第28話 決戦は大晦日

 2019年はタピオカが大流行した。

 カズマはカエルの卵みたくて苦手だった。

 ユーキャン新語・流行語大賞はONE TEAM(ラグビーワールドカップ2019 日本代表)だ。三矢はリーチ・マイケルみたく髭を伸ばしていた。

 トップテン入賞したのは、計画運休(国土交通省)、軽減税率(秋葉弘道〈有限会社アキダイ代表取締役社長〉)、スマイリングシンデレラ/しぶこ(渋野日向子〈プロゴルファー〉)、タピる(たぴりすと。華恋、たぴりすと。奈緒)、#KuToo(石川優実〈アクティビスト〉)、◯◯ペイ(PayPay株式会社)、免許返納(免許返納された全ての人)、闇営業(FRIDAY編集部)、令和(御田良和〈坂本八幡宮宮司〉)だ。


 あと1日で2019年も終わる。

 一馬は全裸になることで、龍二は異色をすることで、三矢はサイコロを振ることで超能力を使える。

 昨日、一馬のスマホに亘理からLINEがあった。《お元気ですか?2019年も終わりですね?来年は🐭ですね?》

 亘理は『ノックスの十戒』のあと刑事を辞めた。


 チビな高畑を猿みたいだと後藤は思っていた。後藤は警察が憎くて仕方なかった。

 浜村理央を殺したときのことを後藤は思い出していた。


 2007年11月1日

 プロ野球日本選手権シリーズで中日ドラゴンズが北海道日本ハムファイターズを4勝1敗で破り実に53年ぶり2回目の日本一になる。

 その歓喜で会場が沸く中、ドラゴンズのコーチ高遠豊が何者かに毒矢で殺害されてしまう。そして彼がはめていた、値が付けられないほど高価なダイヤモンドの指輪までもが消え去ってしまっていた。国民が注目するこの事件を任された一馬は、7度ノミネートされた名誉賞を今度こそ受賞するため、無能な刑事に捜査を担当させ、マスコミが振り回されている隙に自分たちの精鋭チームで事件を解決する事で、名誉賞受賞を企んでいた。

 そして振り回し役に抜擢されたのは、一馬もかねてから悪評を聞いていた、ドジでマヌケな勘違い女、浜村理央であった。

 愛知県警でもなく、北海道警でもなく何故宮城県警に任されたのか?それは強盗団の車のナンバーが『センダイ』だったからだ。

 

 理央は『ペガサス』という対テロ部隊に所属していた。龍二もかつて所属していたこともある精鋭部隊だ。

 東北の犯罪シンジケートを得意とする理央は、自宅で睡眠中に、後藤に劇毒を投与される。『プロキオン』といわれるその合成薬物は、1時間後には心臓停止に至らしめる猛毒であった。コカインを使い、アドレナリンを出し続けながら、理央は後藤を倒す為に仙台の街中を探し回る。

 理央は『ペガサス』の後輩、本田から宇都宮で後藤を見つけたとのメールをもらった。

 大工町通りのスッポン屋の前で銃声がした。運よく理央は被弾しなかった。

 後藤はスナイパーライフルで狙っていた。

 理央はJR宇都宮駅から黒磯行きの列車に乗った。途中、魚が釣れそうな川があった。西那須野駅で降りると黒服にニット、マスクという怪しい奴が近づいてきて、理央の脇腹に銃口を突きつけた。

 後藤はトリガーを絞った。サイレンサーをつけていたので、あまり音はしなかった。

 後藤は発射間際の列車に駆け込む。

 黒磯駅で降りて定食屋で親子丼を食べた。14時過ぎていて腹ペコで死にそうだった。

 列車が来るまで街を散策した。

『富士胃腸薬』の工場や、オシャレなアパート街、遠くには山脈が見えた。

 

 2019年12月24日

 亘理は福島に旅行にやって来た。刑事を辞めてかなりの年月が過ぎた。今は証券会社で課長をしている。最近、妻と結婚した。

「今年の笑ってはいけないは、青春ハイスクールだって」と妻が言った。

 列車は混んでいて、暖房がやけに熱い。

「だんだん飽きてきた」 

 黒磯、黒田原、白坂、新白河……まるで囲碁みたいだ。

『まもなく〜白河〜、白河〜』


 白河のレトロな駅には駅カフェというのがある。ふれあい通りって地下道を抜けると城の外壁がトンネルを囲んでいる。まるでワープゾーンみたいだった。

 小峰城は阿部氏の居城で、幕末の白河口の戦いの舞台にもなった。城の近くで、殺し屋後藤と遭遇する。亘理は後藤を追い詰めるが、あと一歩のところで取り逃がしてしまう。3日後、一人の男が亘理の家を訪れ、妻を惨殺し、家もろとも焼き尽くしてしまう。亘理自身は飲みに行ってて無事だった。

