第13話 決意
何百回も歩き慣れた道を、こんな気持ちで歩く日が来るなんて。
俺は皆んなに会いたい、もうすぐ会えるという溢れんばかりの気持ちで、村につながる最後の坂道を走り抜けた。
そして坂を越え村が見えると、あれは魔物避けなのだろうか、、かつて村の入り口だった場所から村を囲うように、背の高い木で組まれた外壁が作られていた。
簡素な門の前には2人、槍を握った門番らしき人影が見える。
目を凝らして見ると、それがよく知った村の仲間だとすぐに分かった。
「ま、マルク兄〜ちゃ〜ん!!!」
俺は叫びながら、門に向かって走った。
最初は何事だ?!と俺に一瞬槍を向けた2人も、俺の姿を見てすぐに分かってくれたのだろう。
手に持っていた槍をほり出して、俺の方に走ってきた。
「も、も、もしかしてヒマリか?!!」
「うわぁぁぁぁん。」
既に走りながら泣いていた俺は、そのままマルク兄ちゃんの胸の中に飛び込んだ。
「ほ、本当にヒマリなのか?!よく帰ってきたなぁ!!!」
もう1人のおじさんは慌てて村の中に走っていった。
「辛かったよぉ〜、、、。」
そんな俺の頭をよしよしとマルク兄ちゃんが撫でてくれる。
元々1人っ子で甘やかされた俺にはこれぐらい普通のコミュニケーションだ。
てか、兄ちゃんもちょっと泣いてるんじゃないか?
「ヒマリお前、今までどうしてたんだよ?!あの日いきなりお前が居なくなって、雷も近くに落ちてくるわで、本当に皆んな心配したんだぞ?!」
「ごめん、、、ぐずっ、ごめん。」
アスレスとの約束もあったから、皆んなにも本当の事は言えない。
「それにしても、、お前ちょっとちっさくなってないか?」
「ま、まぁ、色々あって、、。」
突っ込まれるとは思っていたけど、なかなか良い感じの言い訳が思いつかず、目が覚めて気付けばこんなになっていたと俺は適当な事を言ってごまかした。
その後、続々と村の人達が集まってきて、皆んなが俺の帰村を心から喜んでくれた。
皆んな気にはなったみたいだけど、小さくなっている事や、5年もの間いなくなった理由を深くは聞いてこなかった。
帰ってきてくれたならそれで十分だと、そう言ってくれる皆んなの言葉に俺は帰ってからずっと泣いていた。
マルク兄ちゃんの家に通されて、あれから色々あったことを話してもらった。
と言っても、兄ちゃんが突然話し始めたんだけど。
あの後、雷に気づいた皆んなは、必死で走って第2都市になんとか逃げ伸びたこと。
村人の8割は半年前に村に帰ってこれたこと。
残りの2割は今もホールスミスで、兵役などの仕事についていること。
向こうにいる時に学んだ戦闘訓練のお陰で、何とか此処でも生活を立て直して行けていること。
第2都市は可愛い子が沢山いたこと。
結婚願望がかなり高くなったこと。
村の若者を代表して村長になったこと。
若干、どうでも良い話が混ざっていたけど、皆んな何とかやってきたんだと内心ホッとした。
これから俺も、村復興をうんと手伝おう。
村は簡易的に家が建てられているだけで、まだまだ沢山やる事がありそうだったし、畑も昔に比べれば整っているとは言えなかった。
今まで心配をかけた分、しっかりしないと、、。
そんな事を考えつつ、さっきから、、というか村に着いてからずっと気になっていた事を俺はついにマルク兄ちゃんに聞いてみた。
「ねぇ、マルク兄ちゃん、、、マリーはどこにいるの?もしかして、、お使い?それともホールスミスの方にいるの?」
村に着いてから、ずっと思っていた事だ。
マリーの姿が見えない。
マリーならすぐに飛んで来てくれそうなんだけど。
俺が兄ちゃんの方を見ると、悲しいような、戸惑った様な、怒った様な、悔しい様なそんな感情が入り混じったなんとも言えない顔をして、拳を握りしめた。
え?
