第3話 繰り返す絶望


 ーーバリバリバリバリ、ドカーーン!ーー


 そうだ、この前も思ったけど、言葉で表せばまさにその音だ。


 俺がこれでもかと、腹筋に力を入れて叫んだ言葉に重なって、できれば二度と聞きたくないと思っていた音が鳴り響いた。


「……な、、、、。」


 予想だにしていない状況に、流石に4人とも固まってしまった。

 その間にも元々淀んでいた空はさらに暗く陰り、見覚えのある赤い雷光が頭上を走り回った。


「カッちゃん、これ、ヤバくないか?」

「あ、あぁ、、。」


 俺は空を見上げて固まったままの、背後にいる兵士の腕を思いっきり振りほどいた。

 完全にあっちに気を取られてたらしく、あれだけ暴れても外れなかった腕は思いのほか簡単に外れた。


「あ、しまった!!」


 ざまあみろ!ーーと言ってけなしてやりたい所だけど、そんな事してる暇はない。

 マリーが危ない。


「待ってろ、マリー!皆んな!」

 早く避難させてやらないと、、。

 何ができる訳でもないけど、きっと盾になってやる事ぐらいはできるだろう。

 意外と近くに落ちてくる赤雷に動揺しつつも、そのおかげで明るくなった獣道を走り抜ける。


「待ちやがれー!!」

「どこにいく気だ!」

 後ろからアイツらの声がした。

 もう、しつこいな!

 どこに行くって、そんなの決まってるだろう!


 ちょいちょい飛んでくる罵声に流石に腹が立ってきて、後ろを向いてから中指を上に立てる。


 それを見て後ろから、調子に乗んな!と騒ぐ3人。

 俺ってこんな性格だったっけ?


 前に振り返ると、俺の数m前にあった大きな岩に赤い雷が落ちた。


「うわぁっっ!!」

 俺はその衝撃で後ろに吹っ飛ばされる。

「いっ、、てぇ、、。」

 打ち付けた頭がズキズキする。

 触って確認すると、やっぱり切れてるようで手にべっとりと血がついた。


「だ、大丈夫か!」

 まさかの後ろを走っていた3人が、倒れこむ俺の元に駆け寄って頭に布を当ててくれる。


 そ、そんな事をしても、俺は許さないんだからな!


 ズキズキ痛む頭でそんな事を考えた時、

 ーーバリバリバリバリッ。


 木の裂けるような大きな音と、細い幾多もの赤雷が岩を中心に走り出した。

 そして、その岩の上部が赤白く発光しだす。

 それはみるみるハッキリと形を変えて、巨大な漆黒の狼が姿を現した。



「なっ、、、。」

 もう、言葉とか出てこない。

 その狼は身体中に赤い雷を纏い、雷と同じ真紅の目で俺達を睨んだ。


「ア、、、アマカゲル。な、なんでこんな所に、、。」

 俺を支えながら、カールが震える声で言った。


 ……アマカゲル?

 アイツの名前か?

 正直頭が痛すぎて、だんだんと物事が考えられなくなってきていてる。

 と言うか、この状況だけど気を抜けばもう意識が飛びそうだ。


「お前ら!逃げるぞ!」

 そう言うとカールは俺を抱えたまま、引き返すように走り出した。

 それに残りの2人も続く。


「な、なんでかつてこの世界を滅ぼしかけた伝説の魔王の一角がここに出るんだよ!!おかしいだろ!」

 ぶっちゃけ、意識が飛びかけていた俺には所々でしか聞き取れなかったけど、走りながらそんな事をカールが言っていた気がする。


 そんな、やつなのか……。

 それはヤバイな、、だとしたら。

 ーー俺は、置いて言ってくれ。これじゃ、盾にもなれない。

 言いたくはないけど、そんな事をコイツらに言おうとした、時だった。


 アオーーン!

 と狼特有の鳴き声が聞こえて、俺達の目の前に一際大きな落雷が落ちた。


 一瞬で砕かれる足元の地面。

 地割れした大きな隙間に落ちていく俺達4人。


 この時、最後に俺が見たのは割れた地面の暗い底。

 空間に見たこともないような、悍ましい空間の裂け目があったと言う事だけだ。






 ……ここは、、、どこだ?

 俺は、助かったのか?

 アイツらはどうなった?

 ……マリー。



 俺は、気を失っていたのか、、?

 痛い、全身が痛い。

 雷で焼かれたからか?

 目も開けられない、、。



 まだ、、、生きてる、、、。

 痛い……気持ちが悪い、、。

 吐きたいけど吐くものがない。

 もう嫌だ、痛い、早く、死なせてくれ、、。



 もう、何回目だろう、、。

 ……ま、まだ生きてる、のか?

 痛みで何回も目がさめる、様な気がする。

 いっそ、一思いに死なせてくれ。



 また、頭が覚醒したな、、、。

 少し寝たからか、目が、開けそうだ。

 うぇっ、気持ち悪い。

 なんなんだ、この空間は、、、。



 ……あれは、アイツは、、、。

 目が覚めて見えたボヤけた視界の隅に、二度と見たくないと思ったヤツの姿が見えた。

 そいつがアオーーンと鳴いて消えたのを見てまた意識が遠のいた。



 まだ、生きてた、、、。

 あれからどれぐらいだったんだ?

 寝ては起きてる感覚がずっと続いて頭がおかしくなりそうだ。



 起きた時に、あまりにも痛い手をなんとか動かして見て後悔した。

 骨が砕けるような痛みと共に手が赤子の様に縮んでいく。

「あ、あ゛、、。」

 あまりの衝撃に、出ない声を久し振りに出した。



 次に気付いた時には、手が老人の様にシワシワになり、肌が溶けていった。

 また、俺は出ない悲鳴をあげて気を失ったと思う……。



 痛みは変わらない。

 目眩で吐き気も治らない。

 早く、気を、失ってしまいたい。

 今日も、赤い稲光が綺麗だ……。



 俺は、生きてるんだろうか?

 それとも、死んでるんだろうか?

 生きてるなら、死なせてくれ。



 今回は足が痛い。

 きっと見るも無残な事になっているんだろうな。


 母さん、マリー、、会いたいよ。




 そして、自分でも、もぅ何も分からなくなるほど、そんな事を繰り返し続けたある時、突然の体の変化と共に、目の前に金色の文字が浮かび上がったんだ。



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