第11話 報い


「え、え、ええぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 な、な、なんなんだよ、、急に。

 色々叫び出したいのはこっちの方なのに。

「いきなりどうしたんだよ?魔女なんだから、本当はそれぐらい分かってたんじゃないの?俺が来ることも分かってたぐらいだし。」

「んな訳あるかぁーー!!」

 見てるこっちが痛くなりそうな程、机を思いっきり両手で叩いてアスレスはまた叫ぶ。

 ちょっと唾飛んできてるんだけど、、。

 てか、顔が怖い。


 ゼェゼェと肩を上下させながらも、アスレスは1度落ち着こうと咳払いをして席に着いた。


 ……な、なんか怒ってる?


「ごめんなさい、余りにもびっくりしすぎて取り乱しちゃったわ。……所で、さっき言ったこともう1度詳しく教えてくれる?」


「あ、う、うん。」


 俺はその文字の事、魔法の剣の事、アマカゲルとの戦いについてアスレスに話した。



「……って感じなんだけど。」

 言い終わるまで、アスレスは一言も喋る事なく俺の話を聞いていた。


「俄かには信じ難い話ね、、。でもヒマリが嘘をついているとも思えないし。」


「いや、嘘はついてないよ?」

 ここで嘘言ってどうするんだよ。


「分かってるわよ。……でも、それが本当なら、、思ったよりもまずいわね。」


 え゛っ?!

 思ったよりも、、不味いとは?

 そんなこと言われるとまた心が折れて泣きそうになる。


「まだ、ヒマリの話を整理した上で状況判断と分析が必要だから確実なことは言えないけれど、、そのスキルは私達の世界の理から外れたスキルになるわ。」

「……理から外れた?」

 うーん、言葉が難しすぎて、いまいち分からないなぁ。

「簡単言うと、ヒマリ、貴方はこの世界の魔法による損傷や物理的な攻撃、、それにおそらく時間による変化を一切受け付けない。」

「……と、言うと?」

「……多分、死なない。これは予想でしかないけど、おそらく細胞が一定ラインから変化した時点で瞬間的に細胞がある時期を基準に再生している。だから実際に死ぬほどの攻撃を受けても、強制的に体は修復される。このままだと、この世界が本当の意味で消滅して跡形も無くなくなるまで貴方はその姿のまま、今まで以上の時を過ごす事になる。まぁもしかすると、それまでに精神の方がやられて廃人になってるかもしれないけどね。」


「えっ、、、、ええぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 今度は流石に俺が叫んだ。

 ごめんなさい、流石に頭が真っ白になって、何も考えられない。

 てか、そんなこと知りたくなかった。

 そ、そんな、世界が終わるまで死ねないって、、ただの嫌がらせじゃねぇか!?

 何?恨みでも持たれてるの俺?

 精神だけ死んで廃人、、?!

 周りだけが年老いて死んで行くのをひたすら見送る人生?

 これじゃ、あそこにいた時と状況変わってなくない?

 こんなのある意味死刑宣告じゃん!!

 いや、むしろ程よく殺してぇ!


 そんなの嫌ダァァァァ!!!


「な、何とかならないの!?別に俺はこんなスキル要らないんですけど!」

 そうだ。

 俺は自分の村でただただ平和に暮らしたかっただけだ。


「残念だけど、今はなんとも言えないわ。」

「そ、そんな、、、。うっ、、。」

 俺は堪えきれずにまた泣いてしまった。


「ヒマリ、、約2000年前、まだ私が生まれる少し前の話よ。魔王の1人、邪竜イーシュヴァルブがこの大陸の東に位置するキリシア帝国に侵略した事があったの。そのせいでキリシア帝国は滅亡の危機に瀕した。最後の最後で異世界から召喚されたと言われる勇者によって、なんとか魔王を撃退し帝国は滅亡を免れたけど、その時の勇者はそこで死んだと言われているわ。」


 そ、そんな話が、、でもなぜその話を?

 と言うか、アスレス、、、俺が思ってたよりも年いってたんだな。


 アスレスはそのまま話を続ける。


「その勇者が持っていたと言われるスキルが自己回復(大)、貴方が昔持っていたもの上位互換のスキルよ。まぁ、勇者は魔法もバンバン使えた挙句、剣技も凄まじかったようだけど。」


 なんだよ、これは俺に対する皮肉か?

 悪かったな、魔法が使えなくって。

 俺は勇者じゃないからな。

 て言うか、励ましてくれるんじゃないの?


