって事は、他にも人がいる可能性だってあるんだ。

 よし、行ってみよう、、。

 贅沢な話かもしれないが、出来れば服も欲しい。

 もし外に出れたとしてもこれじゃ、別の意味で人生が終わりそうだもんな。


 そんなこんなで、あられもない姿で歩き続ける事、不明時間。

 でもこれもまた結構な距離を移動した様には思う。

 なんせこの空間、グニャグニャしてて奥行きも分かんないし。

 景色が同じだから進んだ感覚が殆どないのだ。


 だけど、大丈夫。

 実を言うと、俺は昔からコツコツと何かを続ける事が得意だった。

 そう、おんなじ事をひたすらやり続ける事をあまり苦に思わないタイプだったんだ。


 ーー思い返せば6歳の頃、、草むらをマリーと走っていて、気付いたら服に大量のひっつき豆が付いていた事があった。

 手で払うだけじゃ取れず、水でも流せないその豆は、細長く1本1本が棘の様になっていて、手で服から取るしかない。

 この豆は1つ1つが小さい上、1つの実に数千個もの豆が入っていて、それが服なんかに擦れる事で弾けて豆が飛び散る。気付いた時には服に万を超える数の豆がついてたなんて事は良くある話だ。

 そうなったら普通は服を捨てるしかない。

 でも俺は、それを7日かけて取った。


 お気に入りのワンピースだったって事もあるけど、1つ1つ手で取っていくその地味な作業が俺は楽しかったんだ。

 あの時の豆取りに没頭した俺をみるマリーの目は、今思えばかなり冷たいものだったな、、なんて思い出す。


 1人が暇すぎてそんな事を思い出していたけど、なにせ俺は景色が変わらないぐらいじゃ、めげない。

 どうせ今更だ、1歩1歩歩いた先に景色が変わると信じて、その時を楽しみに今はひたすら歩くだけだ。



 それからまた少し歩いた時、俺の望んだ光景が現れた。

 最初は空間の景色と混ざって分かりづらかたけど、近づいてみるとハッキリと分かった。


「や、やったぁ。なんか落ちてる!」

 嬉しさのあまり俺は走った。


 でもそれが倒れた人だと分かると、俺は足を止めてしまった。

 なぜなら、それはーー俺が全裸だからだ。


 いや、全裸がなんだ!

 今はそんな事を言ってる場合じゃないだろ。

 で、でもあの人が女性だったら、、?

 目を覚まして目の前に映ったものが、女っぽいとは言え、全裸の男だったらどうだろうか?

 俺なら、、怖い。てか、キモい。

 いや、でもだ、、今は、それどころじゃない。

 やっと会えた狼以外の貴重な存在だ。

 ここでミスミス逃すほど、俺は馬鹿じゃない。

 事情を話せばなんとかなる筈だ、、そう信じよう。

 俺はそこそこ悩んだとはいえ、ようやく決心をつけてあゆみ寄った。

 一応気持ち程度に手で股間を覆って、切るのがめんどくさくて伸ばしていた髪の毛をこれでもかと前に手繰り寄せてから声をかけた。


「あ、あの!大丈夫ですか?もし大丈夫な、、、ら、、。」


 全部言い終わる前に俺はその、、人だったであろう物の隣に座り込んだ。

 死体やら比較的グロテスクそうな、なんにせよ怖そうな物が苦手な俺が腰を抜かさずに済んだのも、もうそれが骨の形すらほとんど残っていない服だけの状態だったからだ。

 やっぱり、ダメだったか、、、。

 少しだけあった淡い期待が消えて、また心が折れそうになる。


 いや、こんな最初からへこたれていてどうするんだ。

 今回は手遅れだったけど、希望が消えたわけじゃないだろ。


 俺はその砂になった死体に手を合わせてから、一気に気持ちを切り替えてその服に手を伸ばした。


 いや、そうするでしょ?

 こんな状態だし?

 もう死んでるから、この人には必要ない物だし?


 誰も居ないから、責められることもないんだけど、自分の行為を正当化しようと、俺は服の汚れをはたき落としながらひたすら

「しょうがない」と言い続けた。



 ある意味、念願の服をゲットした俺は、この人が身につけていたポーチを漁っていた。

 勿論、これも“しょうがない”事だ。


 ん、なんだこれ?

 漁っていたポシェットから小型の剣と古びた日記帳が出てきた。


 こんな他人のプライバシーを除くなんてこと、本当ならしない。

 そう、本当ならしないんだ。

 でも?今は?そう、、しょうがない。

 何かここから出る情報が書き込まれてるかもしれないんだ。

 今は少しでも、そうだ情報が欲しい。

 俺はすみません、と言ってからそのノートを開いた。


 ぶっちゃけ、中身は殆ど読めなかった。

 でも、唯一読めた部分に俺のこれからを左右すると言っても過言ではない事が書かれていた。


 そのページの書き出しはこうだ。


 ーーこれを開いたであろう見知らぬ君へ。


 あ、この人すごいポエミーだ。

 嫌いじゃないよ、俺は。

 むしろそういうのは好きだ。


 まただけど、ーー思い返せば10歳の頃、お姫様に見立てて摘んだ野花で詩を書いた事を思い出す。

 1枚花びらが取れたその花が、なんだか幼いながら儚くも可憐なお姫様の様に見えたんだよなぁ……って、今は続きを読もう。


 ーー君がこれを読んでいるという事は、私はもう既にこの世にはいないんだろう。


 あ、なんか良く本でみたフレーズだな。


 ーーそして、そんな君はきっと、自分ではどうすることもできない状況に陥っているのではないだろうか?


