第32話 ここまできたら
絡みつく蛇の上空から、重力に任せて脳天にナイフを突き立てる。
赤雷も纏ってるから、何とか蛇の鱗を貫通してナイフが突き刺さる。
それを無造作に抜き取ると、蛇は事切れてパタリと地面に崩れ落ちた。
近くにいた別の蛇が直ぐに標的を俺に切り替えて迫ってくるけど、何とかそれもナイフで受け流す。
やっぱり、落下する勢いぐらいないと自分の腕力と、この威力の赤雷じゃ蛇の鱗は貫通できないみたいだ。
ざっと見ただけでも5匹はこの穴に入ってきていた。
残り4匹、、。
俺は翼が石化したドラゴンを守る様に蛇と向き合う。
外がダメなら内から行くしかないな、、と俺は奴が攻めてくるタイミングを見計らう。
思った通り、俺を通り越して卵を狙いに行った蛇の動きに先回りする様に、大きく開けた口の中にナイフを差し込んだ。
口の内側から頭に向かってナイフを突き刺し蛇は倒れたものの、その時に牙が俺の肩口に刺さった。
徐々に石化が始まって俺の左上半身が同時に崩れ落ちる。
「ぐぁ゛あああっ。」
痛みで2分程のたうちまわって、ようやく体が再生する。
あ、後3匹もいるのか、、。
見ると上に2匹、下に1匹。
上にはドラゴンが3匹いたのが見えたから、1匹で卵を守っているのが見えた下の足場へナイフを構えて飛び降りる。
思いのほか上手く飛び降りたと言うか、仕留めたと言うか、落下の勢いで仕留める事に成功した俺は、方向を切り替えて今度は柱を駆け上がる。
1番上まで駆け上がって下を見下ろすと、1匹の蛇は丁度2匹のドラゴンに火だるまにされていた所だった。
もう1匹は、、?
辺りを見渡すと、1段下の足場で縺れ合っている2体を見つけた。
既にドラゴンは足と羽の一部が石化していて、虫の息だ。
俺が蛇目掛けて飛び降りると、蛇は俺に気づいたらしくナイフは少し胴体をかすっただけだった。
怒って向かってくる蛇の攻撃を交わしながら、口に差し込むタイミングを図る。
もうそろそろ、蛇の動きにも慣れてきた。
上からも蛇めがけて火の球が飛んでくる。
若干俺の腕にもあたってたけど、丁度良いタイミングで怯んだ蛇の口が開いたから気にせず飛び込んだ。
そのまま肉質の柔らかい口の中から脳味噌目掛けてナイフを突き立てると、バタバタと大きく痙攣して蛇は静かになった。
ふうっ、何とかやった、、、げっ!!
痙攣した尻尾が運悪く卵を1つはじき飛ばしたせいで、俺の目の前を卵が転がって行く。
あっ!!と言う間もなく、今いる上層の足場から卵が落下した。
此処から落ちたら、ドラゴンの卵といえど流石に割れるだろう。
多分卵の母親なのだろう石化しかけているドラゴンが、卵を追いかけて体を引きずる。
それを見て俺は、ドラゴンの歯を軋る様な鳴き声を背中に、卵めがけて飛び降りた。
空中で卵に追いついた俺は卵を守る様に自分を下にして卵を抱え込む。
ううぅ、此処に来てからもう最悪だ。
身体中が常に痛いし、大怪我ばっかりだし、タイミングは最悪だし、とっさに卵かばっちゃうし、、。
そんな事を思いながら落下に備えて卵を抱える腕に力を込めた。
身体が弾ける様な衝撃の後、俺の意識が飛ぶ直前に、グシャリと何かかつぶれる様な音が俺の耳に響いたのを最後に俺は意識を手放した。
……あったかい。
って、暑ぅぅ!!!
ムンムンと蒸す様な、サウナにいる様な暑さに俺は飛び起きた。
身体は痛くもなんともないけど、何せ暑い!
何事?!と思って見渡すと周りは卵だらけ。
頭の上には、卵を覆う様にドラゴンの翼が乗っていて、、。
あれ、、俺、もしかして温められてる?
横を見ると若干ヒビは入っているものの、そのままの形を保っているさっきの卵があってほっとする。
良かった、あれは俺から出た音だったのか、、それはそれで最悪なんだけど。
今晩はいい夢見れそうにないな、、と思いつつそっと卵をかき分けて巣の外に抜け出る。
出てきた俺に気づいたドラゴンは、首を伸ばして俺の顔にすり寄ってきた。
他のドラゴンも俺を見ても、もう襲ってくる気配はないみたいだ。
体を張っただけあって、何とか俺が卵を狙う外敵では無いと言う事が伝わったらしい。
よくよく辺りを見回してみると、随分と明るい。
外から光が差し込み始めていると言うことは、夜が明け始めたのだろう。
今回は結構な時間気を失っていた様だ、、。
ふと外の様子が気になって足場を外に向かって歩いていると、1番下の横穴が崩れ落ちて巨大な塊が巣に突っ込んで来た。
「ぉぉぉぉおお!あっぶな!」
ま、また此処から落ちる所だった、、、。
なんだ?!と覗き込めば、まさかのあのボスドラゴンがボロボロの姿で倒れている。
えっ!?あのボスがやられたのか?
