第25話 奇跡そして契約
「痛ったぁ!!!」
と反射的に言った時には、既に痛くもなんとも無くなってたけど、体感的には結構ぶつけたと思う。
普通なら大きなコブができてただろう。
こんな時、このスキルは本当にありがたい。
俺が倒れてすぐに、ーーゴトリと瓶の倒れる音がして、目の前をまるでスローモーションの様に苔玉(ミモリ)が落ちていく。
俺の出した手は虚しく空をきって、ミモリはポトリと落ちた。
それも、なんでここにいるかも分からないスライムの上に、、。
「えっ?なんでここにスライムがっ?!」
てかコイツを踏んで滑ったのか、、。
スヤスヤ寝ていたカゲルも、俺が盛大にぶつけた音でビックリして飛び起きた様で申し訳ない、、。
ミモリを早く元に戻さないとーー、とスライムに手を伸ばした途端、そのスライムにゆっくりとミモリが沈んでいった。
「え゛っ??!」
も、もしかして、た、食べられた、、?
「えっ?!ちょ、ちょ、ちょ、ちょ!!待って、待て、待て、待て!!」
半透明の水色スライムの中に、まだミモリの苔玉が見える。
今ならまだ取り出せるか?!とスライムに手を突っ込んでみるけど掴めない。
見えてるのにまるでそこに無いみたいだ。
どどどど、どうしよう??!!
俺が焦っている間も、ペチャリと変形していたスライムは、まるで何にも無かったかの様に、またいつものもっちりとした形に戻って、モソモソと動き出した。
その後も結構な時間、俺はミモリを助け出そうとスライムに手を突っ込み続けたけど、結局明け方になってもミモリを取り出す事は出来なかった。
「ど、どうしよう、、。」
完全にお手上げ状態で、俺が座り込んでいるとカゲルが俺の頬っぺたを舐めて慰めてくれる。
「ミ、ミモリが、、俺のせいで食べられちゃった。」
相変わらずスライムは俺の足の前でモソモソと動いている。
「こんな事になるならもっと足元に気を付けておけば良かった、、。ぅっ、、ごめん、ごめんなさいミモリ、、。全部俺のせいだ、。」
俺はまた泣いた。
泣いてどうこうなる訳じゃ無いけど、涙が出てくるんだもん。
「モ、、、、マリ、、。ヒマリッ!!」
はぁ、ついにはミモリの声の幻聴まで聞こえる。
「モモモモ!ヒマリ!!」
顔を上げると目の前でフヨフヨと飛んでるミモリが見える。
幻聴だけでなく、幻覚も見えてるみたいだ。
……また、泣けてくる。
「いつまで泣いてるのよ!モモモモっ!」
そう言って幻覚だと思っていたミモリが俺の頭をペチペチと叩いたのが分かった。
「へ?ミモリ、生きてる?!」
「ワンッ、ワンッ!」
よく見てみると、半透明だったミモリの体は今は透けてなくて、完全に実体化している。
でも、未だにスライムの中でミモリの本体も見えている。
な、何がどうなってるんだ?!
ーーミモリ曰く、このスライムの中は魔力で満たされた水に近い環境なんだそうだ。
勿論スライムは、本能と言うか反射でミモリを分解しに来ているらしいけど、それよりもこの魔力で満ちたスライムの中だとミモリの成長の方が弱感早いらしい。
だから分解されず、逆にミモリの方が絶えず魔力を補給できているから、こうして完全に実体化も出来る様になったらしい。
スライムも良質な餌であるミモリを食べれているので喜んでいるんだとか。
所謂、共生の状態になっているそうだ。
完全に2体の魔力関係が釣り合ったからこそ今の状態へとなったらしく、本来ならばどちらかが死ぬか、2体共死んでいただろうと言っていた。
「モモッー!すごいよっ、ヒマリ!完全実体化なんて最低でも後100年はかかると思ってたのに!!これは奇跡だよっ!!モモモモっ!!」
俺は、逆にミモリが死んでいたかも知れないと思うと喜べないというのが本音だった。
ただ本当に無事で良かった。
「お前も、、ごめんな。」
そう言ってスライムを撫でてやると、スライムの身体がポヨヨンと波打った。
「気にしてないよー!だって、モモッ。」
……本当にそんな事言ってるのか・・?
そんなこんなで、偶然が偶然を呼んで、そして小さな奇跡になった。
でも、まさかの話はそれだけでは終わらなかった。
俺からしたら、ミモリやスライムが無事という事だけで十分だったんだけど、ミモリ達はそうじゃ無かったらしい。
「モモモ、ヒマリ、あのねっ!私達と契約して欲しいの!」
「け、契約?」
でも俺は基本契約できないんじゃ、、。
それに、一体何を契約する事があるんだろうか?
