第12話 帰郷
嬉しさを体現した謎の自作のダンスを踊り終えた俺は、善は急げとアスレスに詰め寄った。
「そうと分かったら俺、早く村に戻りたいんだけど!」
見るとアスレスは踊り疲れたのか、少し疲れた様子で、椅子に座ってくったりとしていた。
……って言うか、そう言えばあの時第2都市のホールスミスに向かってたんだっけ、、。
皆んなは?そう言えば無事なのか?
皆んなに会えるかも!と言う喜びで忘れていたけど、そもそも俺達は魔物から逃げるために村を出る事になったんだった。
しかもあの時アマカゲルも近くにいたし、、。
そう思い出せば今度は皆んなが心配でならない。
「アスレス!そう言えば、皆んなは村に居ないかもしれないんだよ。俺達第2都市に向かってる途中だったしさ。」
ふう〜、とため息をついているアスレスの肩を持って俺は力任せに揺さぶった。
はっ!!
そう言えば、、マリーは、、無事なのか?
もし、あの後逃げ切っていたとしても、俺が居ない分兵役を課せられたんじゃないか?
それならすぐに俺が変わってやらないと!
1度考えだすと妄想と言うか、想像と言うか、、止まらないのが俺の良い所でもあり、悪い所でもある。
「ちょ〜、落ち着いて、落ち着いてぇヒマリ!」
しまった、ついカッとなって揺さぶりすぎた。
アスレスが俺の前で目をくるくると回している。
「ご、ごめんアスレス。」
アスレスはボサボサになった髪を手でとかしながら、俺に席に座るように促した。
「ヒマリの嬉しい気持ちも、はやる気持ちも分かるけど、貴方、自分の事を忘れたらダメだよ!バレると殺さ、、れることはないけど、永遠に封印されるか、モルモットの様に研究漬けにされるか、犬みたいに国に飼われ続ける事になるかもしれないんだからね!」
はっ……!
そうだった、、俺はバレるとマズイんだった。
……完全に忘れてた。
「忘れてたわね?」
「す、すいません。」
「まぁいいわ!それぐらい図太くないと魔王になんて勝てないわよね。」
いや、あんまり関係ない、、事もないのか?
「せめて今日1日待ってくれない?いざという時のために、スキルがバレない様に魔道具を作ってあげる。それからもう少し話も聞きたいし、それを出来るだけ早く記録に残したいの。焦る気持ちは分かるけど、今日はお風呂に浸かってゆっくり休んで。」
「で、でも、、。」
アスレスには初対面の俺にこんなに親切にしてもらって本当に感謝してる、、。
でも皆んなが、マリーが心配で仕方ない。
「ヒマリ、、安心して、、とは言えないけど、ここ2年程で魔物の出現や侵略に対して、国としても体制が整ってきたの。兵の補充や戦闘員の底上げがうまくいって、避難していた人達も村に戻っている所が多い。ヒマリの村の人も戻っている可能性が高いわ!」
そうだったのか!
よかったぁ。
「とは言っても、アマカゲルが死んだ事によって他の魔王とのバランスが崩れたことは確か、、。これから先、他の魔王がどう動くのかわからないし、最近不穏な影もある。でもそれは、今悩んだってしょうがない事でしょ?」
「た、たしかに、、。」
「だから、今日1日待って。分かった?」
そうだよな、、気持ちばかり焦ったってしょうがないし。
「分かった。わがまま言ってごめん。、、、これで、やっと、やっとマリーに会える。」
「え〜、なによヒマリ!彼女がいたの?可愛い顔してちゃっかりやるじゃない!のこマセガキ!」
「俺はガキじゃないし、、。それにマ、マリーは彼女なんかじゃ、、。」
「ふふふ、男の子ね。じゃあ片思い?いいじゃないーー!!私そういうの大好きよ!男なら当たって砕けるぐらいじゃないとね。はぁー、そんな時代が懐かしいわぁ。」
アスレスからしたら俺は子供みたいなものなんだろうけど、あまり子供扱いはしないでほしい所だ。
それにしても、昔マルク兄ちゃんの恋話を聞いたりしたことはあったけど、いざ自分のそう言った話になればどう反応していいのか困ってしまう。
正直なんだか恥ずかしい、、。
俺はアスレスから逃げる様にその場を離れた。
「うわぁぁぁぁぁああああああ!!!」
そんな俺の悲鳴を聞いてアスレスが浴室に駆け込んできたのはついさっきの事。
「ど、どうしたのよヒマリ?!大丈夫?!びっくりするじゃない!」
勢いよく開けられた扉と、モクモクと立つ湯気の向こうにいるアスレスとバッチリ目があって俺はまた叫び声を上げる。
「ぎゃぁぁぁぁぁあ!ちょ、ちょ、ちょ、何普通に入って来てるんだよ?!」
あんまりにも普通に入ってくるから、俺は持っていたタオルで慌てて股間を押さえる。
「何よ今更照れる事なんてないでしょ。……あ、大丈夫よ、私はヒマリのそんな小っさ、、裸なんて見ても何も思わないから!そもそも、ヒマリが大声で叫ぶのが悪いんでしょ?」
今、小っさいって言おうとしたな?
