第26話 ノックスの十戒・前編

 9月27日

 オオサカ・ワカヤマのハンシン高速道路で走行中の車を狙った、改造し殺傷能力を高めたエアガンによる狙撃事件が発生。以降改造エアガンによる狙撃事件が全国各地で多発、社会問題化する。

  

 センダイ市街、バンスイ・ストリートにある最新型金庫の中に50億円の金塊、総重量約1トン。これを手に入れるため、スズキ・リョウヘイは計画を立て、また実行するために多くのプロフェッショナルを集めた。だがそのうちの一人、アイブ・ユズの裏切りで金塊は奪われ、そのうえ、リョウヘイが母のように慕っていたスズキ・リオの命まで奪い去った。


 その一年後、フクシマでスズキたちは、リオの息子で錠前屋のツヨシを金庫破り担当とし、金塊の再奪取を計画。


 9月29日

 プロ野球・セ・リーグ、ハンシンタイガースが2年ぶり5度目のリーグ優勝。


 平成の大合併も山場。これまでで最多の50新市町村がこの日一日で誕生。


 10月5日

 アイチ万博のマスコット、モリゾー・キッコロをセト市が住民登録する。

 巨人、ハラ・タツノリ氏が監督に復帰。


 10月14日

 郵政民営化関連法案が成立。


 10月15日

  キュウシュウ国立博物館開館。16日に一般公開。

 

 10月16日

 フクダ電子アリーナにて初試合(チバvsヨコハマFM)が開催される。


 10月17日

 コイズミ・ジュンイチロウ首相が2004年1月1日以来となる靖国神社参拝を行う。


 プロ野球・パ・リーグ、チバロッテマリーンズがプレーオフを制し、31年ぶり5度目のリーグ優勝。


 10月18日

 トヨタ自動車が、1969年の制度開始以来過去最大となる127万台のリコールを届け出る。


 ノックスの十戒はロナルド・ノックスが1928年に『探偵小説十戒』で発表した、推理小説を書く際のルールである。


 S・S・ヴァン=ダインによる「ヴァン・ダインの二十則」と並んで推理小説の基本指針となっている。日本では江戸川乱歩が『幻影城』の中で紹介している。


 ①犯人は物語の当初に登場していなければならない


 ②探偵方法に超自然能力を用いてはならない


 ③犯行現場に秘密の抜け穴・通路が二つ以上あってはならない。


 ④未発見の毒薬、難解な科学的説明を要する機械を犯行に用いてはならない。

 

 ⑤中国人を登場させてはならない

 

 ⑥探偵は、偶然や第六感によって事件を解決してはならない

 

 ⑦変装して登場人物を騙す場合を除き、探偵自身が犯人であってはならない。


 ⑧探偵は読者に提示していない手がかりによって解決してはならない。


 ⑨サイドキックは自分の判断を全て読者に知らせねばならない。


 ⑩双子・一人二役は予め読者に知らされなければならない。

 

「お兄ちゃん、サイドキックって何?」

 ミツヤが尋ねてきた。

「フィクションに登場するキャラクターの役割の一つであり、ヒーローと行動する相棒や親友だよ」

「あぁ、キンダイチ少年の相棒のミユキとか、コナンの相棒のランとか?」

「そんなところだな」


 10月15日、JRセンゴクラインのミヤギノハラ駅近くのアパートにおいて、アマダ・ソウイチロウは借金の返済資金を調達できなかったことで甥のアマダ・リョウからなじられてビールの缶を投げ付けられたことに腹を立てた。そのことがきっかけで、借金とともにリョウを消し去ろうとしてリョウに殺意をもって、頸部を両手でしめて窒息死させた。

