第26話 仮初の幸せ


「ご、ご、ご主人様?!」


「そうだよっ!ヒマリはミモリとスライムのご主人様。ウフフッ、なんでも私達に命令して良いんだよ?」

 なんか、やたらスリスリとよってきてくれるんだけど、なんか二人とも期待してない?


「じゃあ、そのご主人様ってのはちょっと、、今までどうりヒマリの方が俺は良いかも、、。」


「ええっ!!こっちの方が色々と雰囲気出るのに!!」

 雰囲気って、なんだよ。


 契約は無事結ばれたようで、二人は俺のものになった。

 まぁ、だからと言って、別に俺がこれから二人に何かを強制するつもりもないから、俺としては特に今までと何も変わらない。

 ただ、ミモリが言っていた通り、二人の事を前よりも認知(感じることが)できるようになった。

 今思えばカゲルもそうだけど、二人がどこにいるのかや、体調(魔力)の変化なんかを何となく把握出来る様になった。

 一番便利だと思ったのは、完全に意思疎通不可能だったスライムの心理状況を何となくだけど察知できた事だった。

 と言うか、スライムにも感情的な物があった事の方がビックリしたんだけど。

 なんせ、俺がスライムを撫でるとーー嬉しい!!と言う何かがムンムンと伝わってくるんだ。

 正直、こうなるとすごく可愛い。


 まぁそんなこんなで、忘れていたアスレスへの報告を済ませてから、俺は予定していた薬草採取に行くための荷物を手に持った。

 家族が増えたのなら、尚更稼がなくてはいけない。

 皆んな俺の為に全てをくれている、なら俺も出来る限りの事をしてあげたい。


「じゃあ行ってくるね。二人はお留守番よろしく。」

 行こうか!とカゲルに合図する。


「モモっ?!え?!やだよ!私達も一緒に行きたい!」


 元々から初めて行く場所だったし、何が起きるから分からないからミモリ達を連れて行くつもりは無かったんだけど、まさかのミモリがタダをこね始めた。


「いや、でもさ、何が起きるか分かんないし、危険な場所なんだよ。俺はまだ自分の事でいっぱいだからお前達まで守れる自信がない。」


「モモっ、良いじゃん!それでも行きたいよ!ヒーマーリー!!」


 さっきまでの、なんでも命令してね!はどこに行ったんだろう?


 まぁ、それでも今回は連れて行く訳には行かない。

 また俺のうっかりで危険な目に合わせるのは勘弁したい。

 それにミモリは妖精と言え、そんなに力は強くなかった筈だ。

 魔法もほとんど使えないと言っていた。

 スライムは、、まぁ、うん、そう言う事だろう。


 未だにずっと俺の顔の前でダダをこねているミモリと、さりげなく足にへばりついてアピールしてきたスライムを剥がす。


「本当にごめん。でも今回は初めてだし、我慢してよ。いつか絶対、お前達をしっかり守れる様になったら連れてくから。今は俺の帰ってくるこの部屋を守ってて下さい。」


 これじゃ、一体どっちが主人なんだろう。


「……分かった。、、モモ、その代わり、次連れて行ってもらう時はヒマリが私達を守るんじゃなくて、私達がヒマリを守れる程強くなってるから!」


 そう言ってミモリは腰に手を当てて頬を膨らませる。

 可愛いなぁ〜、と微笑ましく思ってしまう。


「ありがとう。じゃあ行ってくるね。」


 そう言うと、またミモリは俺のほっぺにキスをしてきた。

 もちろんスライムも、、、だ。

「いってらっしゃい。気をつけてね。」


 こうして、手を振るミモリとスライムを部屋に残して俺は宿屋を後にした。


 閉めた扉の向こうから、“「ねっ、今の私とヒマリのやりとりってまるで恋人みたいじゃないっ?!モモモモ、やっぱりそう思った?!いやーんっ!」”ってミモリの声が聞こえて、何だか平和だなぁと思った。


 ーーでもこの時はまだ、二人が俺と一緒に居たいと言う気持ちだけで、怒涛の成長を見せる事を俺は知る由も無かった。





「ここが、黒鳴くろなりの森か、、。カゲル、気を引き締めて行こう。」

「ワンッ。」


 俺は予定していた通り、“黒鳴りの森”と言う場所に来ていた。

 トトミアから比較的近く(俺が走って一日程、なので今は二日目の朝だ)、ギルドの六つに分類される危険度では上から四番目のオレンジゾーン。

 いつもの場所は一番下の白ゾーンだから、危険すぎず、ショボすぎずと言った所だろう。

 何より「森」と言う響きが薬草採取に向いていると思った。


 一応警戒してきたけどラッキーな事に、ここに来るまで冒険者仲間に会うこともなかったから、スムーズに来る事ができた。

 なんせここは一応、俺の立ち入りが禁止されている場所だしな。

 予定ではここで二日程探索し、三日後の夜にはトトミアに戻るつもりだ。

 俺は生い茂る植物と深い森に引き寄せられる様に、植物図鑑を片手に森へと足を踏み入れた。




「見てよ!カゲル!これってムキムキ茸じゃない?!あ、これも売れるやつじゃん!!」

「ワンッ、ワンッ!!」


 森に足を踏み入れてすぐ、俺達のテンションは急激に上昇していた。

 なんせそこらを見渡せばキノコや不思議な植物だらけ。

 それも図鑑に載っている換金出来そうな物ばかり。

 お目当の薬草、それも回復薬(中)になる薬草もある。


「こんな事なら最初から来れば良かったな!これを持ってきた袋に一杯詰めて帰ったら、銀貨三枚分(銅貨三千枚)にはなるんじゃないか?そしたらさ、たまには皆んなで美味しいものを食べに行こう!」

「ワンワンっ!!」


 思いのほか、、と言うか全然魔物も出る気配もないし、もしかして俺、もの凄くついてる?なんて思ってしまう。

 キノコや草を引き抜く時に口元の緩みを抑えきれない。

 今までその日を凌ぐだけの金しか手にしていなかった俺は、最早そこら辺の物が全て金に見えていた。




 〜〜知らない方が幸せ、そんな言葉を聞いたことがあったけど、それは結局自分の状況を把握しきれてないだけの仮初の幸せ。

 そして人は、後からそれ以上の不幸に遭遇した時に言うんだーーその事さえ、知っていれば、、って。


 後から考えると、やっぱり俺はバカだってんだ。

 ここに来るまで殆ど人に会うことがなかったのも。

 こんなに入りやすい場所に、金になる植物やキノコが取られることなく生えているのも。

 危険度指定されてるにも関わらず、全く魔物に会わないのも。


 この時の俺はまだ知らない。

 これはそう、ただの仮初の幸せだって言う事を。

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