第16話 約束と覚悟


「ーー約束?」


 俺はアスレスにマリーを助けたいと言う事を話した。

 その為にどうすれば良いのか聞きたくて、アスレスに頼ったのだと言う事を。

 アスレスは俺が持参したクッキーを食べながら、俺の話しが終わるまで黙って聞いていた。


「俺、どうにかしてマリーを助けたいんだ。アスレス、俺、どうしたら良いんだろう?」


 本当なら、アスレスにこんな事聞くのは失礼だと思う。

 マリーの事もアスレスからしたら、どうでもいい事だろうし。

 でも、今の俺はそう簡単に事を運べない。

 それはアスレスから言われた事でもあるんだ。


「分かっていると思うけど、私が助けるのはヒマリと言う人間個人。マリーって子は私にとって何も関係のない物。」


「それは分かってる!」


「でしょうね、、じゃあヒマリ。約束をしましょう。」


「ーー約束?」


「ええ。私の使う錬金魔法でもそう。何かを得るには何か別の物を犠牲にしなくてはならない。つまり、ヒマリはその願いを叶える為に私に何を差し出せる?それを取り決める為の約束。」


 成る程、、確かに、俺もその方がいい。

 してもらってばっかりは申し訳無いもんな。

 って言っても、今俺が差し出せるものが何も無いんだよな、、。

 来る前から思っていたけど、これは事が終わってから代金を払う感じで、、。


「……後払いでもいいですか?」

 そう言うとアスレスはププッと吹き出した。


「ヒマリ、あんた魔女にこんな頼み事して、あんたが稼げる額で足りると思ったの?」


「ですよね、、でも俺、今身一つだし。」


 するとアスレスは立ち上がってから俺の隣の席に腰掛けた。


「って言うのは冗談、、本来なら、お互いの間で特殊な何かを交わす事があれば、その事柄にのっとり、“契約”を結ぶの。それは魔法で結ばれるこの世界で最も強い理の一つ。それを結べば、お互いはその交わした内容を裏切れないようになる。」


「じゃあ、それをすれば俺が対価を払わないで逃げるって心配がなくなるな!」


「そんな事は思ってないわよ。だけどそれは、同等の存在同士が結ぶ物と、上位の者が下位の者に結ぶ物の2種類しかない。つまり、めんどくさい事に私より上位存在のヒマリと私が契約すると、私にはデメリットしかない。」


「な、なんだと?!」

 ってか、どう言う事なんだ?


「本来であれば上位存在ーー力の大きな存在から下位の者が払える対価分の力を与えてもらう、って言うのが一般的な契約。でも仮に、上位の存在が逆に下位の存在に力を与えて貰うとなると、その払われた対価に下位の存在は耐えられなくなる。普通はそんな事無いんだけどね。」


「え?!ちょっと待って、じゃあ、俺アスレスより上位存在ってヤツなの!?」


「そうよ。貴方はおそらく、現在この世界では最上級の存在でしょうね。だから貴方と私が契約を結んだ場合、マリーを助け出すと言う貴方の望みに対して私が差し出せる情報じゃ到底足りない。そうなれば私は貴方の望みに耐えきれなくなってどうなるか分からない。本来、自分とより離れた高位の存在と契約すればするほど得られるものは大きく、その分リスクは高くなる。仮に、人間がネノコと契約を結んでその恩恵を1度受けた場合、寿命の半分を犠牲にする。下手をすれば、呼び出すだけで死んでしまう場合もあるぐらいなのよ。それ程“契約”とはシビアなものなの。」


「な、成る程、、いろいろややこしいんだな、、。」

 てか、契約って怖っ。


「そこのアマカゲルはヒマリと結べたみたいだけど、それはこの子が元々魔王と言う最上位に近い存在だったからでしょうけどね。」


「えっ?俺コイツと何か契約してるのか?いつの間に、、。」

 そんなの知らないんだけど。


「内容までは分からないけど、この子は完全に貴方の支配下に入っているわ。信じられないけどね。だから、私もこの子がこの森に入る事を許したのよ。逆に言えば元魔王ですら対等契約が結べなかったと言ってもいいんだけどね。まぁそれは、、この子の望みでそうしたのかも知れないけど。」


 え?逆に怖いんだけど、、。

 一応俺はコイツに何かを払わないとダメなんだよな、、。

 カゲルは俺に何を要求してるんだ?

 はっ、、!!餌か?