 亘理は現場に落ちていたチタニウム製の薬莢から、犯人は後藤だと直感し、後藤への復讐を誓った。


 服部はかつて裏社会に身を置いていたが、妻子3人のために足を洗った。龍二のおかげで石巻にあるガソリンスタンドで働いていた。

 12月25日、金髪のチンピラに絡まれた。

「拭き方が甘いんだよ!?なめてんのか!?」

 ぶん殴ってやろうと拳を握りしめたが、吉幾三に似た店長に止められた。

 彼は高利貸しらしい。

 そこにナースの緑明子が、警報装置の交換を行う銀行の地下貸金庫を襲おうという話をもってきた。彼女はナースだったが、給料なしというブラックな環境だった為に犯罪に手を染めることになった。

 

 貸金庫には隠し資産などの人に知られてはならない物ばかりなので被害届も出しにくいという。

 服部は友人ら5人を誘い、計画を練る。

 軍人の井伊に、石巻署のOB富樫、それから青木三兄弟だ。


 大晦日、石巻駅近くの令和銀行に強盗団が押し入る。

 服部たちは銀行の2つ隣の店を買い取り、そこから銀行の地下金庫まで15メートルほどのトンネルを掘ったのだった。

 途中、伊達忍者の地下墓を掘り当て、これが銀行の真下まで続いていたことで、作業は飛躍的に進む。

 穴掘り作業中、近くの建物に見張りを立たせ、無線を使って連絡しているのをアマチュア無線家に傍受されてしまう。

 しかし、石巻署の榊原刑事課長はアマチュア無線家の通報を当初相手にせず、また、真面目に取り上げてからも、具体的にどこの銀行が襲われるか分からず、総当りに当たることにする。貸金庫に入って大はしゃぎで金品を物色する一馬たち。

 ちょうどそのとき、パトカーが令和銀行にやってくる。

 宮城県警に栄転になった本田岬が、金庫の前まで来るが、タイマー錠で開けられなくなっている扉が破壊された様子もないので、中を確認することもなく去る。


 しかし、いつまた戻ってくるとも限らないと、強盗団は慌ててブツを持って逃げることにする。銀行の裏手から走り出た車両を、周辺で見張っていた榊原たちが強引に停車させるが、乗っていたのは、アルバイトで雇われた中年の男だった。

 逃亡車は明子の知らぬ間に別の車を用意してあったのだ。別車両で持ち主が服役しているガレージに逃げ込み、ブツを確認した一馬たちは、驚愕する。

 出てきた物は各国の通貨や宝石だけではなく、大臣をはじめとする有名人たちのスキャンダラスな写真だった。中でもスキャンダラスなのは女優、神保沙耶香の不倫をスクープした写真であった。高級車の中で運転席の男とキスをしてる。

 紛れもなく、明子の雇い主である酒井茂だった。

 一馬が明子を問いつめると、彼女は宮城県警刑事部主査の本田岬から特定の貸金庫にしまわれているブツの強奪を頼まれたことを告白する。

 実は2週間前に明子はロシアからの麻薬密輸で逮捕されていたが、銀行強盗を実行すれば、無罪にすると本田が持ちかけてきたのだった。写真は政治家になったテロリスト、高畑だった。

 このネタで政府をゆすり、これまで逮捕を免れていたのだった。業を煮やした政府は、非合法手段による奪取をもくろみ、本田が立案した強盗作戦を実行させたのだった。


 銀行から2億円の現金と宝石類が強奪された事件は連日大々的に報道される。無線傍受の録音がテレビやネットで流され、服部の子供たちも「パパがラジオに出ている」と騒ぐ。服部の妻は、見知らぬ女の口車に乗って再び犯罪に手を染めた服部を責める。