「でも死んだ。いくら凄い魔法が使えて、回復が早くても、その回復速度を超える魔王の攻撃に耐えられなかったのよ。魔王も痛手を負って引く事を選択せざるおえなかったみたいだけどね。」

「は、はぁ。」

 やっぱり俺の事慰めようとして、、。


「貴方のスキルは最強と言われる勇者や魔王のそれを完全に超越しているものよ。傷の回復ではなく、死そのものからの再生。もしそれを世間や魔王に知られれば、貴方はある意味、、、終わりね。」


 ありがと、、俺は終わり、、。

 って、、え?

 ……終わりね、って、、、。

 さっきの流れは俺を励まそうとしてくれてたんじゃないの?

 なんで、この人こんな真顔で傷ついた俺に追い打ちかけられるわけ?

 信じられないんだけど。

 てゆうか、本当に俺はどうしたら良いんだ?

 はぁ、やっとあそこから出れたと思ったのに、、。

 これじゃもうダメだ、、。

 俺には生きていく理由がない。

 もうなんなら世界の終わりとやらまで、廃人にするなり封印なりしてくれ。


 俺は涙を流しながら机に突っ伏した。

 ゴン!と机から鈍い音が鳴って額が一瞬痛いような気がした。


「ヒマリ、、、。」

「アスレス、、、。俺、、。」


「まぁまぁ、そんなおち込んだって仕方ないわ!時間はあるんだもの!ゆっくりその事については考えるなり調べましょ。、、そうだわ!何なら自分の村にでも帰って見たら?!」

 俺とは正反対にアスレスは明るく俺に提案した。

「え?自分の、、村?」

「そうよ!懐かしい場所や友達に会えば少しは元気になれると思う。」


 え?ちょっと待ってよ。

 友達?会えば?、、、会える、、の?


 その言葉で今までひたすら沈んでいた俺の心が初めて浮き始める。

 だってそれは、、、。


「え?ちょっと待ってくれ、今いつ?俺があっちいってからどれぐらい経ってるの?」

 これは1番聞きたくて聞けなかった事だった。

 向こうで2万年近い時が流れていたみたいだし、、。

 それは俺の望みでもあったけど、事実どこか諦めているところもあったんだ。

 もし本当に会えない程時間が流れていたとしたら、こんな話を聞いた後の今の俺じゃ立ち直れる自信がなかったし。


「今はルベリアス暦8055年。ヒマリが向こうに消えてから5年の月日が立ったわ!」


 ご、ご、ご、ご、

「5年?!!!?えっ!?」


「そうよ!5年。」

 う、嘘だろ?


「だ、だだだって俺は、、正確には分かんないけど、文字には18000年近く経過したって書いてたんだけど?、、もしそんなに立ってなくてもアレを5年っていうなら、、、、俺の時間に対する常識がそもそも間違ってたのか??」


 やっぱ俺の頭がおかしかったのか、、。


「それは、、流石に大丈夫だと思うけど、、。そもそも向こうはこちらの常識の通じない全く異次元の空間。時の流れ方が違ってもおかしくはないわ。それにヒマリの話から考えるとするなら、あちらの時間は戻ったり進んだりしている可能性があるわ。」


「進んだり、、戻ったり?」

 たしかに、、最初俺の体が急に縮んだり、年とったりしたけど。


「そう、時間の経過で言えば約2万年の時が過ぎていたとしても、それが巻き戻っていた時間も含まれていたっていう事。だから精神状態もこちらの5年分の負荷で過ごすことができたんだと思う。って言っても、それでも十分ヤバイんだけどね。」


 たしかに、普通に考えたらちょっとのめり込みやすい性格なだけで、約2万年も耐え切れるはずないもんな、、。


「でもスキルは関係なく、その時間の経過の中で純粋に進化を遂げた。推測としては、今はまだこれぐらいのものしかできないけどね。」


「す、すごいよ!アスレスその推測!天才なんじゃない?!」

「やだぁ〜!今更気づいたわけ?もっと褒めても良いのよ!」

「イェーイ!天才!天才!天才!」

「ウフフ、悪くないわぁ〜〜!!」

「天才!天才!天才!」

「もっと褒めなさーい!」



 俺は嬉しさのあまり歌った。

 その時はアスレスのこれでもかと破壊的に外れた音なんて全く気にならないほど、俺はその歌に合わせて踊った。


 ……良かった。

 俺の足掻きは無駄じゃなかった。

 ようやく皆んなに会えるかもしれない。

 マリーに会って、あの時言えなかった気持ちを伝えられる!!


 そう思うと、初めて俺は自分が報われた気がした。

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