第33話 俺達の勝ち


 巨大な蛇の魔物が、チロチロと不気味な色の舌を覗かせながら俺に近づいてくる。


 俺の近くにいた蛇達もそれに気づいて、さっと大蛇に道を開けた。


 ははぁーん。

 蛇と言えど、やっぱり俺の余りにも美味しそうな魅力に気づいた様だな。


 昔から近所のおばちゃん達によく言われてたんだ、、“「ヒマリちゃんのお肌は、ウチの娘よりもスベスベのピチピチ、それにモチモチね!羨ましいわぁ!まぁ、私も二十年前まではそんなんだったんだけどねぇ〜!」”ってね。


 まだ腕と足が治りきってないから、自分から口に飛び込むことは出来ないけど、食べられてしまえばこっちのもんだ。


 ドラゴン達は俺を助けようとしているのか蛇に向かって火の玉を放っているけど、近づけないせいか、やはりあまり効いている様子はない。

 でも心配しなくても大丈夫、俺だってやればできるんだ。


 俺は出来るだけデカく美味しく見せるようにと、動く方の腕を使って仰向けに寝転んだ。

 できれば優しく丸呑みでお願いします!!


 ボス蛇が俺に向かって大きく口開けたのを見て、ギュッと目を瞑る。


 さあこい!!!!


 ーーペェッ!!

 ーーベチャッ!!


「……え゛っ?!、、っていだっ!!」


 何が起こったんだ?!と、焼ける様な痛みに目を開けると俺の体にべったりと付いている紫の液体。

 身体を溶かしているのか、薄らと煙が上がっている、、。


「ぎゃぁぁぁあ!いっったい!!あっつ!いた!!」

 俺は液体を落とそうと地面を転がり回る。


 あ、アイツ、、毒吐きやがった!!

 まるで道端の溝に痰はくみたいに、、ゴミにでも吐きかけるような感じで吐きやがった!!


 そのままボス蛇はクルリと頭を翻して、巣の方に大きな身体を引きずり始めた。


 アイツ、、溶かすだけ溶かして、食べもしないでいくとは、、いい根性してるじゃないか!!

 食べる価値もないって事か?ふざけるなよ!

 こっちは最悪う○こになる覚悟だったんだぞゴルァ!!

 きっと声が出ていたらこう叫んでいただろう。

 毒のせいで声すらまともに出ない今は、呻き声のような悲鳴をあげているだけだけど。

 きっと母さんが聞いていたら、俺の言葉の汚さに倒れていたかも知れない。


 なんて思ってる間に、ズンズン蛇は巣に向かって行くし、逆に俺の足はこの液でドロドロになって行く。


 あ、あーヤバイ。

 作戦は失敗するし、、痛すぎでまた意識飛びそう、。


 やっぱり俺1人じゃ、、何にもできないな、、。

 悔しいなぁ、、。

 ドラゴン達、、せっかく打ち解けたのにごめんな、、と心の中で言いながら瞳を閉じた時だった。


 今度は背中が裂かれるような痛みが走って、逆に意識が戻ってきた。

「アオーーーーーォン!!」

「ガ、、、ガゲル、、!!」


 ヒョコリと背中の亀裂から顔を出したガゲルが俺の横に出てくる。

 半分ドロドロに溶けている俺を見てかなり動揺したようで、怒りに任せて近くにいた蛇にデカい赤雷を落として一瞬で黒焦げにしていた。

 お前、、やっぱり、、、強いな、、。


 でもごめん、、俺はもう動けないんだーーとこっちに戻ってくるガゲルを見たときに、上からも俺を呼ぶが聞こえた。


 実際は音でしかないその声は、俺に向かって言った。


“「この森や周辺に人はいないから大丈夫だ」”と。


 ドラゴンからのその声を聞いた俺は、待ってましたとカゲルに合図した。

 ガゲルが嬉しそうに俺に駆け寄って、髪を束ねていた髪飾りを外す。


「はぁ、やっぱりいざとなればすごく便利なんだよな〜。」

 俺は何にもなかったようにスクリと立ち上がる。

 くそっ、、最後の要、、やっぱり持たなかったか。


 毒の中でドロドロに溶けた下着(だった物)を持ち上げて投げ捨てる。


 まぁ人はいないし、大丈夫だろう。


 そう、俺は飛び降りる前にドラゴンにこの森と周辺に人がいないか確かめて欲しいと頼んでいた。

 いざとなったら髪飾りを外してスキルを解放しても大丈夫なのか確かめたかったからだ。

 まぁ、、今までも散々やられて、その度に再生してたから、今更感は(かなり)否めないけど、確認は大事だからな!

