第15話 訪問


 よし、手土産のクッキーは持ったし村の皆んなにもちゃんと挨拶もして回った。

 引き止める皆んなの顔が思い浮かんでは、それに甘えたくなる気持ちに鞭を打って俺は何とか村を出た。

 必ずマリーを連れて戻ると約束して。


 今は足元をテチテチと歩き回るアマカゲルは、村を出るまでなんとか鞄に詰め込んで誤魔化すことができた。


 マリーの事にしろ、アマカゲルの事にしろ、俺自身の事にしろ、やはり1人では考えきれなかったから、申し訳ないけど俺はアスレスを頼る事にした。

 後から自分じゃ取り返しのつかない事になったら、それこそ意味がないしな。


 特にアマカゲル、、。

 正直、コイツをどうしたら良いのかが分からない。

 村に置いてくるのはいけない気がしたから連れ出してきたものの、外に逃すのもどうかと思う。

 一応魔王だし、だった、、か?

 今のところアイツは俺に懐いていると言っても良いのか、離れる気配がない。

 と言うか、、付いてくる。


 足に擦り寄ってくるアマカゲルの頭をよしよしと撫でてやる。

 やっぱりモフモフがたまらない。


「お前、、これからどうするんだ?」

「ワンワンッ!」

 俺のズボンのの裾を噛んで引っ張ってくるアマカゲル。


 しょうがないか、、コイツとは長い付き合いだし。

 俺達1人ぼっちだもんな。

 きっと今離すとコイツは捕まって殺されてしまうだろう。

 もしかしたら、子犬の時からしつけると人を襲わないようになるかもしれない。


 俺はアマカゲルを抱き上げて真紅の瞳を覗き見た。

「よしっ、お1人様同士一緒に行くか!俺達は今日から家族だ。」

「ワンワンッ!!」


 動物を飼う時は家族が増えるのと同じと思いなさいーー母さんが言っていた言葉だ。

 命を預かる責任は軽くないのだと、お母さんはなかなか動物を飼わせてくれなかったけど、今なら大丈夫。


「じゃあ、、名前を決めないとな、、。」


 うーん。

 ポチじゃちょっとコイツには合わなさそうだし、、。

 アマカゲル、、だから、、、。


「よし、決めた!お前はカゲルだ。」


 安直すぎで何が悪い。

 カッコいいじゃないか!


 そう言った瞬間、アマカゲルの瞳がキラリと光った気がした。

 尻尾を見ても分かるように、多分嬉しいんだろう。

 よしよし、可愛い奴め。


 そうと決まれば、俺は鞄からアスレスに渡されていた鈴を取り出した。


「じゃあ行くぞ、カゲル!」

「ワンッ!」


 俺は鈴を鳴らして、目の前の川に勢いよく飛び込んだ。


ーー



 ーーコンコン。

 つい先日見たアスレスの家の扉を叩く。

 こんなに早く来るとは思って無かったから、正直どう言う顔をしたら良いのか分からない。

 でも前に俺が帰って来る事を知っていたぐらいだから、今回も既にお見通しなのかもしれない。


 ノックして数秒してからゆっくりとドアが開いた。


「や、やぁアスレス、昨日ぶり。」

「そうね、昨日ぶり。」

 申し訳なさから舌をペロリと出した俺を、フンと笑って中に招き入れたアスレスを見て、やっぱりバレてたか!と思った。


「俺が戻って来る事バレてた?」

「ま、何となくね!私は魔女だもの。ある程度何でもお見通しよ!」

「アスレスには敵わないなぁ、、。」

「ワンワン!」

「当たり前でしょワンワン!、、ってワンワン?」


 鞄から顔を出したカゲルを見て首を傾げるアスレス。


 アレ?

 カゲルの事は分かってなかったのかな?


 俺がカゲルを見せようと、カバンから取り出してアスレスの顔の前に持ち上げると、急に物凄い勢いで家の外に弾き飛ばされた。


 な、何が起こったんだ?

 カゲルは俺の腕の中で目を回している。


 みるみる周りに生える木が変形して、俺達を串刺しにしようと枝を伸ばして迫って来るのを何とかして避ける。


 ちょ、ちょ、や、ヤバい!

 アスレス一体どうしたんだよ?!

 家の方を見ると丁度アスレスが家から飛び出してきた。


「ネノコ、待って!やめなさい!」


 杖を掲げてそう叫ぶと俺達を串刺しにしようとしていた枝がピタリと止まった。


 ……た、助かった。


「ネネネ!!なんで止めるの?!アレはアマカゲルだよ!?今は力こそ感じられないけど、アレは歴とした魔の王だよ!まさか生きてたなんて!」


 どこからか女な子の声が聞こえる。


「分かってるわ!でも少し待って!」


 アスレスが距離を取ったまま杖を俺達に向けた。

「ヒマリ、、先に説明して。害を与えようとしていないのは分かるわ。でも流石にそれは私達では何もわからない。分からないものは森には入れられない。」


 そ、そんなこと言われても俺も何もわからないんだけど。


「お、俺も分からないんだよ。信じられないかもしれないけど、朝俺の、、尻から玉が出てきて、その玉を触ったらコイツが出てきたんだよ。それで仕方ないから連れてきた。」


 なんか言ってて悲しくなるな。


 アスレスがゆっくりと近づいてくる。

 アスレスを守るように草花が彼女の周りに生茂る。


「ヒマリ、、貴方本当に、いろいろぶっ込んできてくれるわね。」

 はぁとため息をついたアスレスが、そう言って目を回すカゲルに手をかざした。

 その手が淡く光り出す。


「……なるほどね。」


 何が?もしかして、何か分かったのか?

 期待の眼差しをアスレスに向ける。


「ネノコ大丈夫よ、確かにこの子はあのアマカゲルで間違い無いわ。でも首輪付きよ。ヒマリにも言って聞かせるから、警戒を解いて。」


 首輪なんて付いてませんけど、、と言う前に俺の目の前にアスレスにそっくりの女の子がふわっと現れた。


「うわっ!」


「ネネ、アスレスがそう言うならしょうがないかーー。まさか私の中に魔王を入れる日が来るなんて、ネネネ。」


 不思議な女の子はふわふわと漂いながら、俺やアスレスの周りを回った。


「彼女はこのクルギの木の精霊、世界を監視する者の1人“根の子ネノコ”。この森を守っているの。」


「ネノコ、、。」

 アマカゲルを見て敵だと思ったのか、、。

 俺も子犬みたいだと思って安易な事をしちゃったんだな、、。


「ネネネ。私の姿を人間が見る事なんてまずないんだからね!まぁ、ヒマリちゃんは特別の特別。これからよろしくね!」


「こっちこそよろしく。それから、驚かせてごめんな。」


 俺が謝ると、ネノコはニコニコしながら空中をクルクルと回った。


「思った以上ににイレギュラーな事があるけど、とりあえず中に入りましょう。」


 アスレスに言われて、俺は未だに目を回すカゲルを抱えて後を追った。

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