第29話 誤算


 な、な、な、なんじゃこりゃぁぁぁ!!!と、叫び出しそうな気持ちを、すんでの所で堪えた。


 えっ、、鳥?!……にしてはちょっとイカツイよな、、クチバシとか羽無いし。

 って事は、、シルエット的にドラゴンか?こんな森に?ドラゴンですか?

 いやぁ、、ちょっと待って欲しいよね、、。

 そんな巨大でさ、、なのに意外と物音立てずにここまで近づく?

 そりゃ完全油断してたのは自分だけどさ、、せめていきなりじゃなくて、、スライムとかさ、、ゴブリンとかさ、、そう言うの挟んでから出て来て欲しいよね、、ドラゴンなんだからさ、、。


 あっ!そうか、、カゲルはこのドラゴンに怯えてたのか!?!

 そりゃそうだよな、、元魔王って言っても子供だし、、ドラゴンってなったらビビるよな普通。

 なるほどね!

 でもどうしよう、、カゲルがビビるって事はやっぱり強いんだろうしな、、、はっ!もしかしたらスライムみたいに俺の言ってる事分かったりするのかな?

 スライムでも分かるんだし、ドラゴンなら望み高くないか?

 そうだとしたら交渉してみるって手もあるよな?!

 すぐ帰りますんで、、とか言ってさ!

 よしそれだ!それで行こう!!


 茂みから出た俺が、いきなり現れた(と言うか居た)目の前のドラゴンと目があって十五秒程の沈黙の間に、俺の脳内で思考が高速で回転し、今の結論に至った。


 運良く、ドラゴンは俺を見定めているのか、、それとも強者の余裕なのだろうか、俺の出方を伺っている様でピクリとも動かない。


 よ、よし、、行くしかないな。


「あ、あのですね〜、別に俺達悪さをしに来た訳じゃないんですよ〜。危害を加えるつもりもありませんし、、今すぐ帰りますんで、、えっ?!」


 カゲルを庇う様に少し前にでて、手を広げた瞬間だった。


 俺が言い終わる前に、意外に長かったドラゴンの首が伸びて来て俺の左腕を肩ごと食いちぎっていった。


 視線を下げると千切られた血に染まる袖口の下からゆっくりと腕が再生していく。


 いっ、、痛ってぇぇ!!!!!!

 再生が遅い分痛みをモロに感じてしまう。

 本当なら再生と同時に大体消滅するちぎれた方の身体は、再生が遅い分消滅も遅かった様で、自分の腕が口に収まっていく様子に吐き気がこみ上げてくる。


 くそっ、、や、、やっぱり意志の疎通は無理か、、。


 俺を見てカゲルが一気に戦闘大勢に入る。


 よし、、腕は戻った。

 こうとなれば、、やる事は一つ、、、。


「カゲル!やれるか?」


 ビビってたカゲルには悪いけど、もしあの塔がコイツの巣なら、そこに何かマリーの手がかりがあるかもしれない。

 見つかってしまったからには仕方ない、、コイツさえ倒せればその後はなんとかなるだろう、、なんせドラゴン(だと思う)だしな!



 俺は腰に刺してるナイフを手に持って、戦闘態勢を取る。

 大丈夫、、さっきはまた油断してたけど、、避けきれない速さじゃなかった。

 首の長さを見誤ってただけだ。


「カゲル、40%だ!!」

「アオーーン!」


 俺の声に従って、カゲルが全力の40%分の威力の赤雷を俺のナイフに打ち込む。

 10%だと相手を麻痺させる。

 20%になればゴブリンの首ぐらいなら簡単に切れる。

 30%だと、ネノコの作り出す魔物なら大型でも切り落とす事が出来た。

 だからそれ以上は殆ど訓練でも使った事がない。

 でも今回は2人にとって初めての大物だ。

 威力が高くなる分帯電している時間は短くなるけど、今なら1時間は持つだろう。

(多分)ドラゴンだし、念には念をの精神で、、。



 俺は帯電と同時にアイツに向かって走り出す。

 俺は正直、小賢しい事はできないから近づいて斬るだけだ。

 先手必勝!狙うは、見るからに細い首。


「ギィィィィィイ!!!」


 歯を軋らせているのか、そんなドラゴンには似つかわしくない声でアイツは威嚇し俺に向かってくる。

 突っ込んでくるアイツの首を予想通り避けて、隙だらけの首にナイフを落とす。


 よし!イける!!!


 と、思った途端、体の方から物凄い風が吹いて来て逆に俺が弾き飛ばされた。

 木にぶつかって態勢を立て直す前に、再び飛んでくる奴の首。


「痛っ、、て、、っ。」


 ぶつかった痛みで一瞬回避が遅れた。

 無くなった右膝から下が尋常じゃない程痛い。


 まさか翼で風を起こしてくるなんて、。

 これじゃ馬鹿正直に正面から行っても弾き飛ばされるだけだ。

 ……翼って、飛ぶだけに使うもんじゃ、、無いんだな。


 まぁでも、次は向こうから突っ込んできた所を狙って斬れば良いだけだ。

 大体動きは分かったし、首の動きは速いけど、体の方は速さ2割減って所だろう。

 それなら俺の方が早い。


 次に突っ込んでくる首の軌道を見誤らない様に、やっと治った足で立ち上がる。


 よし、こいっ!!


 俺が再びナイフを構えると、まさかのソイツはフワリと宙に浮き上がった。


 ……えっ!?ここで、、飛ん、、じゃう?


 逃げるのか?それとも突っ込んでくる?

 いくら鋭そうな爪でも、近づけばある程度こっちが有利だからな。

 どっからでもかかってこいや!と言う謎の余裕を向けていると、、俺が届きそうもない上空からアイツが俺を見下ろした。

 そしてギザギザの歯が並ぶ口をガバリと開けると、その前に炎の弾が集まり出した。


 え、、、まさか、、、。


「ワンっ!ワン!!」


「おわっ、、!」

 カゲルの声に反応して、ギリギリで降って来た火の玉をかわす。

 俺の頭ぐらいの大きさの火の玉だったけど、後ろにあった大木が消し炭になった。


 そんなの、、打ってきちゃう?


 とんだ誤算だ。

 卑怯だぞ!!と、さっきの謎の余裕のカケラもなくなった俺は、それから俺の届かない上空から降り注ぐ一方的な攻撃にひたすら逃げ回る事になった。





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