ちょ、それどう言う、、、。
嫌な予感がして、、背中を変な汗が流れた。
「マルク兄ちゃん、、!」
「……やっぱり、ヒマリと一緒じゃなかったんだな、、。」
「そ、それどういう事?」
俺が慌てて詰め寄ると、兄ちゃんはその事を教えてくれた。
「あの日、雷が落ちた時、マリーがヒマリを探しに飛び出していったんだよ、、。止めようにも、皆んなもパニックになっちまって。皆んなが皆んな、自分が逃げる事に必死だったんだ。命からがら都市について、気がついた時にはマリーはどこにも居なかった。」
「そ、そんな、、、!!」
う、嘘だろ?!
「その後すぐ都市にいた兵士と一緒に俺が探しに戻ったんだが、見つけられなくてな、、、。だが、雷が落ちていない近くの林からマリーの所持していたものと、魔物の痕跡が残されていたんだ。それも離れた別の場所にも。俺はその後を追ったんだが、結局見つける事は出来なかった。もしかしたら消えたお前と一緒に居るかもしれない、、その事を信じて戻るしかなかった。」
俺は言葉が出なかった。
まさか、マリーが俺を追って森に入ったなんて、、。
しかも、そのせいで行方不明になっているなんて。
俺のせいで、マリーが、、、、。
ショックで口が塞がらない俺に、マルク兄さんが小包から1つの赤く透き通る結晶を取り出して渡してきた。
「これが、マリーの落としたポーチの横に落ちていた魔物の痕跡だ。」
今更こんなもの渡された所で、、。
そう言われて俺は、手に持ったそれを投げ捨てそうになった。
「だが、マリーは生きているかもしれない。」
その言葉に、ハッと手に入れていた力が緩まった。
「ど、どういう事?!」
「何故かは分からないがその頃、魔物による人間の誘拐事件が他の都市や村でも多発していたんだ。そんな中、そこから命からがら逃げてきたという人に出会った。場所はどこかも分からないが、長い間暗い場所に閉じ込められていたと言っていた。他にも沢山人が閉じ込められていたとも言っていた。もしかしたら、、。」
マリーはまだ生きているかもしれない、。
「ヒマリ、、すまない!お前の事も助けに行きたかったんだが、俺では力不足な上、村のみんなを守らなければいけなかった!!許してくれ!」
そう言って、マルク兄ちゃんは俺の足元でうずくまって俺に頭を下げた。
俺は慌ててその身体を無理やり起こさせる。
謝るのは、、俺の方だ。
兄ちゃんは悪くない。
「そんな事しないでよ。兄ちゃんは何も悪くない。俺の方こそ、本当にごめん。」
「ヒマリ、、、。」
マリーが生きているかもしれない、、なら俺のこれからする事は決まっている。
「マルク兄ちゃん、俺、マリーを探しに行くよ。」
「な、何言ってるんだ?!ヒマリ、そんな事は無茶だ!大人の俺でも、下級の魔物に下手をすれば殺される。中級になれば普通の人間なんて一瞬で死ぬんだぞ!!……お前だけでも無事で本当に良かった!俺はこれ以上村の人を失いたくないんだ!」
そう言って泣き縋るマルク兄ちゃん。
本当にこの人がこの村のリーダーで良かった。
ごめん、マルク兄ちゃん。
でも、心配しないで。
だって、だって俺は、、。
「ありがとう。でも、ごめん。俺は行く。マルク兄ちゃんだって昔言っただろ?王子様は命がけで大好きなお姫様を助けに行くものなんだぞって。」
「それは、絵本の中の話だ!」
そう必死で訴えるマルク兄ちゃんの肩をガッチリと掴んで俺は兄ちゃんの顔を見た。
「大丈夫!!俺は、こう見えても強いんだからな。もう決めたんだ。」
そう言って、俺はニッコリと笑ってみせた。
ま、まぁ一応、魔王も倒したし、、本当の事だしな!
その後、中々折れない兄ちゃんを説得するのに半日近くかかった。
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