第37話 ただいま


「いやぁ〜、本当に助かった〜〜。本当にありがとうな。」


 俺は気持ちのいい風に吹かれながら、自分をすっぽり包んでしまうほどの布切れを握りしめた。


 無事に全ての卵の羽化が終わって夜が明けた頃、予定よりも遅れてしまったけどトトミアに帰ろうと準備(葉っぱを身体に引っ付ける)を進めていた俺に、どこからともなくドラゴンが布を持ってきてくれたのだ。


 な、なんて空気を読めて、気の利く奴なんだ。


 俺は有り難くその布を頂戴し、中途半端についた葉っぱを取り払って体に巻き付けた。

 こ、これで安心して帰れる。


 乗せてくれるというドラゴンに甘えて、カゲルが森の中から見つけてきてくれたキノコの入っていた袋を背中に乗せる。


 残念ながら、昨日の戦いでここに入っていたキノコや薬草は炎で焼かれて売り物にはできそうになかった。

 遠火でじっくり、袋の中で蒸されていた薬草とキノコからは、それはそれはめちゃくちゃ旨そうな匂いがする。


 帰ったら皆んなで食べよう。

 これも節約だし、スライムやミモリなんかは喜んで食べそうだ。

 気持ちばかり、手で握り込めるほどの薬草を摘んで来たのは、トミさんにお土産に渡そうと思ってだ。

 流石にこれだけ町を空けて何にも無し(キノコだけ)じゃ、何しにいったんだよ!ってなるしな、、。

 次からはここを拠点に使えそうだし、その時にまた取りに来れるだろう。


「じゃあ皆んなありがとう。また時々こっちに来るから、その時はよろしくな!」


 足元に寄ってくる子供達を離してから、ドラゴンの背中に飛び乗る。


「知ってるかも知れないけど、冒険者、、人には自分から手を出すなよ。俺が思ってた以上に冒険者は強いみたいだからさ。攻撃されたら、まぁ、、、程々にやり返しても良いけど、なんかあったらいつでも俺に教えてくれよ。ここが襲われない様に掛け合ってみるからさ。」


 俺の呼びかけにドラゴン達から了承の意思が返ってくる。


 そうだ、、こんなやばい森を危険度オレンジ設定にしている様な人達なんだ。

 ここに来て駆除なんてされたら、たまったもんじゃない。

 どうにかこれもギルドに掛け合ってみるしかないか、、。


「じゃ、ありがとう!またな!!」


 そう言って俺はドラゴン達に見送られて黒鳴りの森を後にした。




「やっぱり空を飛べると速いなぁ。」

 走っても1日かかる所が、たった数時間でトトミア近くの林に着いた。


 人間が沢山いる町にいきなり下りてもらうのも気がひけたから、林の中に下りてもらうことにした。

 町にはまだ魔物が苦手な人も多いだろうし、ギルドがある以上契約も交わしていないドラゴン達をどうされるかも分からない。


 まぁ、お披露目は後々って感じかなぁ。

 ヒックなんかは腰抜かすんじゃないか?なんて思うと悪い笑いがこみ上げてくる。


「よっ、、と!」

 地面についたドラゴンの背中から飛び降りて荷物を下ろす。


「本当にありがとうな。またお前達が安心して町まで来れる様になったらちゃんと連れていくから。」


 そう言って撫でると、ドラゴンは森に戻っていった。


「じゃあカゲル、、帰ろう。」

「ワンッ!!」


 森を抜けて見慣れた草原に出ると、数日しか空けていないはずのトトミアが懐かしく思えた。


 取り敢えず早く帰って、シャワーを浴びて服を着たい。

 宿が近づくにつれて考える事はこればっかりだ。

 若干、通行人の俺を見る目が痛いけど、それも無視してギルドのある区画まで早足で歩く。



「お、おまっ、、ヒマリ!!ヒマリか?!ヒックと嬢ちゃんに知らせてやれ!!心配したんだぞ!!!」


 ギルド区画に入った途端、ギルド内で見たことのある冒険者の1人が駆け寄ってきてそう叫んだ。


 知らせる?なにを?心配?

 オーバーリアクションな目の前の奴に正直戸惑ってしまう。

 早くシャワーを浴びたいから軽くあしらってその場を離れようとしたけど、更に周りに集まってきた冒険者仲間に囲まれてそれどころじゃなくなった。

 なんでか泣いてら奴もいる。


 えっ!?な、なに?この状況。


 しばらくして、ギルド本部の方からヒックとリリィさんが走ってきた。

 リリィさん、、なんであんなに泣いているんだろう、、、、。


「ヒマリよぉ〜〜!!お前、心配かけさすんじゃねぇよ!急に居なくなりやがって!なんもしてやらなかった俺達も悪いけどよ、せめて先輩に相談ぐらいしに来いよ!」

「そうですよ、ヒマリさん!私は貴方の専属受付嬢なんですよ!せめて相談してからにして下さい!はぁぁ〜〜本当に、、良かったですぅ〜!!」


 そう言いながら俺に飛びついて来た2人。


 え?なんの話?相談?

 数日仕事空けただけなんだけど、どうなってるんだ?