そんな事ないし!
俺は至って標準だ!標準な、、筈だ。
……って今はそうじゃない、、、!!
「しょうがないだろ?だってヤバいよ!俺はこんな小さくなかったし!」
「はいはい、そんな照れなくても大丈夫!最初に会った時に既にバッチリ見えてたから!こういうのはね、個人差が大きいのよ?それにそこの大きさで、、、」
「そ、その話はもういいよ!!!」
俺は1人で突っ走って、多分俺の下半身を慰めてくれてるのであろうアスレスの言葉を止めに入る。
「そ、そう?」
「うん、。って、そうじゃなくて、、、俺、、身体が全体的にちっさくなってる、、、。」
「……え?」
風呂から上がった俺は、やっぱりその現実が信じられなくて、アスレスの家にあった全身鏡をのぞきこんだ。
「な、なんで?嘘だろ?」
水分の落ち切っていない頬に手を当てて、覗き込んだ顔をスリスリとさすってみる。
向こうに行く前が17歳、でもどう見ても前よりも顔がおぼこい。
13.4歳って所だ。
え?そんなに変わらないって?
いやいや、いざ鏡で見たら全然違うよ!
女であるアスレスの背が高いと感じたのは、俺の方が縮んでいたからだったみたいだ。
俺のここ数年の成長期を舐めてはいけない。
「こ、こんな事って、、、。」
これじゃマリーに会った時にどうするんだよ?
俺はまた鏡に映る自分の姿を見て涙が溢れて来た。
「まぁ、まぁ。スキルによるものなのか、向こうの異次元空間での影響によるものなのかは分からないけど、今はどうする事も出来ないわ。様子を見ながら、それも調べていきましょ。さ、今日はもう寝て。」
「アスレス〜〜。」
やっと戻ってこれても、女の人に裸を見られるやら、他の魔王に狙われるやら、このまま死ねないかもしれないやら、挙げ句の果てには身体も若干縮んでるとは。
もう、、、なんだか、、全部どうでもよくなって来た。
明日には皆んなに、マリーに会える。
唯一俺の心を救ったその事実だけを胸に、殆どの事を現実逃避する事にした俺は、アスレスに渡された毛布に頭までスッポリと潜り込んだ。
「ありがとうアスレス。」
アスレスから小さなベルと腕輪を受け取った俺は、自分の村の近くにあった大きなリクの木の下で、改めてお礼を言った。
「いいえ、こちらこそ。その腕輪には魔物に気づかれにくくする魔法がかけてあるの。それから私の家を頭の中に思い描いて、そのベルを鳴らしてから10秒以内に水辺に飛び込めば私の家にこれるように魔法がかけてあるから。また何か困った事があったら、タダとは言えないけど、ヒマリの力になるからいつでも頼って。」
“村に帰らず、私の元で働かない?その方が安全にヒマリも暮らせると思うわよ。”と誘ってくれたアスレスには申し訳ないけど、俺は(多分)待っている人達の元に帰る事に決めている。
そんな俺を尊重してくれて、ここまでしてくれたアスレスには本当に感謝だ。
「本当にありがとう。また落ち着いたら、少し時間はかかるかもしれないけど、早めにお礼に行くよ。」
そう言うとアスレスはニコリと笑った。
「じゃあ!」
俺はアスレスに背中を向けて、小さい頃何回も通った道を村に向かって歩き始めた。
皆んな、マリー!俺、やっと帰ってきたよ!!
俺は大股に、村への道を早歩きで進んだ。
そんな俺の背中を、悪魔のような笑みを浮かべて見るアスレスに気づきもしないで、、、。
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