〜冒険者になる!編〜 第17話 出発


「それじゃあ、行ってきます。」


 俺はもうすっかり過ごし慣れたアスレスの家の前で、俺を見送る為に出てきたアスレスとネノコに言った。


「ネネネ、くれぐれも無茶はしないでネ!ヒマリちゃんがいなくなると寂しいな。ネネネネ。」

 ネノコはこの1年で、俺の事を凄く気に入ってくれた様で、悲しそうな顔を見ると心が痛い。

 勿論、俺もネノコを(見た目の加減もあり)妹の様に思っている。

 俺の容姿は結局あれから変わってないから、並ぶと10歳程の兄妹みたいだ(とも勝手に思っている)。


「分かってると思うけど、スキルの事はバレない様に。私が天才で、いくら上手く抑えられたとはいえ、それはごまかし程度なんだからね!」


「うん!肝に命じてます。ネノコも、帰ってくる時はお土産持ってくるから。」

 アスレスがもしもの時のために、俺の髪飾りにスキルを抑える魔法をかけてくれたのだ。

 この髪飾りをしている間、俺のスキルは抑えられて、他人から見ると自己回復(中)程になるらしい。

 まぁ、首が飛んでも治ってしまうから、そこはあくまで見せかけてるだけ。

 気をつける事には変わりないんだけれど。


「じゃあカゲル、ヒマリの事を頼んだわよ。」

「ワンワン!」


 手乗りサイズから、中型犬程に大きくなったカゲルは、任せておけと言っている様に、俺の横でモフモフの尻尾をブンブン振っている。


 全く、、面倒見るのは俺の方なんだからな!


「ネネ、じゃあセントラルのギルドに1番近い根まで送ってあげるネ。」


 そう言うと、ネノコは俺の頬っぺたに、チュッとキスを落とした。


 瞬間に足元から太い根が生えて俺とカゲルを包み込む。


「じゃ、行ってらっしゃい!仕事の方もよろしくね!」


 根で覆われる視界の隙間から2人が手を振っているのが見えて俺も手を振り返す。


「分かってるよ!じゃあ行ってきまぁーす!!」

「アオーーーーーォン!」


 そしての視界は根に閉ざされた。


 ようやくこの時がきた。

 万全とは言えないけれど、やっとマリーを探しに行ける。

 もう少し待っていてくれ、マリー!!




 ***


 ここは、この世界で“セントラル”と言われる数10の小国が集まってできた1つの連合国、ーーその中の、1つの小国だった場所。


 遥か昔、山頂に立つ美しい城とその下に広がる下町、透き通る小川とその先に広がる美しい湖は水面に城を写し込んで、そのあまりの美しさから妖精の国と言われた程だった。


 しかし今は人1人愚か、美しい鳥や魚さえ見当たらない。

 朽ちた町と、凶暴な魔物の巣と化した湖には濃い毒霧のせいで太陽の光すら映してはいなかった。

 城へ続く美しい山道は見る影もなく、城を残して削り取られた山のせいで、断崖絶壁に取り残された城は空でも飛べない限り到底たどり着く事はできない。


 ーーいや、空を飛べたとしても、この城に近づくこうとする者は居なかった。

 何故ならこの城は、この国が滅んだと同時に魔王イーシュヴァルブの住処となったのだから。



 その城の、一際広い元王座の間は今も朽ちる事なく、床に敷き詰められた金銀財宝や大小様々な美しい色の宝石で、埋め尽くされていた。

 玉座があった場所に生えた巨大な結晶に腰かけるのが今のこの城の主人。

 魔王ーーイーシュヴァルブ。


 見た目は三十代程、上品なスーツを着こなし、黒に近いグレーの髪はさらさらで、少し長めの前髪すら気品に変わる。

 美しく怪しいヴァイオレットの瞳は、片方が眼帯で隠されているが、それでもこの部屋にふさわしい美しい顔立ちをしていた。


「ミクル。」


「ーーはい。ここに。」

 結晶の影からメイド服をきた美女がスッーーと現れた。


「アマカゲルがやられた様だ。ーー他の魔王、、ではないな、、。面白い。そろそろ私の力も回復してきた事だ、久々に遊んでやろうじゃないか。」


 そう言って手に持っていたグラスの酒を飲み干した。


「かしこまりました。」


「適当にあぶり出せ。まぁ、すぐに壊れる様なら壊して構わない。所詮は暇つぶしなのだから。」


「はい。」


「フッーー、せいぜい退屈凌ぎにはなって欲しいものだな。」


 そう言って彼は美しい顔に笑みを浮かべた。

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