「だから、絶対その子をこの森で暴れさせないで頂戴ね。それに、これから先安易に契約しない事。相手の為にもね。」


「わ、分かりました。」


「じゃあ話に戻って、、約束の話よ。」


「約束、、。」


「そう、約束!これは魔法も何も関係ない。ただの口だけ。だからお互いに裏切られるかもしれない。それでも私の願いを聞いてくれるなら、私はヒマリの願いのために手助けしましょう。私はヒマリを信じる。貴方はどう?私を信じて約束する?」


「ネネ、魔女が契約以外の取引をする事なんてまず無いんだからネ!」


 いつの間にか部屋に入ってきていたネノコが俺の頭上でニヤニヤ笑った。


「まぁ、今回は私にも色々あるし、相手がヒマリじゃしょうがないでしょう。でもヒマリもそれ相応に覚悟して頂戴。出来ても手助け、成し遂げれるのかはヒマリ次第なのだから。」


 そんなの今更聞かれなくても俺の心は決まっているし、覚悟だって出来ている。

 だからアスレスの元に来たんだ。

 それに、例えどんな願いだろうと、アスレスが今まで俺にしてくれたことを考えても返しきれない程の事をしてくれたと思っている。


 俺は俺にできる全ての事でアスレスに答えたいし、マリーも必ず助け出す。


「もちろん、俺と約束しようアスレス。アスレスに俺のできる事全てを渡すよ。」


「私の望みも聞いてないのにそんな事言って良いのかしら?……フフフッ、おバカな子ね。そんなんじゃこれから先、腐った奴らに良いように使われるわよ!、、、だから、私がそうならない様に、ヒマリを助けてあげるわ。じゃあ約束成立ね!」


 そう言ってアスレスがするがままに、俺たちは小指を絡めて約束を結んだ。




「所でアスレスの願いってなんなの?」

 何だろうとする、とか思ったけど本当にできる事なのか?


「あぁ、それはね、ヒマリに私の仕事を手伝ってほしいのよ。前に言ったでしょ?私はこの世界を監視・記録しているって。」


 確かにそんな事を言っていた気がする。


「で、でもどうやって?」

 それ、俺にできる事だよな、、。

 やれと言われればやる覚悟だけど、俺書き物が苦手なんだよな。

 読むのは得意だけど描くのがなぁ、、。


 そんな俺にアスレスがビシッと指を刺した。

「ヒマリ、、貴方には冒険者になってもらうわ!」


「えっ!?冒険者?!」


 は、話しが読めないんですけど。


「そう!ヒマリには冒険者になってもらってそこでマリーの情報を集めて貰うわ。流石の私もマリーの居場所が分かるわけじゃないしね。」


「でも、俺そんな事やって大丈夫なの?スキルの事バレたらヤバいんじゃ、、。それに監視と記録は?」


「その為に短い期間だけど、これから1年この森で私とネノコが訓練をつけてヒマリをそこそこ戦える様にしてあげる!魔法を覚える事が出来ればバレる確率も今よりはグンと下がるわ!それに冒険者は魔物を狩る事の多い職業、と言うか本業。ヒマリの探している魔物の痕跡の情報も入りやすいはず!焦って探してもいい事は無いわ!どちらにしても、マリーがさらわれてから5年は経ってるんだから。この際しっかり準備を整えてから行きましょう。」


「な、なるほど。確かに、今更焦ってもしょうがないよな。」

 今すぐにでも出発したいけど、アスレスがそう言うなら、、。


「仕事の方は国外の情報が不足しているの。この国全土にはネノコの根や眷属が見張っているから情報が入りやすいんだけど、国外はなかなか私が出向かないとキツいのよ。だからヒマリには、隣の国で冒険者として入ってもらって、ついでにそこで得た情報をこちらにも寄越してほしい。」


「分かった。それなら俺でも出来そうだな。」


「後、1年間は住み込み代として、家事をよろしくね。」


 そんなのはお任せくださいのさいだ。


「任せて!こちらこそ、これから改めてよろしくな、アスレス、ネノコ!」


「ネネネネ、ヒマリちゃん、私がビシバシ鍛えてあげる!ネネネネ!」


 マリーもう少し待っててくれよ。


 こうして、マリーを助ける為の俺の第1歩が踏み出された。



 ーーーーー


 拙い文章で、読みづらい中、ここまでお付き合い頂きありがとうございました!

 第一章終わりになります。

 次回から一年後の旅立ちからの時間軸で二章始まりますので、宜しければまたお付き合い下さい!!

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