「そう!そこのカゲルみたいに、私達をヒマリのモノにして欲しいの!モモモモッ。」
「えっ、、?!な、なんで?」
理由が、、よくわからない。
「なんで?って、、モモ、ヒマリは私達と一緒にいたくないの?私達はずっといたい!それに、ヒマリと離れてる時も、ずっと一緒っていう切れない繋がりが欲しいの!ずっと、ヒマリを感じてたい!」
凄み過ぎて、普段可愛いミモリの顔が怖い。
「俺もいたいけどさ、わざわざ契約しなくてもずっといるよ。それに悪いんだけど、俺は契約が結べないらしいんだよね、、。」
そもそもなんだ、、。
気持ちは嬉しいけど、俺はスキルのせいで契約できない。
気持ちだけ受け取る感じで、、それでもずっと一緒にいようなーーと、目の前の2体に言う。
すると今度はミモリが盛大にため息をついた。
「モモッー、ヒマリ。妖精の申し出を断る者なんて普通いないんだからね。それに、ヒマリの言ってる“契約”って言うのは相互で何かを取引する場合に結ぶモノでしょ?私達が望む契約はそれとは全く別物。」
「別物?」
そんなものが、あったんだ。
「そう、私達はヒマリに何も望まない。モモ、だだこれから先、私達はヒマリのためだけに存在する。貴方が死ねと言うなら死ぬ。勿論ヒマリには何のリスクもない。モモモモ、私達は契約後、たとえ道具にされてたとしても、喜んでこの身を、力をささげる。ヒマリの完全な支配下に入る。これはそう言う契約。」
「えぇっ!?……え?死、、ぇっ?」
言ってる事が無茶苦茶過ぎて理解が追いつかない。
そもそもそんな一方的なもの契約とは言わないんじゃ。
それに、俺はそこまでして貰えるほどの事は何もしていない。
今回は偶然そうなっただけで、本来なら危険な目に合わせていた事に間違いはないんだから。
「だ、ダメダメ!ダメだよ!そ、そんな事できない。一時の感情で、、そんな契約しちゃダメだよ。俺は君達に選ばれる様な奴じゃないんだよ。それに、そんな契約したら俺はただのヤバイ奴じゃん?!」
なんて恐ろしい事を提案してくるんだ、ミモリは。
てか、ミモリが私達とか言ってるけど、スライムもなの?
本当にスライムがそんな事言ってるのか?
無理矢理付き合わせてるんじゃないよな?
目の前でポヨヨンと揺れるスライムを見て、、なんて言っていいのか、、言葉が、、出ない。
「いいじゃない!私達がそうして欲しいんだから!」
「いやいや、スライムの事も考えろよ。巻き込まれてきっと困ってるよ!」
「そんな事ない!この子もノリノリだよ。モモモモ、ね?そうだよね!そうならヒマリにも分かる様に動いてよ。」
ミモリがそう聞くと、スライムはこれでもかと言うぐらいにポヨヨンと波打った。
……ま、マジで?
「本当に、2人はそれで良いの?」
「勿論よ!」
「俺、頼りないし、バカだし、弱いし、男っぽくないし、、。」
なんだかちょっと、自分で言ってて悲しくなって来た。
すると2人は俺の正面に来て足元に跪いた(スライムは分かんないけど、ミモリの横に並んでた)。
「そんなヒマリだから一緒にいたい。ヒマリ様、私ミモリ=ディルグリーンと契約して下さい。貴方に、私の全てを捧げます。」
ポヨヨンポヨヨンポヨヨヨーン。
きっとスライムも同じような事を言っているんだろう。
そこまで言わせて、お前達のことを考えると無理だとは言えなかった。
「こ、こちらこそ、よろしくお願いします。」
俺がそう返事をすると、俺と2人の足元に見たことのない魔法陣が浮かび上がって来た。
「な、な、な、なにこれっ?!」
見ると俺と2人の間に鎖が現れて、それが俺の手と2人についた首輪に繋がった。
「あ、ああっん、、っ。」
なんか途中信じられないぐらいミモリからやらしい声が漏れた気がしたけど、俺は気づかないフリをした。
激しい光を発していた魔法陣が消えていくと同時にーースッと俺達を繋いでいた鎖も消えてしまった。
「お、終わったの?」
俺の横で、シレッと脚で頭を掻いてるカゲルを見てみる。
何にも気にしてない様だ。
部屋にも俺にも特に変わった様子はない。
2人を見ると、なんだかやけに顔を赤く染めたミモリが、嬉しそうにニコリと微笑んだ。
そんなに嬉しいなら良かったーーと、その笑顔を見て思った瞬間にミモリが俺の唇にチュッとキスをした。
えっ?!ーーと思ったのも束の間、今度は俺の顔面に向けてスライムが飛び込んできた。
それはいつぞやのパイ投げ祭りの時の様に、ブベチャァァ!!と。
窒息する!と顔面にこれでもかとへばりつくスライムをなんとか引き剥がして顔を上げるとミモリがまた嬉しそうに笑った。
「えへへっ、幸せっ。これからよろしくね、ご主人様!!」
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