 その後、カッターナイフで四肢などを六つに切断し、黒色ビニールに入れてヒロセ川に遺棄した。

 以上がワタリの推理だ。

 バラバラ死体を発見したのはウォーキングをしていた会社員、ツツミ・ワタルだ。19日の早朝のことだった。


 📗『ヨコミゾの事件簿』エンドウ・マサチカ

 学習塾の経営者、ヨコミゾ・マリエは突然、自宅に押し入ってきた男たちに夫を殺害され、自身は誘拐される。犯人のリーダー格のアキカワ・リエはマリエをある家の屋根裏部屋に監禁。さらにその部屋にあった電話器を破壊して出て行く。マリエは粉々になった電話器の部品を組み直し、発信を試みる。たまたま繋がったのはリエの兄、アキカワ・ケンの携帯電話だった。

 ヨコミゾば①はクリアしているが、⑤をクリアしてなかった。

 マリエの協力者にリーというカンフーの使い手がいる。

 結局、マリエはリーの支えもあってリエを倒すことに成功した。

 

 10月20日の未明、センダイ市ショウワ町の民家に何者かが侵入して2人の人間を殺害後、建物に放火した。殺害されたのはエンドウ・マサチカ(38歳)、シマダ・マサノブ(45歳)だった。

 また、マサチカの恋人、アイザワ・キョウカが前日の午後11時頃にマサチカのケータイに電話をした際には異変はなかった。デートの約束をしていたらしい。


 午前4時25分頃、近隣の住人から119番通報があった(出火は午前4時すぎと思われる)。当初は事件性のない民家火災と思われたが、室内の灯油を撒いた跡や遺体にも損傷の痕跡があったことなどから、ミヤギ県警のアオキ・カズマはすぐさま殺人放火事件の捜査に切り替え、特別捜査本部が設置された。


 犯人の侵入経路は正確には分かっていない。玄関や勝手口(台所および風呂場前の通路に繋がる)の他、1階の窓は全て鍵が閉まっており(高熱で変形し確認できない窓もある)、唯一2階の長男の部屋の窓は網戸だったことから入ることは可能だったが、2階に上るための梯子をかけた跡など犯人の侵入した形跡は見つからなかった。車庫内の所定の場所(物置)に勝手口の鍵が隠されていたが、この鍵は同場所から発見されており、犯人が入出時に使用したか不明である。


 エンドウ宅ではポメラニアンを飼っていたが、事件発生時に「犬の吠える声」は近隣住人に聞かれていない(普段はよく吠えていた)。また、首輪も外されており、火災時には被害者宅の車の下に隠れ生存している。


 灯油の撒かれた跡は遺体周辺の他、被害者宅の広範囲に及ぶが、一方で被害者宅には灯油が元々なかったとされており、犯人が持ち込んだものとカズマは考えた。

 被害者宅から散乱したマッチの燃えかすや灯油が染みこんだ新聞紙も発見されており、火をつけて逃走し逃げる時間を稼いだ可能性も考えられる。また、被害者宅周辺(庭や犯人が逃走したと思われる道路など)からは犯人の血液反応が出ておらず、殺害時に返り血を浴びた犯人が着ていた衣類なども現場で一緒に焼却した可能性がある。その他、犯人の遺留品などは見つかっていない。


 犯人が貴金属類や預金通帳などに触れた形跡はない。また、被害者宅から見つかった財布には現金が入っていなかったが、犯人により抜き取られたかは不明である。被害者宅から燃え残った現金が発見されたという報道もある。


 被害者宅周辺は住宅街ではあったが、事件当時は街灯が少なく夜は比較的暗かった。


 エンドウは刃渡り約20センチのサバイバルナイフで顔や背中など十か所以上を執拗に刺されたことによる出血性および外傷性ショック死とみられる。刺創幅は3センチ程だが、肺に到達している深い傷もあった。


 シマダには刺し傷がなく、金属製(バールなど)の鈍器のようなもので殴られたことによる頭部の損傷(数センチほどの陥没骨折あり)が確認され、それぞれ急性クモ膜下出血、脳挫傷が死因となっている。何度も殴られた痕跡はない。