 榊原は全国の警官たちへの賄賂が記録してある裏台帳が盗まれたことに気付き、これを知らされた汚職警官たちも慌て始める。

 榊原は『酒鬼薔薇』と周囲から馬鹿にされていた。そいつらを全員殺してやりたい。

 モーテルから、特殊性癖にふける姿を隠し撮りしたスキャンダル写真が盗まれたことを知った政府高官たちも回収しようと焦る。

「秋元議員、赤ちゃんプレイはマズイですよ?」

「春山議員こそ、あの女はかなりの性悪ですぞ」

 一馬たちは政府のエージェントや筋金入りのプロの刺客に狙われるようになる。先に香港に逃亡した井伊と富樫は、暴動のさなか何者かによって射殺される。

 徐々に一馬たちは追いつめられ、強奪した『秘密』を巡る、命を懸けた駆け引きが繰り広げられる。

 ところが、マスコミは報道を全く止める。

「高畑の仕業か?」

 アビーロードを三矢や龍二、明子と歩いていた一馬はつぶやいた。


 深夜の山下埠頭、ネオンが虹みたく水面を輝かせていた。本田は神保沙耶香のスキャンダル写真を引き渡せと服部に迫り、本田に寝返った榊原を誘拐して、足の爪を剥いで拷問し、ワシントンにいる一馬たちにたどり着いた後藤も、裏台帳とスキャンダル写真の引渡を要求してくる。

 後藤は、高畑から議員の椅子を約束され、見返りにスキャンダル写真を取り返してやろうとしていたのである。本田に従えば仲間を見捨てることになり、後藤に従えば政府から狙われることになると一馬たちは苦悩する。


 結局、一馬はオアフ島に逃れていた事務所『フェニックス』の社長、富士雅樹に神保沙耶香の写真を渡し、パスポートと不逮捕の保証を受ける。

 富士は政府にも顔が利いた。

 ヌーディストビーチへ人質交換にやってきたヴォーゲル本田らは竜巻に巻き込まれ、命からがら逃亡を図った。三矢がサイコロを振ったら⚀だった。⚀は天の力を手に入れることが出来る。

 汚職警官たちと、一馬たちとの間で銃撃戦になる。

 そこへ、インターポールの御子神警部が駆けつけ、汚職警官と一馬たちの両方を逮捕する。

 パトカーに乗せられた一馬たちは、富士の計らいで、釈放される。


 本田に殺された仲間の追悼パーティーで、明子は一馬の妻に近づく。一馬に好意を持っており、一緒に逃げてほしかったが、一馬にその気はなかったと言う明子に、妻は一馬を許すことに決める。


 スキャンダル写真を入手した日本政府は、ブルースリーをバリ島に向かわせた。

 隠れ家にいた高畑をヘリやボートで急襲、高畑を逮捕し、隠れ家を焼却する。

 高畑は「へんしーん!」と叫ぶと巨大な竜に変身した。🐲

 三矢は腕時計を見てヒャッ!とした。

「ガキ使終わっちまうじゃん!」

「マジかよ!紅白みたかったなぁ!」

 龍二が地団駄を踏んだ。

 高畑は空高く舞い上がると炎を吐いた。

 🔥🔥🔥🔥🔥

 🔥🔥🏨🔥🔥

 🔥🔥🔥🔥🔥

「四面楚歌とはこのことだな?」

 一馬は苦笑した。

 龍二はまだ『吹雪』を使っていないことを思い出した。ティッシュペーパーを口に入れた。

「おまえはヤギか?」と、一馬がツッコミを入れた。

 ❄❄❄❄❄❄

 寒い風が吹き、一面が真っ白になった。

 炎はあっという間に消し止められた。

「最後はおにいちゃ〜ん♪」

 一馬が全裸になると遥か遠くからミサイルが飛んで来て龍と化した高畑を撃墜した。

「ギャァァァァッ!!」

 断末魔が響き渡った。

 一馬は服を着た。

「終わったな?」 

「うん」

 龍二は夜空を見上げた。

 バスンッ!銃声がした。

「ウグッ!」

 龍二がうずくまる。

 スキンヘッドの男が背後に立ってた。

「ワッ、渡瀬?」

 一馬は唖然としている。

 随分昔に逮捕したはずだが?

「この日をずっと待ってたんだ」

 三矢がサイコロを振った。⚀!

 ビカッ!⚡天空を稲妻が走り、渡瀬を貫いた。

 龍二は虫の息だった。

「あっ、アニキたちと、でっ、出会えてよっ、よっ……」

「しゃべるなよ!?」

 三矢は涙を流しながら龍二の体をさすった。

「オマエは俺たちの誇りだ、死ぬんじゃねぇ!!」

 一馬は吠えた。

 兄弟の願いもむなしく龍二は逝ってしまった。

 雨が降り出した。

「アニキが泣いてるみたいだ」

 三矢が天を見上げた。

「いつか、あの世で逢おうな?龍二……」

 一馬はゆっくりと歩き出した。


 

 


 

 

 

 


 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

BLUE🔫THREE 青木三兄弟の事件簿 10万 鷹山トシキ @1982

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