第10話 本題

「他にも聞きたい事はあるでしょうけど、私の事はぼちぼち知っていってくれれば良いから。」


 そう言うとアスレスは机に置いていた指輪を片付けて、今度は一冊の分厚い本を出してきた。


 俺はの家に置いてあった本と比べると、大きさも古さも段違いだ。

 一体何をするんだろう?

 それにしてもこの家は本当に見たことない物で溢れている。

 ついつい目移りするけど、俺は本開いて何かを書き込むアスレスの様子を黙って見ていた。


「おまたせ。それじゃあ、ここからが本題。」

 アスレスはそのピンクの瞳で俺を見つめる。

「まず私が、ヒマリがあそこにくる事を知っていた理由は、クルギの木がこの国に伸ばした根や枝からそれを見ていたから。なぜ今日なのか分かったのは、元々不安定になっていたアマカゲルの魔力が明け方急に消えたから。」


「な、成る程、、。」


「そして、なぜヒマリをここに連れてきたのかと言うと、誰も知らない異次元空間あちら側での出来事を聞いて、それを記録したかったから。この世界から一体の魔王が消えると言う事は、貴方が思っている以上に大きい。それに、この事に気付いているのは私だけで無いはず。他の魔王も気付いているだろうし、いずれ全ての者に認知される。そうなれば、貴方は確実に他の魔王から標的にされ、その命を狙われるでしょうね。人間も同じ、、バレて勇者として崇められるにしろ、この世の新たな脅威として捉えられるにせよ、この先ヒマリに自由など有りはしない。だって、貴方は最強と言われた魔王の一角を討ち取ったのだから。」


「・・・・。」


「ヒマリ?聞いてる?」


 はい、聞いてるよ、聞いてますよ。

 それでも、ちょっと、いや…かなり、、、待ってほしい。

 そりゃ、アマカゲルを倒したのは確かに俺だし、それがものすごい事なんだって事は分かる。

 でもさ、それって偶然がたまたま重なってそうなったような様なものだし、俺はただあそこから出たかっただけだ。

 なのに、ようやく出れたと思ったら、他の魔王に命を狙われる?

 俺の自由はない?

 そんなの、、あんまりじゃないか?!

 いや、酷すぎる!


「そんなの、酷すぎる!」

 そう口にすると俺はまた泣けてくる。

「ヒ、ヒマリ?」

「俺は只々あそこから出たかっただけなんだ!それなのに、ようやく出れたと思ったら、、こんなの、、酷すぎるよ。」


 男のくせに大声で泣き出した俺に多分アスレスは驚いているだろうが、そんなの関係ない。

 泣くときは誰でも泣くんだ。


「ヒマリ、落ち着いて。大丈夫。」

「何が大丈夫なんだよ!」

 完全に八つ当たりだけど、今の俺にそれを気にする気持ちの余裕はない。

「ヒマリにどんな事があったのかは今の私には分からないわ。でも、そんなヒマリの力にはなれる。もし、ヒマリが向こうでの事を話してくれるなら、世の中から貴方を隠してひっそりと暮らせるように私が手助けしてあげる。」


「……本当に、そんな事が出来るのか?」


「もちろん。こう見えて私は偉大な魔女なんだからね!」


 これでもかと言う程胸を張って、ついでに親指を立てて自信満々に言うアスレスを見て、俺はそれならーーと向こうでの事を話す決意をした。




「は?魔法が使えない?どう言う事?」



 アスレスにまず、異次元空間に飛ばされた経緯から話していた俺は、それからその空間の様子や感じた事なんかをそのままに話した。

 そして、動けるようになったものの、アマカゲルを倒さない限りそこから出る事が出来ない事を知り、戦いを決意した事を告げた。


「成る程ね、、。あの空間の裂け目の向こうはそんな風になっていたのね。興味深いわ。すごい、すごい事よ!」

 俺の話を聞いて鼻から息が漏れるほど興奮している様子のアスレス。


「それにしても、そんな異常な空間でよく身体が対応する事が出来たわね、、どうしてなのかしら、、、。」


 本に俺の知らない文字で何かを書き込みながら、アスレスがそう呟いたのが聞こえた俺は、あの時浮かんだ金色の文字の事を話そうと口を開いた。


「あ、その事なん」

「それでっ?!どうやってアマカゲルを倒したの?どんなすごい魔法でなら、あの魔王を倒せるの?早く教えて!」

 俺の話を遮るように、目をギラギラ輝かせながらアスレスが身を乗り出して、テーブル越しに迫ってくる。

 鼻から噴出される息が、、凄い。


「魔法を扱う者としては、そんな凄い魔法があるなら是非とも知りたいところなのよね!雷に聞くといえば土の魔法よね!岩石の様に体を硬化する魔法とか?!無限にゴーレムを作り出す魔法とか?!」

 それって、記録どうのじゃなくて、、完全にアスレスの興味の話だろ、、なんて思ったが残念ながらその期待に応えるものはない。


「あー、いや、それが、、、。」

「何よー、魔王を倒したほどの英雄のくせにもったいぶっちゃって〜!!このこの〜!!」

 ポカポカと俺の頭を殴る手が妙に鬱陶しい。

「申し訳ないんだけど、俺、魔法とか使えない……から。」

「……え?」



「……え?」

 束の間の沈黙の後、さっきの言葉が信じられないと言う様に、アスレスから2度目のえ?が飛んできた。

「だから、俺は魔法を使えない。てか、使い方も知らないし。」

 本当の事だからしょうがない。


「えっ?で、でも、魔王を倒したんだよね?」

「そ、そうだけど。」

「じゃ、じゃあどうやって……っは!もしかして、そのヒョロヒョロの体型じゃあ無いなぁ…と思ってたけど、もしかして凄い剣の使い手なの?実は有名な騎士の家系とか?!?」


 ヒョロヒョロの体型で悪かったな!

「……そうだったら嬉しいけど、それも違う。」

「は?魔法も剣技も無しに魔王に勝てる訳がないでしょ?ヒマリ、あんたふざけてるの?」

「ふざけてないよ!アスレスだって俺の話聞かないだろ?!」

「じゃあどうやって勝ったって言うのよ?言ってみなさいよ!」


 なんで俺がこんな言われ方しなくちゃならないんだ!と、俺もこの時は少しやっけになっていた。

 人はこれをヤケクソと言うんだろう。


「だから、アマカゲルの攻撃は俺には効かなかったから、拾った大地の力が込められてるって言う剣で8000年かけてコツコツと切って倒したんだよ!」

 言い切って次は俺がドヤ顔だ。

 どうだ?凄いだろう!!?


「……は?」


「だーから、俺の目の前にいきなり金色の文字が浮かんできたんだよ。そしたら体も楽になって、アマカゲルの攻撃も全然効かなくなったの。えっーと、なんだっけ?瞬、、あ、瞬間自己再生(極)とか言うスキルだ!」


 そう言った途端にアスレスが口を開けたまま固まった。

 え?俺なんか変なこと言ったか?


「アスレス?おーい!帰ってこーい。」

 俺が固まったアスレスの顔の前で手をひらひらさせると、アスレスは勢いよく椅子から立ち上がって叫んだ。



「え、え、ええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」


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