 別に、依頼を受けるかは本人次第で良いらしいし、それ以外は自分で休む日を決めるスタイルって聞いたんだけど。


 俺が戸惑っているのを見て、横にいたマサさんが俺の肩を叩いて言った。


「こいつら、急に居なくなったお前を心配してたんだよ。今は丁度、魔物が荒れる時期だったから特にな。格好は、、よく分からないが、、とにかく無事で何よりだ。」


 な、なるほど、、俺が何にも言わずに数日町を出たから心配してくれてたのか。

 ってか、そこまで気にかけてくれてたの?

 特にヒックとかそんなそぶり今まで無かったのに。

 でも俺に抱きついて泣いてる2人を見ると、別に悪いことはしてないけど申し訳ない気持ちになった。

 次からは気をつけよう。


 場も落ち着いてきて、集まっていた冒険者達が散っていった頃、ヒックが俺に聞いてきた。


「まぁ、無事だったからいいけどよ。お前なにしてたんだよ?てか、背中の袋からめっちゃいい匂いすんだけど。」


「何って、、言われても、。薬草取りに行く筈が色々大変だったんだよ。服もさ、燃えたり、溶けたりで無くなっちゃうし。」


「や、やっぱり?!薬草を取りに行ってたんですね!?」


「ま、まぁ、、。結局、キノコばっかりになっちゃったけど。」


 俺は袋の口を開けてキノコを見せる。


「なかなか、、結構な量だな。てかお前どこ行ってたんだよ、服溶けるって、、。それに、こっちも大変だったんだぞ!凶暴化したジャバウォックに、バジリスクまで来てよ、何とか皆んなで討伐できたんだけどな。いやぁ〜お前にも俺の勇姿を見せてやりたかったね!」


「ヒックさん活躍されましたもんね!ソウヤさんも大活躍で、今晩はギルド本部でお祝いの宴会があるんですよ!冒険者はタダなのでヒマリさんも是非来てください!」


 ジャバウォックに、バジリスク?!強そうな名前の魔物だなぁ。

 それに討伐祝いの宴会かぁ。

 こっちもなかなか大変だったんだな。

 そんな中で心配させて申し訳ない、、。


 所で、、ソウヤって誰だ?


 そんな事を考えていると、俺の肩を誰かが掴んだ。

 振り返ると、、。

 え゛?!双剣クール王子様モドキ!!


「ーーふん。無事とは言い難いなりだが、無事に帰って来たんだな。弱いくせに、あんまり周りに心配をかけさすな。」


「ソウヤさん!!」


 リリィさんがそいつを見てそう言った。


 え゛!?コイツが、、ソウヤ?!

 てかコイツ、、何?!久しぶりに話しかけて来たと思ったらそれ?

 ちょっと大活躍したからって、俺だって大変だったんだぞ!ーーと言ってやりたい。


「それよりもお前、臭うぞ。早く風呂にでも入ってこい。周りに迷惑だ。」


「ちょ、お前、いくらなんでも言葉を考えてから言えよ。」


 ヒックの言葉には返事もせずに、鼻で笑ってからソウヤは行ってしまった。


 何なんだ、、アイツ。

 と言うか、わすれてた!

 俺シャワー浴びたかったんだった。

 逆に言ってくれて良かった!


「あ、じゃあ俺本当にシャワー浴びたかったから宿に戻るね。」


「分かりました!じゃあまた夜に本部二階の大ホールで待ってますね!!」


「うん。じゃあまた後で!」


「薬屋のおっさんもお前の事心配してたから、後で顔出しとけよ。」


「了解。」


「あ、あと、ヒマリさん!おかえりなさい!」


「うん!ただいま。」


 そんなこんなで、俺はようやく念願のシャワーを浴びに宿に帰る事ができた、、のだけど。



「ヒマリ君!待ってたよぉ〜!おかえりっ!」


 宿屋のマスターが俺に縋り付いてきた。


「あ、ただいま帰りました。」


 またこのノリか?


「ちょっと困ってるんだよ〜。君が留守にしてから君の下の部屋の客から苦情が来ててね、、。」


「苦情?」


「何でも、君の部屋から水が滴って来てるらしいんだよ。君の上の部屋はなんとも無かったから、おそらく君の部屋からなんだろうけど、確認しようにも、部屋が何故か開かないんだよ。こっちじゃどうしようもなくってさ、、。なんとかして欲しいんだけど。」


 な、なんじゃと?い、いや、どうゆう事だ?


 部屋にはスライムとミモリだけだし、お手洗いも洗面台も共有スペースにしかないから俺にも心当たりがない。

 もしかして2人に何かあったのか?!


 取り敢えずどうにかしてくれ、と泣いてすがるマスターを宥めてから俺は駆け足で部屋に上がった。


「おーい!ミモリ!スライム!いるのか?帰って来たよ。」


 ドアノブに手をかけると、ノブがくるりと回った。

 開いてる?


「ゔぅ〜〜ん。なんだこれ?重い、、っ。」

 思ったよりも重たい扉を全体重をかけて押し開ける。


「このドア一体どうなって、、、えっ!?」


 ドアを開けて見た俺の部屋は、足の踏み場も無いほど、、と言うか元の部屋の原型が分からないほどに緑が生い茂っていた。

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