嘘だろ?と現実を一瞬疑ったが、まだ土煙を上げている崩れた穴から、そのボスドラゴンを丸呑みにする程の巨大な蛇の魔物が、呑み掛けのままドラゴンを外に引き摺り出すのを見て理解できた。
あ、アイツがボスをやったのか、、と。
他の蛇も大概デカいけど、ボスを引きずり出していったアイツはそれよりもさらに規格外にデカかった。
きっとアイツが、蛇たちのボスなんだろう。
ここまで来てしまえば、俺もやるしか無い。
ボスドラゴンが死んだ以上、こっちが食べられるのは時間の問題だろうから。
それに、せっかく俺が死ぬ思いをして守った卵をホイホイとやる訳にはいかない。
どれだけ痛い思いしてると思ってるんだ。
おーい!と呼びかけると、近くを飛んでいたドラゴンが1匹やってきた。
どうやら、完全に信用は勝ち取ったみたいだ。
俺の言葉も理解しているようで、案外魔物は人間と分かち合える種族なのかもしれな、、いなんて思ってしまう。
「俺も一緒に戦うから、外に連れてってくれるか?」
上体を低くしたドラゴンの背中に飛び乗って巣の外に出ると、外では丁度ボスドラゴンが蛇の腹に収まった所だった。
何故かは分からないけど、ふつふつと怒りが込み上がってくる。
数は見た所こっちの方が多そうなのに、大蛇がいるせいか、今いち撃退力に欠けている。
どのドラゴンもある一定の距離を保って蛇に近づこうとしない。
火の玉もこの距離からじゃ、大蛇には全く効いていなさそうだ。
何かあるのか?と様子を見ているうちに、大蛇が巣の方に移動し始めてしまった。
ヤバイと思った矢先に、ドラゴン達も大蛇に向かって突っ込んでいった。
すると瞬く間にドラゴン達は地面に落ちて、そこを周りにいる蛇達にやられていく。
特に大蛇の頭付近に飛んでいったドラゴンは噛まれてもいないのに、一瞬で石化して地面に落ちていく。
何かあの魔物の魔法かスキルか?
でもこのままでは拉致があかない。
余りに一方的すぎてこれじゃあっという間に全滅してしまいそうだ。
何とかあの大蛇だけでも倒せたら、、。
完全に太陽も登った今、俺の攻撃手段の赤雷は切れてるし、、。
どうしよう、、と今更ながらに思ってしまう。
アイツはデカいけどさっきみたいに口の中からだと俺の腕力でもいけるかな?
俺はドラゴンに頼み事を1つしてから、真下の蛇に向かってナイフを構えて飛び降りた。
もしからしたら、これだけ高さがあればさっきみたいに外からでも刺さるかもしれない!と言う希望を込めて。
後は失敗しても、見るからにドラゴンより美味しそうな俺を見つけたボス蛇が俺を飲み込めばそれで大丈夫だ。
我ながら完璧な作戦。
「おいっ!ボスを食ったんだから卵ぐらい諦めて帰れぇ!じゃないと、俺がお前を捌いて飯にしてやるからな!!」
そして、飛び降りた俺が大蛇の鱗にナイフを突き立てた瞬間、カキーーンと言う高い音と、ゴギッっと言う鈍い音が鳴った。
やっぱり、落下の威力をつけてもただのナイフじゃ鱗は傷もつかなかった。
反対にナイフを持っていた俺の腕と、落下の衝撃で足が折れた。
痛みでそのまま大蛇の背中を転がり落ちる。
「ぎゃぁぁぁあ!痛った!!痛たたたたたっ。」
俺の決死のダイブが無残な結果に終わってしまった今、俺は地面で痛みに泣きながら骨折が治るのを待っていた。
く、くそぅ、、やっぱりダメか、、。
しかもいざ近づいてわかった事がもう1つ。
おそらくあの大蛇は、ある一定の距離まで近づいてきた物なら見ただけで石化する事ができる。
目を潰そうにも、こちらから近づけば蛇に見つかって石化されるから、ドラゴン達も手も足も出ない感じだ。
どっち道、遠距離からの攻撃力にかける俺達には分が悪すぎた相手だったみたいだ。
あのボスドラゴンでさえ無理だったのだから。
もうちょっと考えて飛び込めば良かったと、いつも後から後悔している気がする。
すると、この場で異質な俺(痛みでのたうちまわる俺)に気がひいたのか、大蛇が向きをかえて、俺の方にゆっくりと頭を向けてきた。
よ、よしよし、まだ足も腕も治ってないけど、これで俺が飲み込まれたら取り敢えずは作戦通りだ。
赤雷もない今の俺の力でどれだけできるだろう、、いや、やるしか無い!と、俺はナイフを握る手に力を込めた。
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