 な、なんでわかったんだ?

 もしかして、、これはいきなりきたんじゃないのか?!

 俺はその書かれた言葉に期待でいっぱいになる。


 ーーそんな君に、絶望と一握りの希望と、私の思いを託そう。


 託すもの多っ!!

 てか、希望一握りしかないのかよ!?

 すみませんが、この状況であなたの思いまで受け取れる自信がないわぁ。

 なんて突っ込みながらも、その一握りの希望を掴み取るべく、俺は日記を読んだ。


 ーー私はとある村のしがない武器職人だった。

 妻と2人、裕福ではないが幸せに暮らしていた。

 ある日、そんな私の幸せを、ーー妻を奪ったのは赤い雷を纏う漆黒の狼だった。

 突如現れたその狼は、みるみるうち村を壊滅させ、妻や村の人達を殺した。

 運良く助けられた私が気付いた時には、もう何一つ残ってはいなかった。

 私は復讐を決意した。

 それしか、今の私には残っていなかったからだ。

 そして私はその狼の事を調べ上げた。


 狼の名前は「アマカゲル」。

 赤い雷を纏い、時間と空間を司った黒狼の魔神獣だ。

 この世界で最強最悪と称される“魔王”の称号を与えられたモノの一角らしい。

 全てを燃やして灰にする赤雷を放ち、現世とは異次元の空間を行き来する能力を持っているらしい。

 その空間に繋がる次元の歪みは、アマカゲルの出現と共に稀に現れると言われていて、そこから帰った者は、いないとされている。

 調べれば調べるほど、私にはどうしようもないものだと思えたが、しかし、古い伝承を記した本の中に、希望を示す一文が記されていた。

 〜この世の理から外れた次元の中でヤツを討つべし〜

 なぜこの様な事が記されていたのかは分からない。

 だが私にやはり復讐しかない、そう思い私はこの一文に全てをかけた。

 たとえ僅かなダメージでもいい、私が奪われた悲しみを奴に与えてやりたい。

 それだけを胸に、私はコイツと戦う事を決意した。


 それから私は、雷に有効的な大地の力が込められた武器を作り上げた。

 雷では決して破壊される事がなく、時間がどれだけ経とうが決して朽ちることのない、大地の力を宿した剣だ。


 それから数10年後、旅をしながら私はようやく、気まぐれに現れると言われるヤツの変わらぬ姿を見た。

 奴が空に向かって鳴いた後、赤い稲妻が降り注ぐ中、私は空間の歪みを見つけ、なんとか飛び込んだ。


 だが、飛び込んだ先は想像を絶する世界だった。

 私が唯一使えた全身を空間ごと遮断する結界魔法を発動して、何とか生きていられると言った程だ。


 見渡したところ、ヤツの姿は見当たらない。

 私の魔力では、もう直にこの魔法も切れてしまうだろう。

 そうすれば私は、この時間の狂った世界で身体がついていけず、すぐに死んでしまうのだろう。


 だがその前に、もしここまでたどり着いた者がいるのならば、そしてこの日記を開いてくれたのならば、その者に伝えたい。


 ーー諦めろ。

 ここから出る事は出来ない。

 たが、諦めるな。

 もしヤツをここで倒す事が出来たのならば、きっとここから出る事が出来るだろう。


 そして、出来る事なら私の作った剣を持って行って欲しい。

 少しのダメージを与える事しかできないだろうが、、少しでもダメージはダメージだ。

 今の君が無理でも、また新しい者が、そしてその次の新しい者が、少しづつでもその剣で奴を切ったならば、、、最後の一人はあの光溢れる世界に帰れるかもしれない。


 あぁ、ロザンヌ、、もう直ぐ君の元へ行くよ。

 愛している。

 インスゥッタィトル

 そこで日記は途切れていた、、、。



 ちょっと待ってほしい。

 こんな時は、、、どうすれば良いんだ?

 今の俺の心情を表すなら、、無だ。


 ちょっと待てよ、何が一握りの希望だよ!

 1粒もなくない?

 ねえ?これ1粒もなくない?


 ぶっちゃけここに来てずっと痛くて泣いてたけど、こんな平常心で泣けたのは初めてだよ。

 やめてくれよ、俺は今まで平凡に村で暮らしてただけの人間なんだぞ。


 ……それになんだよこの人の名前!

 何て発音すればいいんだよ?!?

 インス……インスゥ……タ、もういいわ!


 本当にやめてよ、、こんな状況に直ぐに順応出来るほど、俺には出来上がった精神力なんてないんだ。


 ……本当に勘弁してくれよ。



 そこで俺は、あまりの虚しさにありもしない天を仰ぎ見た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る