第23話 初仕事
「あれ?お姉さん、受付担当こっちに変わったの?」
朝から早速、俺は依頼を受けるためにギルド本部の受付に来ていた。
ランク別に分かれた受付窓口なので、隣の窓口と違って人数の少ない俺の所は順番待ちすらないみたいだ。
と言うか、最早俺だけなんじゃ、、。
見ると、昨日登録してくれたお姉さんが、そこの窓口に腰掛けていた。
「あ、お、おはようございます。この窓口は利用者が少ないので、登録窓口と兼用で担当する事になりました。よ、よろしくお願いしますねっ。」
担当することになりました、、って事はやっぱり今まで利用者はいなかったんだ、、。
受付のお姉さんはリリィさんと言うらしい。
リリィさんも俺と同じでここで仕事を始めたのは最近なんだそうだ。
お互い初心者同士仲良くやっていこうと、俺たちは早速打ち解けた。
早速、ギルドに届いている依頼内容を見せてもらうと、1件だけ依頼が来ているみたいだ。
え、少なくない?とも思いつつ内容を確認する。
「トトミア周辺に生息している、薬草の採取ですね!」
おぉ、冒険者ってこんな事もやるんだな!と言う事で、俺は早速その依頼を受ける事にした。
報酬は収穫量に応じて、依頼者から直接渡されるらしい。
見ると依頼主は、俺の宿の近くにある薬屋の名前が書いてあった。
時間があると言ってくれたリリィが、トトミア周辺の地図と植物図鑑を引っ張り出してきて、採取場所と指定の薬草のイラストを見せてくれた。
嬉しい事に、指定された薬草が取れる採取場所は、トトミアを囲う外壁のすぐ横に広がるトトミア草原のようだ。
「こ、ここはEランク冒険者の立ち入りが許可されている場所です。出現する魔物も少なくて比較的安全ですよっ!」
頑張りましょう!と言ってくれるリリィさんには申し訳ないど、できれば魔物の情報が欲しいんだよなぁ、、。
後から知ったんだけど、冒険者ギルドはある程度特殊な地域、地帯別に危険度を設定していて、冒険者ランクによってその立ち入りを制限しているそうだ。
危険度が高いほど生息する魔物の強さも強く、高ランクの冒険者しか入る事ができない。
まぁ、そもそも好き好んでそんな場所に入る人はいないし、そのおかげで比較的自分の実力に合った場所で仕事ができるというわけだ。
地図に書かれた危険度の高い場所をリリィさんには悪いけど、俺はこっそりと確認しておく。
勿論、暇ができればすぐにでも行ってやるつもりだ。
リリィさんが、薬草を入れるための籠をギルドで貸し出していると言ってくれたので、俺はお言葉に甘えて借りる事にした。
それをリリィさんが取りに行ってくれている間、俺は近くのベンチにカゲルと一緒に座って待っていると、、。
「おい、みろよ!昨日新人で入ったアイツ、もう勧誘の奴らが囲んでるぜ!」
「良いよなぁ、素質のあるやつは。最初から個人ランクCだとよ!」
「俺らのチームに入ってくれねぇかなぁ、、。」
「無理に決まってんだろ?アイツもきっと未来の英雄なんだからな!」
なんて声が後ろのベンチから聞こえてきた。
そいつらの視線の先を見ると、高ランク窓口の所に昨日の“双剣クール王子様モドキ”が大勢の冒険者に囲まれていた。
どうやらチームへの勧誘を受けているらしい。
元々チームに入る気のない俺は羨ましくともなんともないけど、認められ期待されているソイツの様子に、素直にすごいなぁと思った。
その声が漏れていたらしく、後ろで喋っていた冒険者達が俺に気付いて、とても気まずそうな表情をした。
なんだか虚しくなるからやめて、、と言いたい。
「お、お前は無理せずが、頑張れよ!」
「薬草採取か?気をつけろよ!」
なんて言いながらささっと席を外していく。
そんなに急いで離れなくても、俺はチームに入れてくれなんて言わないから大丈夫なのに。
俺は、リリィさんが持ってきてくれた籠を背負ってトトミア草原までやってきた。
と言っても町の門を出てすぐなんだけど。
一応最初だから、書き写した絵を手に持って目的の薬草を探す。
薬草は思いの外、あっさりと見つかった。
それも大量に。
俺はカゲルと一緒に、そこら辺に生えている薬草を引っこ抜いては籠に詰め込んだ。
それが楽しくて、ついつい薬草の生えている方に移動していくうちに、最初は道沿いでとっていたはずが、少し道から外れた場所まで来ていたみたいだ。
とは言っても通過人を目視できるほどだけど。
見ると籠に半分ほど薬草が溜まっていた。
結構時間がかかるな、、。
薬草は根から抜いても掌程の大きさだから、中々籠いっぱいにはならない。
ーーガサガサっ。
少し休憩しようと座り込んでいると、近くの茂みが揺れた。
ーーなんだ?
目を凝らして茂みを見ていると、モソモソッーーと、ゼリーの塊のような物が出てきた。
な、なんだコレ?
カゲルは向こうで虫を追いかけて遊んでいるままだから、きっと大した物ではないんだろう。
それはゆっくりと俺の方に寄ってくる。
ま、魔物だよな。
それはそのまま俺の足首にひっついたまま動かなくなった。
痛くもないし、痒くもない。
ただ冷んやりとしていて、動くにはちょっと煩わしい、、って程だ。
指で押すとプニプニとしていて、コレはちょっとクセになりそうな感触だ。
余りにも無害すぎて、殺してしまうのが可愛そうだと思った俺は、その魔物を引き剥がして、また薬草採取に取り掛かった。
「あぁぁぁ!!もう!ちょっと離れてくれないかな?!」
あれから時間が経つにつれて、奥からどんどんとこのプニプニとした魔物が俺に集まってきた。
ただひっつくだけだけど、なんせ、邪魔だ。
1つ1つはそんなに重くなくても、それが何10匹となれば身動きすら難しい。
俺と違って、カゲルは体表に赤雷を薄く纏っているからだろう、本能的に察知しているらしいその魔物は見事にカゲルには寄り付かない。
その日俺は、草を毟っては、魔物を剥がし、ほり投げ、また草を毟ってる間に身体にたかってくる魔物を剥がしては、投げると言う事を繰り返した。
おかげで籠を薬草でいっぱいにするだけで、夕方までかかってしまった。
な、なんて依頼なんだ、、これは。
さぞかし、高額報酬だろう!と1人勝手に期待する。
疲れる事ない俺だけど、ある意味、薬屋に着いたときにはヘロヘロだった。
しかもあれだけ頑張ったにも関わらず、籠1杯分の薬草は銅貨30枚にしかならなかった。
俺は1日かけて、宿代を稼いだだけだった。
その事に、ほんの少しだけ世間の厳しさと心の虚しさを感じた俺だった。
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