 やる事はやった!聞く事は聞いた!と。


「ガゲル、もう怪我は大丈夫か?」

 大丈夫な事は分かっているけど、一応聞いておく。

「ワンッ!!」

「よしっ!じゃああのふざけた蛇をさっさとやるぞ!やっとまともな反撃だ。」


 俺は毒の中からナイフを拾い上げて、走り出した。




「ガゲル、、40%だ。」


 俺が言うのと同時にガゲルが俺のナイフに赤雷を撃ち込む。


 巣に頭を突っ込みかけている大蛇の背中に飛び乗った俺は、そのまま頭目掛けて走り抜ける。


 狙うは厄介な目だ。

 俺に気づいた大蛇はびっくりしながらも身体をくねらせて俺を落とそうと暴れ回るけど、これぐらいの動きはお茶の子さいさい。

 胴体に踏み潰されるようなへまもない。

 頭に到達した俺はボス蛇の右目に、折れて落ちていた蛇の牙を突き立てた。

 折れたばかりで魔力の残っていた牙が刺さった大蛇の瞳はみるみる石化して行く。

 刺した牙の方が先に石化したけど十分だ。


 半分石化して、魔法の弱まった瞳に向けて今度は赤雷を纏ったナイフを差し込む。


「シュラ゛ラララッーー!!」

 瞳から肉の焼ける様な変な臭いがした後、蛇が悲鳴を上げてのたうちまわった。

 その衝撃で振り落とされて転がった俺の上に大蛇がのしかかって来るけど、それも身体がどいた瞬間に再生して反対側に回り込む。

 適当に落ちていた、尖った石を思いっきり左目に叩き込んで、傷がついた上からまたナイフを差し込んだ。


 あっという間に両眼を潰された大蛇は手当たり次第に辺りに突進を繰り返しては毒を吐きまくっていた。


 おおっと、、ヤバイ、、これじゃ巣のほうが先に壊されそうだ。


 俺は近くを通った胴体目掛けてナイフで切りつけた。


 斬れる事は斬れるけど、やっぱり外殻は硬い。

 40%も出してるのに、中まで攻撃が通っていない。

 これじゃ、致命傷にはならないな。


 カゲルに追加の赤雷を頼もうとも思ったけど、カゲルも沢山いた周りの蛇を一気に相手にしすぎていた。

 感覚的に、撃ち出せて30%程の魔力しか残ってないみたいだ。


 どうしよう、、、。


 辺りを見ると、目が潰れたおかげでドラゴン達が近くまで飛んできていた。

 近づけた分火の玉の威力が上がって、数発打ち込こまれた場所は鱗が赤く変色している。


 それならーー、と、俺はカゲルと一緒に近くを飛んでいたドラゴンの背中に飛び乗った。


「ガゲル!今残ってる分でいい、俺が合図したら全部にナイフこれ打ち込んでくれ!」

「ワンワンッ!!」


 俺は大きく息を吸ってドラゴンの背中の上から叫ぶ。


「皆んな、ここで仕留めきるぞ!俺ごと一斉にアイツの頭に向かって打ち込んでこい!!」


 そう言うと、俺はドラゴンの背中から蛇の頭に飛び降りた。

 そしてすぐに頭にナイフを突き刺して弾き飛ばされない様に衝撃に備える。

 俺が言った通り、間髪入れずに一斉に空から無数の火の玉が降って来る。


 それは巨大な爆発を引き起こして、蛇の頭の硬い鱗を熱で真っ赤に染めた。


「ガゲルーーー!!!!」


「アオーーーーーォン!!」

 呼ぶと同時に俺の抜き取ったナイフに赤雷が打ち込まれる。


 赤雷は短い刀身から真っ直ぐと伸びて、1本の赤い槍に変化する。


 これは俺とガゲルが編み出した技の1つ。


“赤羽衣の槍”


 リーチが足りない時や、攻撃を貫通させたい時に使える様にと、ナイフを軸に赤雷を伸ばし槍の様に形を留めたものだ。

 伸ばして留めた赤雷から漏れて放電する光が、まるで羽衣を纏ってるみたいだったからみたいだったから、赤羽衣の槍。

 形と威力を保つコントロールが難しいから、持って10秒。

 俺には到底できない芸当、ガゲル様々です。


「残念だったな!お前達に卵はやらない。俺達の勝ちだ!!!」


 俺は熱でふやけて赤くなった大蛇の脳天に思いっきりその槍を突き立てた。



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