 2人の遺体には抵抗した痕跡(防御傷など)がなく、寝ているときに襲われた可能性が高い。肺に溜まった煤の状況から2人は放火後もある程度生きていた可能性がある。

 また、同じく煤の状況からシマダ、エンドウの順に死亡したと考えられる。

「相当、苦しんだでしょうね?」

 ワタリはつい最近、センダイキタ署に異動になった。ショウワ町はキタ署の管轄だ。

 シマダとキョウカも推理作家だったことが明らかになった。


 📘『華麗なる闘い』 シマダ・マサノブ

 クラウンマジェスタに乗り、時計はGショック、常に灰色の背広を身に纏い青いネクタイを締めた冷静沈着な男、ワタリ。彼はセンダイ署の新人刑事だ。

 ある日ワタリの噂を聞きつけたアオキ・カズマから、8歳の娘、モエカの通学の際の送迎を頼まれる。


 モエカを連れて行ったデパートで先回りし国際テロリスト集団の女テロリスト・ヨシタカ・ユリコがいきなり発砲。危機一髪難を逃れて自宅前に着いたが、二人の元に脅迫電話がかかり、子どもの命が惜しければ指定した場所に連れてこいという。

 脅迫を知らないで失踪した車を見たカズマにまで追われることになる。車の外では冷酷なユリコが拳銃を構えていて、命令でたどり着いたのはアジトだった。

 ボスのクサブエ・アサエは謎の薬品をワタリに注射する。


 ワタリは妻子の許へ無事帰ったが、正体不明の熱に襲われ、妻子も咳が止まらなくなる。タナカ・マサノブ警部の協力もあり、注射液の正体を調べ、究極の殺人ウイルスということが判明。

 タナカはアジトにある解毒剤を一つだけ手に入れ、ワタリに注射。

 アサエがヘリで逃走するが、ワタリはクラウンマジェスタで追いかけ、離陸した飛行機に乗込む。結末はワタリが富士山頂でアサエを射殺している。

 ①のルールを破っている。

「だから、シマダは殺された?」と、リュウジ。

「その可能性はあるな?」

「それにしても、アニキも出てるんだな?」

「主人公じゃないのが悔しいな」

「シマダはアニキのことを知ってたんじゃ」

「気味が悪いな、俺はあんなオヤジ知らないぞ?」

「犯人は2人いたんじゃ?」

 リュウジが言った。

「どーゆーことだ?」

「エンドウとシマダの死因が異なってる理由だよ」

 カズマはリュウジは全裸でもないのに鋭いな?と思った。

「1人はバール、もう1人がナイフを持っていたんだよ」

「なるほど!」


 ワタリはアマダ・リョウの裏の顔を知った。彼は推理作家だった。全くの偶然だった。アヤツジ・ユキトの『館シリーズ』が読みたくて図書館に出かけたら、アマダ・リョウマというコーナーを見つけたのだ。

 

 📙『冷酷』アマダ・リョウマ

 シンジュクに住む、ギャンブラーのミツヤは冷酷卑劣な政治家、アサクラ・タクゾウの陰謀で7年間投獄されたが、刑務所の中であらゆるペテンの技術を学んで出所してきた。出所したミツヤはアサクラの裏カジノで大金を巻き上げることに成功するが、逆上したアサクラは殺し屋のマガラを雇ってミツヤを殺そうとする。ミツヤがマガラに襲われたそのとき、ヒョットコのお面をかぶった謎の人物が麻酔銃でマガラを倒してくれた。

 ミツヤはアサクラに復讐を果たすことは出来なかった。ヨヨギにある廃墟で首吊り死体でマガラとともに発見されたのだ。

 ミツヤは犯人が誰なのか知りたかった。

 ミツヤはIQの上がる不思議な玉があることを知った。仙人から聖なる刀を手に入れた。イズモに棲むヤマタノオロチを倒すと青く輝く玉を吐き出した。玉を手に持つとミツヤのIQが急上昇した。

「真犯人は公設秘書、アケチ・ジュンだ」

 ジュンは女優のヨシナガ・サユリみたいな清楚な感じの女だった。アサクラは核開発を密かに進めていた。ジュンはそれを阻止しようとして手を汚した。

 

 ワタリが本を閉じるとケータイが鳴った。

「はい、ワタリです」

 上司のゼニガタ警視からだった。

《殺しだ》

 


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