第18話 俺は冒険者になる


 視界が明るく開けたと思うと、そこは見知らぬ森の中。

 周りの明るさや木の大きさ、雰囲気からもクルギの森ではない事が分かる。


 足元に沈んで消えていく根の一部がある方向を指して合図していたから、きっとそっちに行けと言う事なんだろう。


「じゃあ行こうか、カゲル。」

「ワオン!」




 道無き道を少し進むと、カゲルがヴヴゥーと前方を見て唸り出した。

 俺はそれを見て、腰にさしていたアスレスがくれたダガーナイフに手をかける。

 これはカゲルが魔物などを感知した時の仕草だ。


 身を低くして移動し、茂みから覗いてみると3体のゴブリンが木のみを食べていた。


 残念ながら避けて通れる場所もなさそうだ。


「ゴブリンか、仕方ないな、、カゲル行くぞ。」


 そう言って俺が勢いよく茂みから飛び出すと、ゴブリン達は慌てた様に俺の方に振り向いて、直ぐに牙をむいて向かってきた。


 完全に俺に気が向いているゴブリンの背後の茂みに回り込んでいたカゲルが、その内の1体に飛びかかる。

 完全に不意を突かれたゴブリンはそれにあっけなく捕まった。

 噛み付くと同時にカゲルの身体から走り落ちる赤雷にゴブリンは一瞬で黒焦げになった。

 その隣にいたゴブリンも赤雷を少し浴びたらしく既に半身が火傷になり地面に転がった。


 残った1体は気が動転しながらも、俺に向かって走ってきたから、俺はそれを軽々と避けて手に持っていたダガーナイフでゴブリンの首を切り落とした。


 切り落とした首が地面に落ちた音を聞いた時には、さっきまで地面でバタバタとのたうちまわっていたゴブリンも既にカゲルが灰にしてしまっていた。


「ふぅ〜、なんとか大丈夫だったな。お、よしよーし、良くやったぞ、カゲル!」


 嬉しそうに、褒めて!と尻尾をブンブン振りながら俺の元に帰ってくるカゲルの頭をよしよしと撫でてやる。


 そう、俺はこの1年で何とか魔物と戦う術を身につけることができた。


 本当に身についたのか、、と言うと少し怪しいんだけど、、。


 1年前、俺はマリーを助ける為に必然的に必要となってくる戦闘訓練を、ネノコとアスレスにしてもらえる事になった。


 当初は、俺のスキルを他人に悟られない様にする為、魔法での遠距離攻撃を主体とした戦い方をアスレスが提示してきた。


 ・・・ところがどっこい。

 俺には壊滅的に魔法のセンスが無かった。

 おまけに魔力量もめちゃくちゃ少ないらしく、とてもじゃないが戦闘に使う云々ではなかった。


 じゃあどうするんだと、泣いて転がる俺にネノコが“「ネネネネ、これなら仕方ない。近接戦で戦える様になるしかないよ。」”と言ったのをきっかけに俺は再び剣を手に取った。


 ・・・だけど、またまたどっこい。

 魔物の身体は硬く、俺には剣で相手を斬れる程の筋力がなかった。

 身体が小さくなった分、身体能力も相応に落ちていた。

 でもこれは仕方ない、ならば筋トレだ!!と男らしくトレーニングを始めて3ヶ月後、仕事から帰って久しぶりに会ったアスレスに、全く筋力の上昇がない事を指摘された。


 それまで付き合っていてくれたネノコも、そして俺も薄々感じていたが、アスレスによると、おそらくスキルによる再生が起こると同時に、再生されるセットポイントまで身体の変化が全て戻るのだろうという事だった。

