第34話 誕生の宴
激しい光を伴って、バチバチと放電する槍が大蛇の脳を焼き焦がして灰にして行く。
痙攣し、のたうち回る胴体が、土煙を上げて地面に落ちたのと同時に大蛇は事切れた。
ふう〜、か、勝った。
辺りを見ると、残り少なくなった蛇の残党が慌てて森の奥に引き返していくのが見えた。
こっちも、もう大丈夫そうだ。
やり切った達成感からか、ずっと張っていた緊張の糸が切れたからか、俺はその場にドサリと倒れ込んだ。
いつの間にか真上まで上がった太陽が眩しい。
はぁ〜〜、今はもう、、寝たい。
体は疲れてないけど、何だか精神的にどっと疲れた。
髪飾りを咥えてきたガゲルをぎゅっと抱き込んで、俺はそのモフモフの中で目を閉じた。
ゔぅーーん。
あ、暑い、、ってかやっぱり暑ぅぅ!!!
懐かしい身体中の体液が沸騰しそうな暑さに、たまらず俺は外に飛び出した。
勿論、飛び出したと言ってもドラゴンが温めてる体の下から抜け出しただけなんだけど。
ふと横を見ると、カゲルも暑かったのだろう、、卵が置いてある草の外側、風通りのいい所を陣取って休んでいた。
今のところは外も落ち着いているみたいで、生き残ったドラゴン達は殆ど塔の巣の中に入ってきている。
結構な数がやられた気がするけど、それでも塔の中がドラゴンで埋まってしまうほど数は残っている様だ。
1500体ぐらいは、、残っているか、、。
カゲルの横に行くとちょうど横穴から外が見えて、気持ちのいい風が吹き込んでくる。
外は既に日が沈んで月明かりが差し込んできていた。
どうやらあれから半日近く寝ていたみたいだ。
予定よりも帰るのが遅くなってしまったから、ミモリとスライムがきっと心配しているだろう、、けど。
俺は月明かりに照らされている自分の身体を見た。
うーーん、、。服が、、、なぁ、、。
燃やされるは溶かされるはで、、今回はどうしようもなかったんだよな。
大きめの葉っぱでも集めて体にくっつけて帰るか、、と俺は最終手段を頭に思い浮かべる。
服も回復してくれたら良いのになぁ、、。
今度隣の鍛冶屋にでも相談してみようかな?
確か防具や武器なんかでも、自己修復魔法のかかった物なんかがあるって言うのを聞いたことがあるし。
服でも作ってくれるかなぁ、、。
「ワンッ!ワンッ!!」
つい考え込んでいると、起きたガゲルが俺の足を押して巣の方へ行けと言ってくる。
「どどどど、どうしたんだよ?」
言われるままに巣の方に戻ってみると、卵を温めいたドラゴンの下にある卵がピクリと動き出した。
ま、まさか!
俺はカゲルと一緒に卵に駆け寄った。
中から押される様に卵にヒビが入って、やがて中からドラゴンの赤ちゃんが出てきた。
「キュイィィィ!!」
「おおおおぉぉぉぉ!!う、産まれた!!」
1つ生まれると、もう1つと、次々にあちこちの巣で卵がかえっていく。
産まれた赤ちゃんを囲む様にそれぞれの巣にドラゴン達があつまってくる。
1番最後に、俺がかばった卵から赤ちゃんドラゴンが出てきた。
ソイツは俺をみて大きな声で鳴く。
「キュイィ!!」
良かった、、。
ちゃんと産まれてきた。
俺が赤ちゃんの頭に乗っかったままの殻を取ってやると、ソイツは俺の身体にすり寄ってきた。
思わず小さい身体を優しく抱きしめる。
あったかい。
思わず涙なんか溢れちゃって、、。
他のドラゴン達もみんな元気そうだ。
苦しかったけど、頑張って良かった。
そこから、俺はカゲルやドラゴン達と一緒に、一晩中新しい命の誕生を喜んだ。
*
この夜、綺麗に澄んだ月の光が差し込む塔の中で、約500の新しい命が産まれた。
塔から響く誕生の産声と、それを喜ぶドラゴン達の鳴き声はひっそりと、この森の中に一晩中響いていた。
それは2年に1度訪れる
そして、もう1つ。
群れで暮らすジャバウォック達は、その中で1番強いと認めた者を群れのボスとし、そのボスは群れの絶対的な統率者となる。
これは、弱肉強食の世界で生きる彼らの生きる術。
それはその個体(ボス)が死に絶えるまで続く、群れ(本能)の掟。
ジャバウォック達は認めていた。
種族が違っても、自分達よりも小さくても、同じ様に守り戦っていた
仲間を守り死んでいった前のボスの様に。
そう、これは本人の知らない所で、彼らの新たなボスが誕生したーー喜びの宴。
*
ーーガタンッ!!!
思わず、主人の前ではしたない音を立てて立ち上がってしまった。
「……どうした?ミクル。」
「い、いぇ。大した事ではありません。」
フッーーと笑みを浮かべる主人は内心面白がっているんだろう。
だが今はそれどころではない。
「……少し、失礼いたします。」
乱れた胸元を整え、頭を下げてから今更ながら動揺を少しでも悟られない様にサッと部屋を出る。
まぁ、主人にはバレバレなのだろうが。
長く暗い廊下を歩き、城の北側の窓から外の様子を見る。
まだ目も機能していない幼体のバジリスクを成長させるのに丁度良い産卵時期を狙ったつもりだった。
そこそこ成長した個体も送り込んだから、半分は死んでも、巣を壊滅させてくる思っていた。
たが、今まで感じとっていた眷属の反応がみるみる消えていく。
そして、今さっき1番大きな個体の反応も消えた。
幼体でもバジリスクは魔物の中でも中位に位置するBランク。
成体は更に強くなる。
ジャバウォックにとっても相性が悪いはず。
数を集めても、少しぐらい強力な個体がいた所で大した問題にならないはずなのに。
思わずチッと舌打ちがでる。
眷属が死んだ事などどうでもいい。
主人の為の作戦が失敗した事に苛立ちを感じる。
あの森で一体何が起こったというの?
マークしていた他の国の勇者は、勿論国を出てもいない。
今のところセントラルに正式な現勇者はいないし、最近現れた英雄とやらは西に向かったはず。
まぁ、居たとしてもジャバウォックとバジリスクのいる森で生きて帰ることは無理だろう、、ましてやそれらを討ち取ってくるなど尚更だ。
だとしたら、、、。
ここまで考えて、ようやく行き着く答えに笑みが溢れる。
「成る程、、そこに、、居たのですね。」
思いの外早くたどり着いた目的に、これからを想像して胸が高鳴る。
「予想よりも早いけど、問題ないでしょう。ウフフフッ、せいぜい足掻いて下さいね。会って直ぐに石像ではつまらないですから。」
そう言って、城の窓から見える北側一面石化した景色を、うっとりとした瞳で見下ろした。
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