 些細な事でもスキルが発動すれば、瞬く間に俺の体はある意味元どうり。

 背も伸びなければ、腰まである髪も切れない。

 なのでいくら筋トレしても、軟弱ヒョロヒョロのままだという事だった。


 俺はまた泣いた。


 ただエサ食べて走り回っているカゲルの方が、あっという間に強くなっていく。


 それでもめげずに、ネノコが作り出した根のゴブリン相手に剣を振っても俺の筋力では、かすり傷程度しかダメージを与える事ができなかった。

 追い討ちをかける様に、その様子を見ていたアスレスが“「それじゃゴブリン1体に半年はかかるわね、、。」”と言って俺はまた泣いた。


“「ネネネネ!カゲルを支配下に置いてるんだからカゲルに戦わせたら?」”と言うネノコの提案もあったが、それだけはやりたくなかった。

 元魔王とは言え、アイツはこの前生まれたばかりの子供だし、今は家族だ。

 それにカゲルは俺より戦えるとは言え、スピードも、赤雷の範囲も威力も以前とは比べものにならない程弱く小さくなっていた。

 特にダメージに弱く、小さい体ではオーク級の魔物の攻撃を1発もらうだけで、3日間動けなくなった時には、俺は3日とも泣き続けそれが今もトラウマになっている。

 そして何より、マリーにあった時に俺は影に隠れて子犬に戦わせていたら、それこそどんな目で見られるかわからない。

 出来るだけ自分の力で助け出したいという俺の意地だ。


 時間は待ってくれないと、泣く泣く剣を振り続けていた俺だが、それから1ヶ月後、突如天才的なアイデアが降ってきた。


 それが、この自分の剣にカゲルの赤雷を蓄積させた状態で攻撃するというものだ。

 前にアマカゲルが俺の武器を壊した時に、咥えていた武器に赤雷を纏っていたのを思い出したんだ。

 自分では(魔力やセンスの加減で)武器に魔法を付与できなかったため、無理やりそれをカゲルにしてもらう事にしてみた。

 後にアスレスに聞いたんだけど、前にアマカゲルを倒した様な属性魔法が武器自体に備わった武器は物凄く高価な物で、俺の魔力量で扱えるものとなると更に条件が難しいらしく、諦めざるをえなかった。


 話は戻って、俺には赤雷耐性のスキルがあるから、カゲルの赤雷は効かない。

 最初は加減が出来ずに、逆に剣が灰になっていたけど、徐々にカゲルも感覚を覚えてその1ヶ月後には2分程度なら剣の形を保ったまま赤雷を帯電させる事に成功した。


 そのおかげで、俺は筋力の無さを補って魔物を切断、と言うか赤雷補助によって容易く焼き斬る事に成功した。


 そこから更にアスレス達と思考錯誤を重ねて、俺の身体の一部を媒体にした軽さを重視し、かつ赤雷耐久力を兼ね備えた剣を作ってもらった。

 それにより、より強力な赤雷を長時間留める事に成功した俺はネノコが作った大型の魔物も仕留める事が出来る様になった。


 元々長いアマカゲルとの戦闘で、俺の動体視力と動作予測(と、言うとかっこいいけど、所謂こう来るだろうな、、と言う勘)はこの時点でずば抜けていたらしい。

 後は、俺の雀の涙程の魔力でも発動してくれると言う、身体能力向上の魔導具を有難い事にアスレスが譲ってくれたのだ。


 これで、ある程度思い通りに動く身体と、攻撃手段を手に入れた俺は、残りの半年間他人にスキルがバレない様に、ひたすら“自分に効かない攻撃”を避けながら相手を仕留めると言う無駄だが必要不可欠な訓練をし続けた。

 とは言っても、怖い思いをしないで済む!という事が現実的に1番有り難く、俺のモチベーションを結果的にグングンとあげてくれたおかげで、ネノコの作り出す擬似魔物の攻撃は、ほぼ完全にかわす事が出来るようになった。


 おかげで、カゲルが出来るだけ前に出る事なく、何かあってもすぐに治る俺が前線で戦える戦闘スタイルを取ることができた。


 まぁ、ぶっちゃけ言うと、カゲルが戦うのが1番早い事に変わりないから、相手に安全に勝てると判断した時のみ、今の様にカゲルにも一緒に戦ってもらう事にしている。

 とは言え、カゲルの事もバレるとまずいから、人目のある所ではあまりさせられないのだけどね。



 という訳で、俺は戦える様になったと思っている。

 だって昔に比べたら凄い成長だと思う。

 まぁ、カゲルが居なければ自分の攻撃力がなさ過ぎて壊滅的に何もできないんだけど。


 俺は足元に転がった、切断面だけが焼け焦げたゴブリンの死体から採取出来る素材を剥ぎ取った。

 町で魔物の素材は売れるらしく、今後の生活の糧にしなければならない。

 残りの2つは最早消炭になっていて、剥ぎ取るどうの所ではなかった。

 カゲルが申し訳なさそうにクウーーンとないたので、気にしなくていいよと頭を撫でてやる。


「よし、実戦もなんとかいけそうだなカゲル。このまま冒険者ギルドまで一気に行くぞ!」

「ワンワンッ!!」


 俺はやはる気持ちに押される様に、木々の先に見えた道に駆け出した。

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